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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:1921字

 ロイフェーリト帝国が管理する遺跡の数は、総勢五十にも及ぶ。

 しかしそれは大小を兼ねない場合の話であり、今回盗掘団が目を付けているのは比較的大きな遺跡五つだった。


 イジェルタ、ガンダル、メサ・ヴォルン、ロードリス、フェイチ。


 この五つが今回狙われている遺跡だ。

 けれど盗掘団はあくまでこれを"ゲーム"だと考えているらしく、こちらの準備が整うまで遺跡に攻め込むことはないし、しっかりと順番通りにやってくるという。

 そのあまりに緊張感のない相手の対応に、自然とアミルたちの雰囲気も緩くなっていた。


「――いやしかし、クラネとの可愛いもの勝負、なかなか良い勝負ができたと思うぞ」

「ふっ、それはこちらのセリフでもあるな。今回は私が負けてしまったが、いずれリベンジといかせてもらおう」

「望むところじゃ」


 最初の遺跡、イジェルタに向かう道中。メメとクラネは昨日の対決について振り返っていた。

 帝国の関所を出た外は初めに来た時と何ら変わらない。アミルは念のため【索敵魔法】で周囲に網を張ってみたが、今のところ怪しい魔力が引っかかった様子はない。とは言え遺跡まではもうすぐだ。そろそろ気を引き締めなければならないだろう。


「クラネ、メメ。そろそろ遺跡につくから準備をしておいて」

「む。もうそんなところまで来たか」

「了解じゃ。返り討ちにしてやるぞ」


 腰に携えられた直剣の柄を改めて握るクラネと、肩をぐるんぐるんと回してやる気を見せるメメ。

 それを確認したアミルは、横を歩くアネラスに視線を向けた。


「レムクルーゼさんも、お願いするよ」

「大丈夫ですわ、お任せ下さい」


 にっこりと、アネラスは微笑みを返してきた。彼女の着る軽鎧は浴びる日光を反射させて煌めいている。

 ……結局、アネラスが聞きたかったことは昨日で全てだったのだろうか。まだ何か言い足りないことがあったような気もする。あの後宿に戻ってから少し、彼女の表情は暗かった気もする。でも、気のせいだった気もする。様々な『気もする』が入り混じって、アミルは振り払うようにかぶりを振った。


「あ……」


 すると、街道を歩いていたアミルたちを、ガラリと変わった雰囲気が包み込み始めた。この感覚は身に覚えがある。以前、あの『生ける洞窟』近くの森に足を踏み入れた時と同じだ。『生ける洞窟』よりは弱いが、それでも絡み付いてくるような、入り込んだ生物を逃がしはしない、といった意志(・・)すら感じられるようだった。

「人の気配はないようじゃな」

 歩きながら、周囲に視線を巡らせていたメメが言った。それに関してはアミルも同意。相変わらず【索敵魔法】に怪しい魔力が触れた反応はない。アミルの【索敵魔法】はよっぽど魔法に自身がある者でない限りごまかすことができないレベルだ。それこそ、ランゼルグで戦ったあの少女レベルでなければ。けれど、アグラザッドから受け取った資料にある盗掘団メンバーを見る限りでは、そのレベルに達しているものはいなかった。だから、向こうがこの遺跡の周囲に来れば、必ずこちらが先に気づくことができる。

「いないに越したことは無いだろう。気を抜くつもりはないが、拍子抜けはしてしまうな」


 クラネがそんなことをこぼす。言われてみれば、アミル自身も少し安心しているようだった。今回の事件、少し厄介なことになっているかもしれないと、自分の心の奥底で勝手に思ってしまっていたようだ。真の敵は盗掘団ではないが、盗掘団は決して無視できる相手ではない――そう考えてしまっていた。


「ここ……ですの?」


 アネラスの声に顔を上げれば、もう既に遺跡の入口へとたどり着いていた。

 まるで崖のように高い絶壁の地上に面した位置に、ぽっかりと大きい穴が開いている。恐らくここが入口となるのだろう。

 外で待ち構えてもいいが、あいにく隠れられそうな場所はない。念には念を入れて、アミルは魔法を使った隠れ方はしたくなかった。その道の者が盗掘団にいれば、あっけなく見つかってしまう可能性があるからだ。

 だから、中で待つ事にする。内部であれば岩陰などに隠れられるだろうと。

 アミルはその旨を皆に伝え、了承を得た後、遺跡の中へと足を踏み入れた。

 ……この時、少し頭をよぎった。ここに来るまで【索敵魔法】に盗掘団ないしは怪しい魔力の流れが引っかからなかったのは、単に"いなかっただけ"ではない可能性があるということ。

 ……魔器の存在。魔の力を内包した特殊な道具であれば、【索敵魔法】に引っかからないなんてことは朝飯前かもしれない。それに、魔器の力は総じて相当にレベルが高い。それこそアミルの張った【索敵魔法】をもごまかせるほどの。

 しかし、


(……考えすぎだよね)


 そこまで考えたが、アミルは再びかぶりを振ったのだった。

次話もよろしくお願いします


twitterID:@K_Amayanagi

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