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ファンタジーを呑みすぎて二日酔い。


 電車内は余裕で座れる乗車率だったが、窓際に立って、高速でスライドしていく街並みを見下ろしていた。


 ——予想外だった。 水嶋が自分の体感温度をバチバチに押し付けてくる系女子だったなんて。 ……その事実自体は嬉しいけど、やはり状況がよろしくない。 俺の声や身体で流星群の如く眩いデレを連発されても、ハタから見ればコメディにしかならないし、俺から見たらホラーに近い。


 水嶋はこの三日足らずの短い時間で、本当に沢山の顔を見せてきた。そのどれもが新鮮で楽しくて、ずっと一緒にいても飽きない事を予感させたし、ふとした時に何故かキレキレの発言をする辺りも的確に俺のツボを押してきた。


 ……でもあいつ、なんで入れ替わりに対する危機感がゼロなんだろう……? いや、これは入れ替わって(しょ)(パナ)に保健室へ行った時からわかってはいた事だ。 俺は自分自身の対応と水嶋への恋心に追われて、暴走する彼女に対し「ただのイカれた小娘」というレッテルを貼り付けてその事実をないがしろにしていた。


 電車の窓から、後方に流れていく風景を眺める。 ビル、一軒家、マンション、学校……。

 水嶋がそれらの屋根伝いに電車と並走している。 忍者のような身のこなしで、その高速回転する足は残像で8本に見えた。 顔をこちらに向けて、すっごい笑ってる。


 ——目を擦ってみると、もちろん幻覚だった。


 唐突に水嶋の言葉がフラッシュバックする。


 【慶ちゃんはこの世界のことを、当たり前の日常みたいに捉えてるけど、私にとっては不思議だらけのファンタジーなんだよ。】


 まさか……


 俺が『幽体離脱』を当たり前の日常として扱っていたように、『入れ替わり』は水嶋にとっての日常だったのだろうか。 だとしたら、簡単に入れ替わりを受け入れて楽しんでる事にもつじつまが合う。 戻らない事への危機感を感じていないのにも頷ける。

  冗談だと聞き流していたけど、2日目の夜に実体での別れ際「私が魔法をかけた」と言っていたシーンもあった。 ゆうり・ゆうな姉妹が幼い頃に起こした入れ替わり騒動の件もある。 もしかして水嶋は、本当に入れ替わり能力の使い手なのか。


 そんな事を考えている間に駅に着いた。

 のろのろと歩く日曜日の乗客達を追い越して全力疾走する。

 Suicaのタッチが甘かったのか、改札が俺を拒絶してきた。 舐めんなよ鉄道会社さんよ。 このくらいのハードルなんか地上の亀を跨ぐようなもんだぜ。 今の俺は防火シャッターが降りてくるくらいじゃないと止められないぞ。

 我が家まで脇目も振らず走る。 電車で思考したことの真偽はともかく、まずは水嶋と会わない事には話が進まない。


 「ゴホッ、オエッ……ヒュー、ヒュー……」

 

 アパートまで五分足らずで着いたけど、この軽い身体の心肺機能を過信していたせいで、盛大に()せ返って嘔吐(えず)いてしまった。 苦しい。 朝メシを食べていたら確実にぶちまけていたはず。

 しばらく息を整える事に集中してから、改めてアパートの階段を駆け上がる。 ドアに縋り付くように体重を乗せて、何度か叩いた。

 ドアの向こうからドタバタと走り寄ってくる音が聞こえてくる。


 「はぁい! どちらさまですか」


 「俺だよ水嶋! 開けてくれ」


 「あ、『俺』は間に合ってますので」


 「それ以上ふざけたらドアを蹴破る」


 ドアが開く。間からひょっこり顔を覗かせた水嶋が「おかえりんこー」と言って笑った。


 「ただいマテリアル」


 俺の返答にとてもつまらなそうな顔をしている。 そして、何故か頭にはバンダナを巻いていた。 一向にドアを全開にする気配がないので、隙間に身体をねじ込むように侵入していく。


