『タマトギの巫女』
キィキィと鳴き声を上げる薄暗い廊下を進み、俺と水嶋は座敷に通された。
中央には大きなちゃぶ台があり、準備していたかのように座布団が三つ置いてある。 古風な建物と内装に比べて、家電製品は最新式のものばかりなのがアンバランスだった。
「すぐにお茶を淹れますので、そちらでお寛ぎください」
声をかけられた水嶋はすっと胡座をかき、ちゃぶ台の上に置いてあったリモコンを操作して一通りチャンネルを回すと、旅番組でその手を止めてゴロリと寝転がる。
「ふてぇ野郎だ。 シラス家の常連みたいな振る舞いすんな」
返事はなく、鼻を鳴らす音だけが聞こえた。 身体はテレビの方を向いているけど、庭の方を眺めているようだ。
縁側を挟んでペストが眠っている件の庭が見える。 ゴルフ場のグリーンみたいに刈りそろえられた芝生には雑草一つ生えていない。
「お待たせしました。 ちょうど昨日、いいお茶を頂いたので召し上がってみてください。 お茶菓子を用意しますね」
「あの、シラスさん……本当にお構いなく」
シラスは立ち止まる。
振り返って憂いを帯びた瞳を俺に向けると、そのまま言葉を発さずに台所へ戻っていった。
「ダメだよ慶ちゃん、幽体と同じように接しないと。 そう言われたでしょ」
「さすがに無理があるだろ。 幽体のシラスとは別人だ」
「見た目に惑わされるなんて愚かだよ。 心で向き合うの」
「聖人ぶってんなよ。 人は見た目が6割だ」
「ほう、良心的な割合だねぇ」
シラスがお盆の上にカステラと湯呑みを乗せて戻ってきた。
「お友達をこの家に呼ぶのは初めてなので、うまくおもてなしできるかどうか……お二人は甘いものがお好きですか? しょっぱいお菓子も用意してますけど……」
喋りながら、急須でお茶を注いでいる。
「カステラ大好き! 朝ごはん食べてないからお腹がペコペコだぁ」
「ゆうりちゃん朝ごはん食べてないんですか? 炊飯器にご飯が残ってますけど食べますか? お漬物とお味噌汁くらいならすぐに用意できますが……」
平然と、俺の身体に向かって『ゆうりちゃん』ときた。
「ううん、大丈夫。 どうせ慶ちゃんの身体だし、普段セーブしてる甘いものでお腹を満たしたいから」
こちらも通常運転。
「うふふ。 カステラはですね、日本茶と本当によく合うんですよ。 もしタイムスリップ出来るなら、カステラが日本茶と初めてコラボレーションした特異点に立ち会いたいくらいです。 さぁ、召し上がってください」
その特異点は戦国時代くらいだろうか。
「いただきまぁす! 」
「慶太さんは甘いものいかがですか? ……慶太さん? 」
「うん、ありがとう。 いただきます」
カステラを頬張って、水分を奪われた口内に熱い緑茶をちびりと流し込む。
まろやかに広がるカステラの甘みと、緑茶の香り高い渋味が渾然一体となって脳内に幸せの幟をはためかせた。
シラスは俺の顔を見て満足そうに頷くと、再び台所へと踵を返す。
「おいしぃ〜……幸せ。 茶色の所にザラメが入ってるね。 本場のヤツっぽい 」
「そんな事より、俺たちの入れ替わりをすんなり受け入れてるぞアイツ」
家の主は自分のマグカップを両手で掴んで戻ってくると、ペストの眠る庭を背にして姿勢よく座布団の上に正座した。 飲み物は俺たちと同じお茶ではなく、ブラックコーヒーみたいだ。
「もうすぐ陽が庭の方向から差してきます。 私くらいの歳になると、太陽に背を向けて過ごすようになるんです。 太陽の光はあまりにポジティブ過ぎる」
障子閉めろや。
「俺たちが入れ替わってることを、どうしてすんなり受け入れられるんですか……じゃない、受け入れられるんだ? 」
話しながらも意識が敬語に向かってしまうから、軌道修正が必要だった。敬語で不機嫌になる大人と立ち会ったことはない。
