風呂上がりにパンイチでウロチョロするタイプの女子高生
◇
【相原ってギターやってんだ】
【だから水嶋と仲良かったのかね?】
【そんなの今どうでもいいっしょ。 相原マジでなにやってんだよバカじゃないの】
【水嶋さんの歌声聴いてみたい相原のギターはどうでもいい】
【これって相原君がやらせてるんだよね!? 生卵を投げたのも相原君だろうし。 ゆうりー、やめなよホント……】
【一緒に歩いててDQNに不釣り合いなのバカにされて反撃したと予想】
【ありえそう! 状況わからんけど、陰キャくんはゆうりちゃんの前でイキりたかったんだろうね〜( ;∀;)】
【もしかして水嶋さんって洗脳されてるんじゃね?】
【つうか相原はやく出てこいやwwwww】
◇
水嶋が開設した『祥雲寺レムバスターズ』のアカウントが貼られてから、クラスのトークルームは俺への批判で溢れていた。 コバは電話で対応してくれた時とは別人格のようで、【声出して笑った】と発言してから一度も出てこない。 クラスメイトに対する『表の顔』はこのノリで行くよ、と言うことなのだろうか?
【お騒がせしてます。 色々あって、今大変な事になってます。 ご迷惑をお掛けしてすみません】
俺は悩んだ挙句、この文章をトークルームに投下した。
……新着メッセージが雪崩のように押し寄せる。 俺への罵倒が散見されたので即タスクキルの措置をとって事なきを得た。
「ねぇねぇ! もしかして祥雲寺レムバスターズって、かなり戦力高いんじゃない? 」
コバと愉快な仲間たちが助太刀してくれるかもしれない、と電話でのやり取りを伝えたところ、水嶋は嬉々としてこう返してきた。
俺はむしろあの集団よりも、ボブを参戦させたら百人力なのではないかと考えている。 黒人の友達を二、三人連れてきてもらうだけでDQN軍は戦意を喪失するだろう。
「んー、でもまぁ……ああいう人たちの見た目のイカつさって、要はファッションだろ? 女の子がフリフリのワンピースを着る感覚で、筋肉付けたりヒゲ生やしたり」
「んふっ。 その表現は面白いね? 私も見たかったなぁ、コバの友達」
「壮観だったぞ。 みんなさ、すごく優しそうなんだよ。 ……でも、そうだな。 怒らせたらとんでもなくヤバそうな感じだった」
「あー、あー! イメージできる! なんかさぁ、テレビに出てるオネェタレントもみんなそんな雰囲気じゃない? 」
言われて数名想像してみたが、まさにその通りだった。
「水嶋は好き? あのスタイルのタレント」
「好き。 コバもライバルという事に目を瞑れば、面白いからわりと好き」
「……コバいい奴だよなぁ」
繁華街から一本逸れた裏通りを歩く。 一部のマニアにしか需要がなさそうなアンティークショップや古着屋。 いわゆるマイナージャンルのお店がポツポツとあるだけで、人通りはほとんどない。 このまま進んでいけば阿御ヶ谷駅に辿り着く方向だ。
「セクシャルマイノリティの人ってね、小さい頃から自分は他の人と違うって現実と向き合わざるを得ないから、自然と思考力が高くなる傾向にあるんだって」
「へぇ、あぁ……。 なんか説得力あるな。 誰が言ってたの? 」
「ラジオでオネェが喋ってた」
「完全にオネェの主観じゃねぇか。 ……水嶋ってラジオなんか聴くんだ? 」
「ラジオ好き。 いつもお絵描きしながら聴いてる」
音楽ではなくラジオという所が、いかにも水嶋らしい。 あの部屋でラジオを聴きながら絵を描いている水嶋を想像したら、なぜだかほっこりした気分になってしまった。
「俺も聴いてみようかな……」
「深夜のTGSラジオおすすめだよ。 特に木曜」
ここまで彼女はずっとスマホを操作しながら喋っていて、器用な奴だな、と感じていた。 スマホからの情報を取り込みながらまともな会話を交わすなんて芸当は、俺には出来ない気がしたからだ。
「コバはどうやってあのメンバーと繋がったんだろうと思ったけど、普通に考えてネットだよな」
「だろうねぇ。 身近で探そうとしたら大変だもん」
「カミングアウトっていう現実では一番ハードルの高い部分が省けるもんな。素性を明かさなくてもいいし、紹介文に性癖を打つだけで同士が集まれる」