 「あー! ユーリだ! いらっしゃい! 」


 アキが駆け寄ってくる。


 「ユーリちゃん、でしょ。 おはようアキくん」


 「おはよーユーリちゃん! ……そっかぁ、だから慶ちゃん部屋を片付けたのかぁ」


 「片付けた? ……ん? こ、これは……! 」


 家の中が見違えるほど綺麗になっていた。

 家に上がり、戸棚や冷蔵庫を開けてみると、そこにあったものは規則的に整頓されている。


 「スペースを埋める天才か……? 」


 棚も、冷蔵庫の中もギッシリ詰まっていたはずなのに……何故かスペースががっぽり空いているエリアがある。 つまり、ウチは物で溢れかえって狭苦しいのが当たり前だったけど、きちんと整理整頓さえ出来ていれば、新たな空間を生み出せるくらいの物量でしかなかったのだ。


 「心を整えるには、まず身の回りを整えなくてはいけないのだよ」


 水嶋が自己啓発セミナーの講師みたいな事を言っている。 もちろんそんな講師は見たことがないけど、多分こんな感じのことを言うだろう。

 無視して隣の部屋へ進むと、やはり見違えるほど綺麗になっているし、錯覚ではなく、物理的に部屋が広くなっている。


 「テトリスと同じだよ、デッドスペースを作らないことが大事なの。 しばらく使ってなさそうな物は押入れに入ってるよ、もちろん整頓していつでも取り出せるようにね……」


 「いや凄いな……驚いた。 天才だな」


 「意外とヤレる子でしょ」


 「うん、本当に凄い。 ただ外では『出来る子』って言った方がいいぞ」


 「あ、それと……週一で相原家に晩御飯を作りに来ることにしましたから。 お料理なんかしたことないけど、目覚めたんだよ」


 「それは嬉しいな」


 「相手の家で花嫁修行をする斬新なスタイル。 新時代の花嫁と呼んでください」


 「……うん、本当に夢みたいな話だ」


 「……ったく何言ってんだか」


 「夢はとっくに終わってんだぜぇ? 慶太君よぉ」と耳元で囁かれた。

 居間ではアキがテレビを消して、ちゃぶ台の上に勉強道具を広げ始めている。


 「アキ……まだ宿題終わってないのか? 」


 「宿題は昨日慶ちゃんと一緒にやって、ちゃんと終わったよ」


 「そうか。 カードゲームの大会は? 」


 「まだ時間があるから、勉強してから行く」


 「偉いぞ、アキ。 お前は本当に偉い」


 「ユーリも大会来てよ 」


 「ユーリ()()()、だろ? 」


 「ユーリちゃんも大会来てよ 」


 「どうだろう、ユーリちゃんに聞いてみるかな」


 「へ? 」


 「あ、慶ちゃーん、何か飲む? 麦茶でいい? コーヒー淹れる? 」


 台所からユーリちゃんの声。


 「あ……冷蔵庫にサイダーがあったろ? 」


 「サイダーさっきアキくんが飲んじゃったよ」


 「ごめんユーリちゃん、サイダー飲んじゃったや」


 「あぁ、いいよ、いいんだよ。 あれはハルとアキに買ってきてるもんだし」


 「……へ? 」


 戻ってダイニングテーブルに着席する。


 「慶ちゃん、私サイダー買ってこようか? 」


 「優しいなぁ、でも麦茶でいいよ。もう喉がカラカラだ」


 「そう? 公園の近くの自販機にサイダーあるよ? 」


 「500mlは買わない主義なんだ」


 「あぁ……確かに割高だもんね。 はい、麦茶入ったよ」


 「ありがとう、悪いな」


 目の前に麦茶がなみなみと注がれたコップが置かれた。 すぐに手をつけ、一気に飲み干す。


 「……っぷは! かーっ、効くなぁ! ……でもあれ? ずいぶん濃いな」


 「え、濃い? パッケージ裏の指示通りに作ったけど」


 「あぁ、なるほど、最高に美味いわ。 パッケージ裏の指示通りに作った麦茶ってこんなに美味いんだなぁ。 さっき駅からさぁ、全力ノンストップで走ってきたから、すごく喉が乾いてた」