「それはお二人にも同じ事が言えるのでは? とっても楽しそうですが、どうして普通にしていられるんです? 」
隣の水嶋は半分残ったカステラを一口でいって、齧歯類のように頬を膨らませている。
「俺たちは当事者だから事実を受け入れるしかないだろ? 現に紫苑さんは疑ってきたし、入れ替わりの証明を求められたよ」
「僕は証明してもらう必要がないと判断しただけです」
「入れ替わりはあり得る話だと思ってるのか? 」
「もちろんですよ。 だって僕たちは日常的に幽体離脱している訳ですから、その魂が帰る場所を間違えることだってあるかもしれない」
「もしかして……実際に入れ替わりの前例を知っている? 」
「はい」
「本当かよ……」
「それに二人が今、入れ替わったお芝居をしていたとしても……それはそれで面白いです。 事実はどうでもいい、お二人が用意してくれたこの状況を楽しみたい。 だから信じているんです。 ノリがいいでしょう? 」
「入れ替わりの具体例を教えてくれ! 当事者たちはどうなった 」
空になった湯呑みにお茶を注ぐ。 俺の勢いを殺すみたいに緩慢な動作だった。
顔を上げて笑う。
計算された笑顔。
何度も練習して作り上げた笑顔。
なぜかそんな気がした。
水嶋は会話に参加せず、俺とシラスが言葉を発するたびに視線を往復させている。
「ところで、入れ替わった時の状況は? 」
「頭をぶつけたんだ。 授業中に不慮の事故で頭突きをする形になった。 次の瞬間スイッチした」
「あら……授業中ですか。 現実で入れ替わったのですね? 僕の知っている例とは違います」
シラスは無表情で、瞬きもせずに口だけが動いている。 言葉を発するために最小限のエネルギーで稼働しているみたいだ。
俺が頷いてみせると、その時初めて、シラスは水嶋に視線を振った。
「ゆうりちゃんは、慶太さんになりたいと思った事はありますか? 」
問われた水嶋はお茶を一口飲んでからちゃぶ台に肘を乗せる。
「う〜んと……ある」
いやあるんかい。
「なるほど。 魂というのはすごくワガママですからね」
「魂がワガママ? 」
「僕は週に一度、地方の仕事に向かう新幹線の中で本を読みます。 興味深い内容だと仕事が始まっても、魂のベクトルは本を仕舞ったキャリーバックに向かいます」
「なるほどね…………いやカッコつけんなよ、本の続きが気になって『心ここに在らず』なだけだろそれ」
「その調子です慶太さん」
「乗ってきたね慶ちゃん」
「なんだお前ら」
——王子様が乗ってきたところで、一肌脱ぎましょうか。
謎の言葉を吐いて、シラスはカーディガンを脱いだ。 ブラウス一枚、線の細い身体のシルエットが際立つ。
「『心ここに在らず』とは違います。 僕は仕事が始まればスイッチを切り替えられる人間ですから、心はしっかり仕事と向き合っています。 魂だけが、読みかけの本を再び開こうとしているのです」
「……よくわからないけど、心と魂は全然別物ってことか? 」
「そう、別物なんです。 心というのは、電気信号を発する脳内の神経細胞を介したネットワークでしかありません。 心は、脳内の思考を対象により強調して伝える為に開発された、ただの言葉です。 魂とは次元が違います」
おぉ……キタ。 始まった感がある。
ただ、伝えたいニュアンスはほんのり理解できた。
「言いたいことはわかる。 なんとなく俺は、心と魂は同じようなものだって印象を持ってたなぁ。 一般的にもそうなんじゃないか」
「ええ。 心を込める、魂を込める、どちらも言葉として意味するところは同じですからね。 でも本質は違います。 魂はどこにあると思いますか? 」
「どこにって……そりゃ身体の中だろ」