「それにわざわざ文句つける人も居ないし、居てもすぐブロック出来るからね」
「だよなぁ。 コバに関しては……あのイケメンパワーが男子にしか向けられてないと思うとなんか勿体なく感じるな。 コバの事を好きな女子ってたくさんいるだろ? 」
「そりゃあいるよ、いる。 あいつぁモテモテですわ。 マイコちゃんわかる? 」
「松村だろ? 同じクラスの女子くらい把握してるよ」
松村麻衣子はとても大人しく、あまり目立たない文化系メガネ女子だ。 顔面のポテンシャルはおそらく平均以上だが、飾り気がないイメージだった。 需要はありそうな雰囲気を持ってる気がする。
「あの子は一年生の時からコバが大好き。 一目惚れらしいですよ」
「へぇ! 全然知らなかった。 すげぇ意外だ……。 現実を知ったらショックだろうな」
「ノンノン。 マイコちゃんはね、BL漫画とか小説が大っ好物なんだ。 ホモが大好きでぇ、コバが大好き。 つまり……二枚抜き」
二枚抜きという表現が面白くて、人目も憚らず爆笑してしまった。 なるほど……それなら恋が実らなくても大ダメージには至らない。 それどころか別の楽しみ方を見出せるだろう。
ホモが好きだという感覚は全く理解できなかったが、俺が水嶋のレズ……つまり百合シーンを想像してほんの少し興奮する気持ちを百倍に濃縮したものだと思えば、なんとか腑に落ちる。
「マイコちゃんの趣味もそうだけど、理解のある人の方が少数だよね? でもスマホをちらっと覗くだけで同じ趣味の人がワンサカ集まってる」
「うん、リアルで周りにも堂々と言えるようになりそうだよな。 同じ趣味を語り合うことに慣れて、少数派って意識が薄まるだろうし」
「ネットがなかった時代の人達は窮屈さを感じてただろうなぁ」
「松村みたいな趣味に関してはそうでもないんじゃないか? 窮屈さも込みで楽しむというか……。 誰にも邪魔されない、自分だけの空間で遊んでるみたいなさ」
「あー! ちょっとわかる。 マイナーな趣味って特別感があるね? マイコちゃんも、『BLのマイコ』みたいに一瞬で個性が付くもん」
「そうそう。 マイノリティである事自体に価値を感じられる人は結構いるだろ」
「私もそうかも。 ゆうなちゃん……妹が勧めてくる洋服とか、漫画とか、恋愛小説は全部拒絶するもんね。『流行り物に流されないゆうりちゃん』という印象を周囲に与えたい気持ちがある」
水嶋は松村にBLの良さを力説された時の話を始めた。
松村の話はとても面白かったそうだが、BLの良さは伝わらなかったらしい。
議論を白熱させて松村からおもしろワードを引き出す為だけにBL否定論を展開したが、ズタボロにねじ伏せられた、と水嶋は語った。
「あれは楽しかったのぉ」
「自分の趣味の魅力を力説してる人って、もれなくみんな輝いてるもんなぁ。 俺には力説できるほど好きなものなど一つもない」
「悲しい締めくくりやめて 」
おとなしい松村が、水嶋にホモの素晴らしさを説いて議論を交わしている場面を想像したら、とても微笑ましかった。 是非ともその場に立ち会ってみたかったものだ。
「……んっ? ちょっと待て水嶋。 松村って時々、昼休みに小説読んでるけど……あれBLなのか? それって男が教室でエロ漫画読んでるようなもんじゃないのかおい!? おれ今後、昼休みの松村麻衣子から目を離せなくな……あれっ? 」
——水嶋が突然、視界から消えた。
すぐに振り返ると、道路の真ん中でうつ伏せに倒れている。
「またなんか仕掛けてくんのか。 懲りないな本当に」
呆れながら近付いて笑ってしまった。 転んだとしたら受け身を取った様子も一切なく、直立姿勢をそのまま横倒しにした形で倒れている。
「おら、起きろこら……ふんっ! 」
うつ伏せの水嶋をひっくり返す。
一瞬で血の気が引いた。
おでこから血が出ている。
半開きになった目は、血走った白目だった。
「おっ、おい水嶋っ! どうした! 何があった!? 」
何度揺さぶっても反応がない。 俺はハッとして胸に耳を当てみた。 よかった……心臓はトクトク動いていて、微かな息遣いも聞こえてくる。 けどこの状況は明らかに異常だ!