 「駅からちょっと遠いもんね、慶ちゃん汗かいてるもん。 シャワー浴びる? 」


 空になったグラスに半分だけ麦茶が追加される。


 「いや、大丈夫」


 「あ、それとね、相原家の面々は冷蔵庫に首突っ込んでつまみ食いする癖あるでしょ? あれ良くないと思うよ。 一晩でカニカマ全部無くなってたし」


 「ははっ、そうそう、貧乏な癖に全員永遠の食べ盛りだからな。 注意する人が居ないからなぁなぁになってるんだよ」


 「野菜室からキュウリも一本無くなってたけど……誰かなぁ、犯人」


 「あ、それはハルだな。 あいつ夜中の水分補給にキュウリをバリボリやる癖あるから」


 「あははっ。それって水分補給になるの? そうかぁ、犯人ハルくんだったかぁ。 アキくんに問い質したら『知らない』の一点張りだったから嘘ついてると思ってた」


 【ちゃんとした麦茶】を飲み干して、対面にいる水嶋の顔を見る。 俺だった。


 「いや違う違う! びっくりしたわ、完全に空気に呑まれてた!」


 自分の頬を引っ叩いて現実に戻ってきた。

 水嶋は流し台のシンクに寄りかかり、涼しい顔でコップを傾けている。


 「……それ、何飲んでるんだ」


 「これ? サイダーだけど」


 「しれっとウチのサイダーをフィニッシュすんな。 アキが飲みきったような空気にしやがって」


 「なぁに、どうしたの急に」


 なんなのこいつ、めちゃくちゃキョトンとしてるけど。 一番キョトンとしたいの俺だぞ。


 「……なぁ、自分の身体に戻りたいと思わないのか? 相原慶太の身体で水嶋優羽凛やってんのもどかしくないか? 俺は今すぐに戻りたいんだよ 」


 「……だってさぁ、私たち、まだ付き合ってもいないのにあんなことしちゃったんだよ? 戻ったらまともに目も合わせられないと思ってたからぁ、入れ替わったままで良かったよ……うん。 あ、麦茶お代わりいる? 」


 「その危機感のなさは何なんだ? 」


 水嶋は俺が飲み干した空のコップを掴んで、ピタッと静止した。


 「……え? 今って危機感必要? 」


 「……そのきょとん、みたいな顔腹立つからやめろよ」


 俺の顔をじっと見つめてくる。


 「なんか怒ってる? 」


 「……さては戻り方知ってるだろ」


 「……い、いんやぁ? 知らないよぉ? 」


 「本当だな? 」


 「うん……ほんと」


 「わかった、信じる。 じゃあこの先どうするかを一緒に考えよう。 俺はまず……」


 「……ごめん。 戻るとしたらこれかな、っていうカードは一枚持ってる」


 「尻尾を出しやがったなこの野郎…… 」


 「違うよ! 本当にわからないんだよ! そもそも私ね、キ、キッスしたら戻るっていうのが本命のあれだったんだから! 本当だよ! 」


 「あのな水嶋……俺、ここに来るまでに面白い話を聞いたんだ」


 さっき会った少女の話をした。 昨晩幽体離脱を経験し、レムを目撃していたこと。 その数日前に京都で霊夢という妖を祀る神社に行っていたこと。 水嶋は目を輝かせて相槌を打っていた。


 「何それ……面白そうだけど、あんまりレムの事を調べると幽体離脱出来なくなっちゃうんじゃない? 」


 「全部片付いたら京都に行こう。 霊夢の神社に二人で行かないか? もちろん、観光的な意味強めで」


 「だから、そしたら幽体離脱が……」


 「いいんだ、俺はもう幽体離脱なんか出来なくなっても構わない。 水嶋優羽凛と一緒に楽しいイベントにアンテナを張って、その時一番ホットな場所に行ったりして、最高の思い出を作るのが最優先だ。 これから毎日、二人でそんな風に過ごせたらいいなと思ってる」


 「……んぁ!? ちょ、ちょっとストップ! 私の顔であんまりそういう事を言われても……」


 よし、掛かった!


