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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:924字

 エレシュメルンは最中央に位置する紅の城、皇城エイムダル宮。

 ――その、一室にて。


「……これはどういうつもりだ、アグラザッド」


 ここはエイムダル宮に用意されたある人物の個人部屋。

 いや、執務部屋と言ったほうが正しいか。

 横長の机には見るからに高価そうな羽ペンと積まれた書類の数々。

 そして机に座るのは皇城の色と同色の軍服を着た、金髪の男性。

 手に持った一枚の書類から顔を上げ、正面に居する己の部下に対して、その黒眼で睨みつけている。


「どういうつもりもなにも、その手紙に書かれているとおりですよ。レルス団長」


 レルスの正面でニヤリと笑みを浮かべるのは、彼直属の部下である、アグラザッド・ルーメルという男だ。

 年齢は二十八。それにしては少々シワの多い顔を歪め、震える手で書類を持つ目の前の上司に対して平然とした態度を取っている。

 レルスは依然威圧するような視線を消さないまま、アグラザッドに向けて言い放つ。


「私はこのような伝書を出した覚えはない」


 書類に記された内容。それは、ルレリック王国の次期王候補第一位、アネラス・フォン・レムクルーゼの皇城謁見。

 レルスがギルドへ送ったという手紙に対する返答が、今しがた届いたのだ。

 しかしレルスには、そんな内容の手紙を送った記憶はない。

 送ったのは、彼の部下、そしてこの手紙を直接執務室へと届けた人物……アグラザッドだった。


「心配には及びません、レルス団長。当日は私が彼女たち(・・・・)のお相手をさせて頂くつもりです」

「……何が目的だ」


 レルスの瞳が一層鋭さを増す。

 アグラザッドという男は、有能であると同時にとても危険な人物でもあった。

 心の内に何らかの野望を秘めているような……決して表には出さないが、そんなような節がいくつも見られている。

 それでもレルスが彼を追放しないのには、明確な理由があった。


「目的……。ふふ、もう既に貴方は分かっているはずだ。まだ白を切るおつもりですか?」

「減らず口を……お前に時間も余裕も与えるつもりはない。私がこの座に座る限り、お前の野望は達成されることはない」

「さて、どうでしょうか」


 アグラザッドは身を翻す。


「では、私はそろそろ。街道の魔物処理が残っていますので」


 そう言葉を残して、執務室の扉は閉められた。

次話もよろしくお願いします。


TwitterID:@K_Amayanagi

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