「きゅ、救急車ぁ! 誰か救急車呼んでぇ! 」
手が震えてスマホを操作できない。 自分のポンコツさが忌々しい!
「救急車呼ぼうか? 」
後方から女性の声。
「お願いします! 早くっ! 水嶋っ、起きろ、おい水嶋! 」
「あの……。 あんまり動かさない方がいいんじゃない? 」
「あ、そうか……。 そうですよね、どうしよう、どうしたら……」
「落ち着いて慶ちゃん」
——慶ちゃん?
声のする方向を見たが、誰もいない。 というか、見える範囲に歩いてる人間は一人も居なかった。
「えへへ……」
脳内に直接……? いや、確実に音源があるし、間違いなく水嶋の声だ。 リアルではずっと自分の口から放たれていたので、その愛らしい声を久し振りに聞いた気がする……。 声の方向を注視していると、その部分だけ人型の、陽炎みたいなものが浮かんでいた。
「まさか……! 」
「そのまさかだよ……! なはは」
「……水嶋、抜けてる……のか? 」
「へへ……抜けちまったみたいだぜ。 私のこと見える? 」
見えない。 陽炎がゆらゆらと動いているだけだ。
「その感じだと見えてないね? よかったぁ。 なんか……恥ずかしい格好で抜けたんだよなぁ」
こんな真昼間から幽体離脱? 聞いたことがない、ありえない。 どうなってる? 西上が言っていたように、幽体離脱の法則が狂っているのか? ……だとしてもまず、この抜け殻になった相原慶太はどうすればいい。 どう処理する? バラバラにしてどっかに埋めるか?
……いや違う、違う。 方向性を間違ってはいけない。
「さて、コロラドに向かうか……。 幽体なら太平洋もひとっ飛びだし」
……不可視の女が可愛い声で何か言っている。 ここは聞こえなかった事にしよう。
「大丈夫ですか!? いま、救急車をよびますからっ……! あっもしもし、高校生くらいの男の子が路上で倒れています。 はい、えっと、場所は……」
今度は生身の人間だ。 どこかのお店から出てきてくれたのだろう、エプロン姿のお姉さんがスマホを耳に当てて、早くも救急車召喚の呪文を唱え始めている。 気持ちは非常に嬉しいが、今、相原慶太の抜け殻をスティールされる訳にはいかない。
「きゃっ! 」
強引にスマホをスティール。
「あっ! もしもしぃ? お電話代わりましたぁ! もう大丈夫です、大丈夫なんでスミマセン。 解決しましたので! 」
「ええっ!? 」
「お姉さん、ご心配お掛けしました。 スマホスティールしてすみませんでした。 もう大丈夫ですのでご心配なくっ! 」
「あ……いやでも、その子、まだ気を失ってるんじゃ……」
「いえ。 寝てるだけなんです。 この男はそういうクセの強い体質があるんでした。 ウッカリ忘れてて……ほら、この通り」
俺は、俺の抜け殻になった上半身を無理矢理起こし、片手を掴んで左右に振ってやった。 親切なお姉さんへのサヨナラを表現したつもりだったが、お姉さんは口をポカンとあけてから「でも、白目を剥いて……」と呟いた。
「慶ちゃん、口をパクパクさせて腹話術的なやつもやっといた方が。 だいじょぶだぁっつって」
「うるさいな! 」
「えっ!? 」
「あ、違うんです。 えっと……この人は白目剥いて急に寝ちゃうんですよ。 発作みたいなもんで、アハハ。 すぐに目を覚ましますから……そうだ! このリュックの中に薬もあるんです! 」
抜け殻が背負っているリュックを開き、流れるような動作で例の茶封筒をお尻のポッケに滑り込ませる。