 「……な!? そうだろ、もったいないだろ!? それだよそれ! 俺は水嶋と電話してからずっとその感情に縛られてるんだよ! わかったか!? 」


 バタッと音を立てて、水嶋がテーブルに突っ伏した。 頭頂部がこちらを向いている。


 「京都と言うと……それはもう……お泊り、ということになるのでは……? 」


 「まぁ……実際、親の許可が下りるわけないとは思うけどな。 そのうちさ」


 「下りぬなら……下ろしてみせよう……外泊許可……」


 水嶋は顔を伏せたまま、俺の方に腕を伸ばしてくる。 その手を掴んで握手の形になると、ブンブンと上下に揺すってきた。

 紅潮した顔を上げる。 目線は斜め上、そっちには玄関の上にブレーカーがあるだけだ。


 「オホン。 えー。 わかりました……最善を尽くしましょう……元に戻ったとき、照れ臭くて逃げだしてしまわないように……気持ちを整えておきます……」


 よぉし効いた!

 ……それと、水嶋が元に戻る事へ前向きじゃなかった理由も少しだけわかった。 おそらく、入れ替わりから幽体離脱という特殊な環境下で己を曝け出し過ぎた反動が来ているのだ。 入れ替わりが解けて正しい現実が整ってしまったら、今までのぶっ飛んだ発言や、ついに解禁してしまった「バカ島」「デレ嶋」などの人格が一気にのしかかってくる感覚なんだろう。 多分。


 親父が仕事の付き合いでベロベロに酔っ払って帰ってきて、その翌日に頭を抱えて後悔している姿を何度か見たことがある。

 それと似ていて、水嶋にはまだファンタジーの酔いが残っている状態なんだと思う。

 俺は水嶋の身体になっても、なるべく彼女の前では自分を見失わないように努めていたから、その気持ちが理解できなかった。

 

 「じゃあ……まずどうする? 私のアイディアも本当にどうなるかわからないし、準備も必要だから……」


 「準備? 」


 「うん。 シュチュエーションは、学校がいいかな」


 「よくわからないけど……今日色々動いてみても戻らなかったら、明日学校で水嶋のアイディアを試すって事になるか」


 テーブルの下を覗いている。

 何か落としたのだろうか?


 「どうした? 」


 「はぁ〜あ。 戻るならこのおちんちんともお別れかぁ〜……」


 「どうせすぐにまた会えるだろ」


 「………………」


 「………………」


 「あの、ネタで言ったのに妙なリアリティ持たせないでもらえます? 」


 「悪い、今は下半身の話題に敏感なんだ」


 「あんまり鼻息荒いと引いちゃうからね」


 「がってんだ」


 「で、慶ちゃんは今日、何から試そうと思ってたの? 」


 「あ、えっと、とりあえず……しらすに会いに行ってみたいと思ってた。 色々知ってそうだし、もしかしたら入れ替わりについても……」


 「……あ! しらすちゃん会いたい! ねぇねぇ、調べた!? しらすちゃんの事」


 「調べてないよ。 紫苑さんがプライベート知ってるっぽいから、連絡取って会ってみようと思ってた」


 「私、起きてすぐ調べたの! 」


 「あ、SNSか。 繋がった? 」


 「SNSで探すどころじゃないよ。 ウィキに載ってるんだから」


 「は? 」


 水嶋がポケットからスマホを取り出して操作する。 「これこれ」と表示させた画面を見せてきた。


——————————————————

 

白州怜紋〈しらす れもん〉は、日本のラジオパーソナリティ、小説家、エッセイスト、脚本家、料理研究家。


長野県諏訪市出身。

早応大学に在学中、アルバイトに向かう道中でバラエティ番組の街頭インタビューを受ける。 そこで見せた奇特なキャラクターと明晰な頭脳が関係者の目に留まり、現在の事務所にスカウトされて芸能活動を開始。

その後、多数の番組へのゲスト出演を経て2002年8月、人気ラジオ番組『浅田直哉のまどろむ昼下がり』の二代目アシスタントに抜擢される。


前述の番組で一部の聴衆者から熱狂的な支持を得ると、2004年6月から続く『しらすれもんのワクワクSunday』がスタート。

 同年11月、大学へ入学してからコツコツと執筆を進めていた『援交代行、大性交! 』(エンコーダイコーダイセーコー! )が、丸川文庫が主催する青春エンタメ小説大賞で審査員特別賞を受賞。

