それぞれの業
「やっとこの日が来た!」心の中に煮えたぎるような思いを抱えながら、私は市役所の待合席で地団太を踏みながら自分の順番を待っていた。
「お次の方、カウンターへどうぞ!」
職員が私の方を見ながら声をかけると、私はすぐさま駆け寄った。
「今日はどういったご用件でしょうか?」
淡々とした従業員の態度に私は少し冷静になり、声を荒げないように言った。
「名前を、名前を変えたいんです!」
「・・・お名前ですか?可能ですが、成人されていない場合は親御さんの許可が必要ですよ?」
知っている。知っているとも。だからこそ私はこの時を待ち続けたのだ。
「今日で二十歳です。これ免許証です!」
私は財布から免許証を取り出して、カウンターに並べた。
「ああ。確かに。では、失礼ですが、今のお名前は何とおっしゃるんですか?」
「・・・光鼠です」
「え?」
「ですから、光鼠です!」
そう。大のポケモン好きの両親のもとに生まれた私の名は光鼠、子供のころからこの名前でずっと馬鹿にされ続けてきたのだが、両親に言ってもかわいい名前じゃないかと言うだけで取り合ってもらえなかったのだ。
「それは確かに、生きづらそうですね・・・。ただ、これは職員としてではなく一人の子を持つ親として言わせていただきますが、やはり親御さんとしっかり話をした上でお名前を変えるほうが良いと思うのですが、如何でしょうか?」
私は憤怒した。この名前を聞いてまともな両親だとでも思っているのだろうか?
「あなたに私の何がわかるというのですか?友達には何時になったら進化するんだと馬鹿にされ、近隣の住民には草むらには気を付けなさいとからかわれるんですよ?あなたにこんな経験がありますか?」
私は目じりに涙を浮かべ名が訴えると、職員は困ったように笑いながらこう言った。
「私の名前は健という普通の名前ですが、ここでは「ブサイク剣心」と呼ばれています」
彼のネームプレートが鈍く光り、私は後日、両親を連れて市役所を訪れた。