「あれぇ、クスリどこだったかなぁ〜? あ、本当にもう大丈夫なのでっ」
「そ、そうなのですか……? じゃあ私、仕事に戻っても……? 」
「はい、はい! 戻ってください! お仕事のお邪魔をして本当に申し訳ありませんでしたっ」
「あぁん。 慶ちゃん、お金そんなとこに入れてたら落とすって」
「黙ってろぉ! この守銭奴がっ! 」
「えぇ〜……? リュックに入れときなよぉ」
「しゅ、しゅせんど? えと……? 」
「あ、違うんですお姉さん、今……私の脳に埋め込まれている……あ、ICチップ? マイクロチップ? かなんかに通信が入ってきまして、あの、とある博士と会話を……」
「わ、私行きますねっ。 お大事に! 」
お姉さんは足早に去っていき、向かいにある雑貨屋さんらしきお洒落なお店に消えていった。
……まずいぞ、後方から赤い乗用車がノロノロと近づいてくる。 俺は抜け殻をガッシリと抱えて道路端に寄せようと試みたが、いかんせん重い。 こんなに貧相な俺の身体だが、水嶋の肉体では引きずるだけでも一苦労だ。
「……うおらぁぁあ! 」
なんとか道路端まで運んだ。 赤い車を運転していたおばちゃんがサイドウィンドウを下げて声を掛けてきたが、息が詰まって返事が出来ないので、親指を立てて応える。
「ハァ、ハァ……。 ど、どうすんだこれっ……! 」
むしろ救急車に乗せて病院にぶち込んでおいた方が良かったか……? 正常に頭が回らない。 どの道を行けば正解なのか、二メートル先すら見えないほどの濃霧で判断を下せない。
「今のお姉さん可愛かったなぁ」
陽炎が目の前にいる。 俺は道路の端でぐったりと横たわった抜け殻を渾身の力で引きずって、古ぼけたアパートのブロック塀に寄りかからせた。 俺の身体がテディベアの如き愛くるしさで地べたに座る形になる。
「ハァ、ハァ……ハァ、ヒューッ」
もう虫の息だ。 水嶋の筋力と心肺機能を極限まで振り絞った。 脳に酸素が回っていないのがわかる。
「フーッ、ハァ、み、水嶋……。 シューッ、ゴホッ! これ……俺の抜け殻、どうすればいいんだ……? 」
「そのまま鳥葬でいいでしょ、そんなもん」
「ちょうそう……? 『鳥葬』か……! けどこんなヒョロガリの不味そうな人間を食う鳥が日本に生息してるか……? 」
「私が鳥だったら慶ちゃん食べれるけどねぇ」
「でもお前は鳥じゃないからな……」
「うん。 慶ちゃんは鳥も食わぬ人間だから処理に困るね」
水嶋の声がする方向に視線を送る。
さっきよりも陽炎が濃い。 『陽炎が濃い』という表現が合っているかわからないが、明らかに数分前よりもくっきりと身体の輪郭を視認できた。
「鳥葬は無理かぁ。 言われてみればカラスでも『なんだヒョロガリの死体かよ』とかって適当に突っついて、生ゴミ漁りに戻りそう」
「俺を育てた両親に謝れよ」
水嶋が居るのは座り込んでいる俺の斜め上だ。 一メートル程浮かんでいて、前かがみの姿勢で身体を震わせている。 まるで笑いを堪えてるような体勢だ。 そのくらい明確に、陽炎が見えた。
「ねぇねぇ、鳥も食わぬヒューマン」
「採れたてのピーマンみたいに言うな」
「名案を思いついたよ」
「……申せ。 俺はもう容量オーバーで脳がパンクしている」
「その抜け殻はどこかのベンチに寝かせて、顔に週刊少年チャンプを被せておく。 それで二時間は稼げるでしょう」
想像してみる。 ……なるほど、ベンチで昼寝をしている休日の高校生を演出するということか。 いやそんな奴いるか?