援助交際を題材に、90年代の女子高生を痛烈に皮肉ったブラックユーモア溢れる内容が賛否を呼んだ。


ラジオパーソナリティの傍ら、大学在学中に友人と立ち上げた『劇団パラレルパラソル』では複数の脚本を担当。

2010年5月に初演した『アスラマズラからの手紙』は、その完成度の高さに感銘を受けた演出家の成通洋邦が映画化を熱望し、共同で脚本を執筆。 同作は自主制作ながら、2015年の明星フィルムフェスティバルで準グランプリ、最優秀脚本賞を受賞している。


日々の暮らしを赤裸々に綴ったエッセイ『大海を泳ぐ、小さなしらすの退屈な日常。』や、自身の趣味でもある創作料理を紹介する『独身女のひとり飯。〜後はもう、食うしかない〜』等を始め、著作多数。


軽妙な語り口でいじめや家庭内暴力など、自身の壮絶な半生を飄々と語ったり、2度の離婚に基づく経験から現代を生きていく女性としての在り方を模索する姿に、同世代の女性から絶大な支持を集めている。

 

——————————————————

 


 「なんだこりゃ……しらすって有名人だったのか……? 」


 「どこまで読んだ? 私、気になってリンクに飛んだりして調べたんだけどね、一部から熱狂的な支持を集めるタイプのサブカルおばさんっぽい! 」

 

 「この記事の中だけでも本人のヤバさを刻んでくるよな。 尻込みしたよ。 会うのやめるか」


 「会う会う。 面白そうだよ。 幽体ではあんなに大人しい感じだったのにね」


 「顔は? 写真とかないのか? 」


 「出てくるしすっごく綺麗だけど、慶ちゃんロリコンだから食指が動かないと思うよ」

 

 「俺はロリコンじゃない。 年齢的にも精神的にも成熟してるのに何故かどことなく幼い顔してて初恋に似たノスタルジィを漂わせてくる女性が好きなんだよ」


 「うわキモっ。 すごい必死に異常性癖の自己弁護するじゃん 」


 「お……俺はロリコンじゃないっ……水嶋の顔がたまたま幼いからその疑惑が浮上しちゃうだけだっ……そんなこと言うならもっと大人の顔になれよ! いつまでもガキみてぇな可愛い顔しやがってよぉ! 」


 「あ……おれ行ってくるね、大会。 あんまり喧嘩しないでね」


 アキがリュックを背負って玄関に向かった。 水嶋に中指を立ててから、靴紐を結んでいるアキの元へ行く。


 「アキ、弁当持ったか? お金足りるか? 暗くなる前に帰ってくるんだぞ」


 「ユーリ、慶ちゃんみたい」


 「あぁ、そうか……アキくん、頑張ってね」


 「うん。 勝てなくても、泣かないで頑張ったら慶ちゃんがカード買ってくれるから。 ユーリも頑張ったら、慶ちゃんがごほうびをくれるとおもうよ 」


 アキを送り出して、すぐにスマホを取り出して紫苑さんに電話を入れる。


 『もしもーし』


 「おはようございます。 紫苑さん、シラスと会ってみたいんですけど……アポ取ってもらっていいですか? 」


 『ん? ゆうりちゃん? 慶太? どっちだ? 』


 「慶太です。 まだ戻ってないです」


 『あ、まじかぁ。 しらすちゃん今日は夕方までオフじゃないかなぁ。 聞いてみるわ。 とりあえず住所と電話番号はメッセするから見といて』


 「ありがとうございます」


 『戻らないのかぁ。 ゆうりちゃんはどうしてる? 』


 水嶋に目を向けると、また机におでこをつけて、ボソボソと何やら呟いているようだった。 近付いてその言葉に耳を傾ける。


 「机に突っ伏して、『わたしも頑張るよぉ』って言ってますね」


 『なんだそりゃ』

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異世界転生チーレムギャグ小説も書いております。 『始まりの草原で魔王を手懐けた男。』 ←よかったらこちらも覗いてみてください!
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