「身体の中にあるのは心、つまり脳です」
「この話、長くなりそうだな」
「その言葉は心に留めておいてください」
「さぁて……! そろそろ帰ろっかぁ、水嶋」
「魂は個体の中に存在している訳ではありません。 全身を包む光のようなものです。 その光は伸びたり縮んだり離れたり、流動的で形を持たない。 心の干渉を受けず、心に縛られない。 自由なんですよ」
水嶋はどうしてだか、身体を傾けて庭の方を眺めていた。 まるで、シラスの後方にある何かを覗き込むみたいに。
「僕たちの幽体離脱は、魂と脳が結合した状態なんです。 形のない魂を、脳が制御して人間の形として認識させる。 皆は幽体離脱を『魂が抜ける』と表現しますが……正しいニュアンスは、『魂と混ざる』」
すっと立ち上がり、水嶋の後ろに回り込んだ。 その水嶋は気にする風でもなく、庭を見つめ続ける。 よく見ると眼球をキョロキョロさせて、動いている生き物を目で追っているみたいだった。 もちろん庭先には何もいない。 緩い風が緑を揺らしているだけだ。
シラスは水嶋の頭に手を置くと、無表情でじっと俺を見つめた。
「この頭の中には、慶太さんの思考が詰まっています。 意識の表層に現れないだけで、今もちゃんと稼働している 」
「してないだろ。 俺の思考は今、この水嶋の頭の中にある」
俺はシラスから目を逸らさず、自分の頭頂部を人差し指で示した。
「その頭の中にあるのは、ゆうりちゃんの思考であり、電気的信号です。 その物理的なシステムを、慶太さんの魂がハッキングしているだけなのです」
「……ちょっと待ってくれ」
「はい? 」
「もう少しわかりやすく頼む。 水嶋の脳から、ハッキングしてる俺の魂が離れたら……水嶋は自分の意識を取り戻すってことなのか? 」
「そういうことです」
シラスが微笑む。
左側の頬にだけ笑窪ができた。
ヘソの辺りで控えめに拍手をしている。
「その魂論の根拠は? 」
「ありません。 僕がそう信じているだけです」
「ないんかい! ……それじゃほとんど宗教だ」
「はい、まさにおっしゃる通りです。 理解できない現象には、観測結果から自分自身が一番納得できる理屈を付けるしかないですから。 大昔の人が理解の及ばない自然現象を全て妖怪の仕業にしていたのと似ていますね」
「あぁ……そうか。 木造の家が軋む音なんかも妖怪の仕業だったんだよな」
「そうですね。 僕の理屈を軸にすると、脳を他人の魂から解放する方法に関しては……さっぱりわかりません」
「一瞬で振り出しに戻ったな。 ……まぁ理屈はなんでも構わないけど、問題はどうすれば戻るかなんだ。 今のシラス論に基づくアイディアはないか? やれる事は片っ端からやる。 一緒に考えて欲しいんだよ」
「必ず、元に戻る方法はあると思います」
「じゃなきゃ困るんだよなぁ」
「死なないように気をつけてくださいね」
「なに言ってんだ急に」
「僕がこの場でゆうりちゃんの肉体を殺したら、慶太さんの魂には帰る場所がなくなります。 自分の身体はゆうりちゃんの魂が支配してますから」
「突然怖い事を言うな。 話は戻るけど、シラスが知っている入れ替わりはどんな人なんだ? どうなった? 」
「入れ替わったのは14歳の少女と、21歳の男子大学生です。 片方が死んでしまって、今も戻らないまま暮らしています」
まさかの回答。 昨晩入れ替わりについて調べていた時の、創作の結末としても採用されがちな、戻らないままで他人の人生を生きていくパターン。 しかも片方が死んでいたら戻りようがない。 もちろん全く現実味を感じなかった。
「……それが実例なのか。 死んだのは……」
「死んだのは大学生の男の肉体です。 男は今も少女の身体で生きている。 ですから、少女の魂に帰る場所はありません」
