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文字数:1809字
「――そうですか、受けていただけますか」
翌日昼。
アミルたちは再びこの都市の最中央へと足を運んでいた。
昨日も訪れたこの大部屋に、昨日と同じ顔ぶれが揃う。
アグラザッドは冷徹な表情をそのままにし、アネラスへと向けていた視線を外し後ろのアミルたちにも向けた。
「魔術師よ。お前は昨日、私に【次元魔術】を知らぬのか、と言ったな?」
「……言ったが」
いきなり投げられた言葉にメメは表情を固くする。
「厳密に言えば、まったく知らないという訳ではない。ただそれがどのような効力を持ち、この国にどれほどの被害をもたらすのかまでは計り知れていない。我が魔術師団は仕掛けられた魔術の位置までは解析出来たが、それだけだ。魔術の詳細までは把握できていない」
「……ふん、所詮は国に属するだけの機械的な魔術師共ということかの」
「耳に痛い話だ。だが、それに対して私たちが反論できるはずもない。……何か知っているのならば教えて欲しいくらいだ」
「ウチの昨日の反応を見てよくも平然とそんなことが言える。……じゃが、まあ良い。詳細を知っていれば、魔術解除の際に使えるじゃろうからな」
そう言って、メメはアグラザッドに【次元魔術】の詳細を話した。
当然アミルたちに話した自分の過去には触れぬよう、魔術の効力と特徴、そして解除のヒントになりそうなことを伝える。
「――なるほど。かなり厄介な魔術のようだな」
「じゃが、間違いなく解除してもらわねば困る。そうしないと、ウチらの姫がお主を許さんじゃろうて」
「……へ?」
すっかりメメとアグラザッドの二人の会話だと気を抜いていたアネラスが素っ頓狂な声を上げメメを見た。
後ろを振り向いた彼女にメメは優しく微笑むと、再びアグラザッドへと視線を戻す。
「勿論、アネラスだけではない。ウチらもお主を許すことはないだろう。……ウチの地竜の餌になりたくなければ、キリキリと働くことじゃ」
「肝に銘じておくとしよう」
言葉とは裏腹に、アグラザッドは口角を釣り上げた。
言われなくともそのつもりだ、と言うように。
それからアミルたちはアグラザッドから狙われている遺跡の資料を受け取った後、宮廷を後にした。
◇◆◇
時は夕刻。茜色が空を染め、エレシュメルン内を歩く人々の数が少しずつ少なくなっていく時間帯。
アミルとアネラスは、都市で一番大きい広場のベンチに隣り合って腰を下ろしていた。
巨大な噴水があるこの広場は都民たちの憩いの場として設けられているらしく、堅苦しい街中に落ちる和みの空間はどこか特別感がある。
買い物の帰りか子供連れの主婦が休憩に使っていたり、意中の人との待ち合わせでもしているのだろう妙に着飾った風の落ち着かなげな青年が噴水の前で突っ立っていたりしていた。
そんなちょっとした趣のある広場の風景を眺めながらアミルとアネラスの二人は――いや、どちらかといえばアネラスの方だけが、頻りにアミルの顔色を伺っている。
「クラネたち、遅いね」
「そ、そうですわねっ」
二人が今ここにいるのは、いつぞやに約束していた"買い物勝負"に駆り出していったクラネとメメの帰りを待つためであった。
宮廷から出た後、アグラザッドの放つ空気に当てられたメメが、気分転換のためにこの約束の話を持ち出した。
どうせ作戦自体は明日からだ。クラネは提案された勝負の話を快諾し、この都市で一番最初に寄った店でもある『クリュー百貨店』でそれは執り行われることとなった。
当然アミルは面倒臭いというオーラを隠すことなく漏出させていたのだが、どうせアネラスに無理やり連れて行かれるのだろうな、と半ば諦めていた節もあった。
しかし、そのアネラスが、『私たちは近くの広場で待っていますわ』と言い、アミルをこの広場まで呼び寄せたのだった。
何ら疑うことなくこちらに手を振りながら百貨店方面の雑踏に消えていくクラネとメメを見送りながら、アミルは彼女の行動に少し驚いていたものである。
「……」
「……」
アミルの言葉の後、二人の間に沈黙がやってきた。
と言うのも、いざ二人きりになってから、アネラスはずっとこの調子だった。
やたらアミルの顔色を伺い、言いたいことがあるようだが、それを言うタイミングを見つけられていない……そんな感じだ。
結局なぜ、アネラスがアミルを呼んだのかわからぬまま、昼過ぎだった時間も今は既に夕暮れ時となっている。
「――あ、あのっ、ボードネスさん」
決意を固めたのか、アネラスは少し張った声で彼の名を呼んだ。
次話もよろしくお願いします
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