「高校生が寝てても不自然じゃないベンチなんてどこにある? 」
「そこはわたくしの機動力で、一番近い所を探してきますよ」
水嶋の陽炎が目の前で飛び回る。 道路の真ん中を八の字に飛行しているようだ。
ようやく正常に動き出した俺の思考は、最適解に『自宅』を弾き出したけど、なんせここから遠すぎる。
安全なのはなにより個室だ……カラオケ、漫喫、ラブホテル。 どれも白目を剥いた俺の抜け殻を連れ込むのはリスクも難易度も高い。
「行ってくらぁ! 」
……水嶋の陽炎が飛び去っていく。
抜け殻の隣に取り残された俺は、また少し冷静さを取り戻した。
「そうだ、紫苑さんがいる……! 」
勝手に一人で抱え込まなくていいんだ。 この状況を理解してくれる人間がちゃんと存在しているんだから、頼ってみよう。
履歴から紫苑さんの着信をタップ。 コール音が鳴る。
『もしもーし』
「紫苑さん、今って暇ですか? 車出せませんか? 」
『慶太か? いきなりなんだよ。 暇な訳ねーだろ、院生ナメんな』
祥雲寺のトークルーム開設して楽しんでただろうが。 暇なのは分かってるんだぞ紫苑さんよ?
「水嶋が真っ昼間から抜けました」
『真っ昼間にヌいてもらった? 外で? 最高じゃん。 じゃあ賢者にジョブチェンジか』
「……こっちには抜かれる竿がないんですよ。 紫苑さん、真面目に聞いてください。 水嶋が幽体離脱したんです、こんな真っ昼間に」
『……へぇ、スゴイな。 肉体は……お前の身体はどうなってんの』
「白目剥いて、気絶してるような感じです。 全く起きません」
『いや救急車呼べよ』
「やっぱそれですかね……」
『ゆーりちゃんはどうしてる? というか、ゆーりちゃんの幽体って視えるのか? 』
「姿は見えないんですけど、陽炎というか、水嶋の居る場所だけ空間が歪んでいるような感じです。 声だけははっきり聞こえて……今はどっか行きました」
『おもしろいな。 見に行きたいけど、ちょっとまだ外せないわ』
電話口から紫苑さん以外の女性の声が聞こえてくるが、何を喋っているのかはわからない。
「誰かといるんですね? 」
『あー、慶太トークルーム見てないもんな。 今アイカの家に居るんだよ、家庭教師で』
「アイカ!? アイカの家庭教師なんかやってたんですか! 」
『というわけで二時間拘束だから悪いな。 お前の身体は病院にぶち込んどけよ。 それが嫌なら、なんとか二時間凌いどけ。 んじゃまた』
切れた。 アテにならねぇ院生だなクソが。
「けーいっちゃぁーんっ! 」
全開の笑顔が容易に想像できるほど、底抜けに明るい叫び声が、後方上空から聞こえてきた。 俺はぐっと背中を仰け反らせる形で、その方向を見上げる。
——反転した世界。
両手を広げ、クルクルと横回転しながら舞い降りてくる天使がいた。 ブカブカのTシャツの裾をはためかせ、120%の笑顔を360度、全方位に振りまきながら降りてくる。
ふわっと俺の頭上で静止した天使の下半身は、ヒラヒラが付いた薄ピンク色のパンツ一丁だった。
「水嶋って……。 風呂上がりとかに、パンイチでウロチョロするタイプ? 」
愛くるしい天使は目を見開くと、口元をせわしなく稼働させながら顔面を真っ赤に染める。
「みっ……! 見えてるんじゃないかぁっ!! 」
両手で顔を覆い隠し、反転して飛び去っていった。