俺たちで言えば、この状況で水嶋が死に、俺だけが残って水嶋の身体のまま生きていくということか。
「どうして死んじゃったんだ? 」
「病死です。 男の肉体は、入れ替わる前から病に侵されていました」
心臓が鳴る。 体温が急上昇した。
全身から、じわりと嫌な汗が出てくる。
「それって、女の子の魂が身代わりに……」
「そうなりますね」
「…… 入れ替わった時の状況が違うって言ってたよな? 」
「はい。 その二人はレムの駆除で同じ部隊だったそうです。 男の方が、相手の少女に強い憧れを抱き、この少女のようになりたい、と願っていました。 その気持ちがピークを迎えた時、朝目覚めると入れ替わっていた」
「たしかに俺たちとは導入のパターンが違うな。 俺たちは現実ベースで、そっちは幽体離脱がベースになってる。 その……入れ替わったままの大学生に会う事は出来ないかな」
「どうでしょうね……」
「……待てよ? シラスの推論が正しいとするなら元に戻れるだろ。 女の子の脳から男の魂を剥がすことが出来たら、女の子は自分の身体を取り戻せるってことになる。 男の身体はもう灰になってるんだから、状況が逆転するぞ」
「素晴らしい。 慶太さんってスポンジ脳ですね」
「バカにしてんのか」
「いえ、吸収が早くて柔軟です。 身体を取り戻す……ですか」
「そうなるだろ。 病気で死ぬはずだった男が、女の子の健康な身体を乗っ取って生き延びた形になってるわけだから」
「……その女の子の魂が、男の身体で死んでいく事を強く望んでいたとしたら? 」
……女の子が、自ら望んで男の身代わりになったということか。
「……悪い、さすがにその状況は吸収しきれないわ」
「しらすちゃん! 」
だんまりを決め込んでいた水嶋が突然大声を上げた。 シラスは両肩を跳ねあげたけど、俺は驚きもしなかった。 「そろそろ水嶋から何か来るな」という準備が出来ていたからだ。
「どうしました? 」
「ペスト……ペスちゃんって柴犬だよね? 」
「はい」
「緑色の首輪を着けてた? 」
シラスは答えずに立ち上がり、居間を出て行く。 階段を上る音が聞こえた。
「水嶋、話聞いてた? 」
「うん、ぼんやりとね。 まだ頭の整理ができないや。 ディスカッションは後で」
「ペストがどうこうって今するような話か? 」
シラスが戻ってきて、寸分の狂いもなく同じ位置、同じ姿勢で座ると、ちゃぶ台の上に一枚の写真を置いた。
「これがペストです」
緑色の首輪をつけた柴犬が、青々とした芝生の上であくびをしている写真。 背後には紅葉の木が写っている。 この部屋の、縁側辺りからのアングルだ。
「どう言うことだ水嶋」
「やっぱり……! 今、お庭からこっち見てるよ? ペスちゃん」
「ペストの魂が見えるのですか? ペストの姿で? 」
「見える」
シラスは目を見開くと、また立ち上がり、縁側へ歩み寄る。 庭を一通り見渡してから、自分の足元に視線を落とした。
「もしかして、この辺りですか? 」
指をさして水嶋に問う。
「そう、そう! 見てるよ! シラスちゃんのこと見てる! 」
また戻ってくる。 水嶋と見つめ合った。
「ゆうりちゃんには……魂研としての才覚がありますね」
「たっ、タマとぎ……? 」
「魂を研ぐ、と書いてタマトギです」
「よかった、下ネタじゃなくて……」
「魂研の巫女。 亡者の魂を、生前の姿で認識できる女性をかつてはそう呼びました」
「かつて? 今はなんて呼ぶの? 」
「さぁ? 霊媒師とか、スピリチュアル・カウンセラーとかじゃないですか」
「たまとぎの巫女……あぁん、だめだ、どうしても下ネタに聞こえちゃ……」
「ステイ、ステイ! 」
「急にどした慶ちゃん。 ペスちゃん止まらないよ、お庭を走り回ってる。 もう少し大きい声じゃないと聞こえないんじゃない? 」
「お前らに言ってんだよ。 ステイ! 」
俺は耐えきれず、二人の会話を遮った。
「大事な話をしてるときにポンポン新要素をぶっ込んでくるんじゃないよ。 ……水嶋ぁ、多少ペストの魂が見えたくらいで騒ぐんじゃありません! 」
「頭が高いなぁ。 我、タマトギの巫女ぞ」
「本当に嬉しそうだな玉職人」
「慶ちゃんもペス魂が見えたら騒いでたって」
「いいや騒がない。 ペスタマだろうがハミタマだろうが、何が見えようとも俺ならシラスとの会話に集中してた」
「悔しいの? 私にタマトギの座を奪われて」
「急に現れた座だからな、奪い合う隙もなかったよ。 ……おい、シラスが余計なこと言うからだぞ」
「ゆうりちゃんはなかなか稀少な魂の持ち主みた……『レア魂』の持ち主みたいですね」
「『レア魂』を途中で思いついて捩じ込んできたな」
「ペスちゃんは……ずっとしらすちゃんの側に居たんだね。 あ……でもある意味、地縛霊的なあれなのかな? ふふっ、お庭であくびしてらぁ」
「ゆうりちゃん、ペストは最初から庭に居たんですか? 」
「ううん、最初はなんというか……ゆらゆらしたものが庭をウロチョロしてて」
「陽炎みたいなものですか? 」
「そう! そう! 犬くらいの大きさのもやもやが動いてたの」
「……ペストォォー! 皆の気が散るから向こうに行っててくれぇ! 頼む! 」
俺が叫ぶと、二人が庭の方を向いて黙る。
「……あ。 3回まわって、ワン! だってさ」
「さすがに嘘だろ水嶋コラ」
「え〜、本当だよぉ! ……あ、うわぁっ! 」
「どっ、どうした水嶋っ! 大丈夫かっ 」
水嶋が突然吹っ飛ばされ、畳に仰向けになって倒れた。
「あはは! こらペスちゃぁん、お部屋に上がってきたらダメでしょ! くすぐったいよぉ〜」
尻尾を振って水嶋にじゃれついている柴犬が目に見えるようだ。 頬を舐められているのか、顔を横に向けて笑っている。 向かいのシラスも口元に手を当てて、大きな瞳を半月状にしていた。
すると水嶋が急に動きを止めて、畳の上で大の字になったまま俺を見つめてくる。
「どうした? ペストは庭に戻ったか? 」
手を差し出して、身体を起こすのを手伝ってあげた。
「……ごめん、今のは嘘」
「……は? なんだ嘘かよ。 完全に騙された」
「やってて急に恥ずかしくなっちゃった」
「んははは…………え!? 今のくだりパントマイム!? 」
「恥ずかしながら……」
「恥ずかしい事はないだろ。 それで飯食っていけるレベルだったぞ 」
「そう言ってもらえると……やって良かったと思える」
「フッ、フハハッ! 」
シラスが声を上げて笑い、顔を赤くしながら「あ、失礼」と呟いて、咳払いをひとつした。
「お二人が入れ替わっているのには、本当に驚きました。 お力になれず申し訳ないです」
シラスが話してくれた実例の男は、きっと少女の身体を離れるつもりがないのだろう。
死にゆく自分の肉体と入れ替わってくれた少女との、劇的なドラマがあったに違いない。 そんな風に思った。
「そんなことないよ。 貴重な話を聞けたし……入れ替わりを信じてもらえただけでありがたい事だ。 元に戻る方法について何か発想が湧いたら、些細な事でも教えてほしい」
「もちろんです。 あの……もしよろしければ、連絡先を交換させていただけませんか? 」
三人でスマホを出して連絡先を交換する。
「慶太さん、僕に聞きたかったのは入れ替わりの事だけではないですよね? 」
……母ちゃんとシラスの関係。
こうして俺たちとシラスが繋がったのは、その関係に端を発している。
「お時間が許すのであれば、二階でお話ししましょう。 お見せしたいものもあります」




