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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:1529字

『*************』


 黒い頭部は畏怖していた。

 眼前の、その身に絶えず襲いかかっているはずの高重力をものともしない、年若き少年に。

 考えられない、と口元を歪ませ、紅く裂けた横長の眼を釣り上げる。


「君がどういった経緯で生み出されたのかなんて知らないし探るつもりもないけど……もし僕たちの邪魔をするなら、容赦はしないよ」


 武器という武器もない。

 屈強な肉体を持っているわけでもない。

 これまで訪れてきた侵入者の誰よりも非力に見える。


 ……なのに。


 聞いていない、聞いていない。

 これほどまでに"狂悪"な魔力を持つ者が来るなんて聞いていない。

 自分を生み出したあの者(・・・)は、賢者の末裔にこんな人間……いや、こんな存在(・・・・・)がいるなどと一言たりとも言っていない。

 けれど現実として、目の前に立っている。

 ここで主の願いも守れず、朽ち果てるというのか?

 罪深き都を封した洞窟の守り手として作られた自分は、こんな非力そうな少年に呆気なくやられるのか?


「――、そうか」


 アミルは目を伏せた。

 己の周囲に魔力をいくらか散布させて威嚇してはみたが、どうやら意味を成さなかったようだ。

 頭上の黒い頭部は、彼と戦うことを選んだ。

 意識は、あるのだろう。生物学上ではどんな種類に分類されるか分からないが、思考する力は持っていると見える。

 張り付いていた天井からズズズ、と少し奥へ移動する。その先でゆるり、と頭部は下へと伸び、その全貌を明らかにしたあと、空中で一回転し地面に着地した。


『*****』


 一言で言い表すならば、全身を漆黒に染めた"人影"だった。

 身長はアミルよりも少し高い、成人男性程度。

 その身に防具や武器の類は見られない。

 ただ、腰から生える足と比べ、腕が少しばかり長いのが特徴か。


「それが君の本来の姿なんだね」


 アミルはその姿を静かに観察する。

 これも言わば洞窟から生まれる魔物と同じ扱いなのだろうか。

 それともメメの言ったとおり、本当の意味でこの洞窟の本体なのだろうか。


 不思議なことに、目の前の黒い人影には魔力が通っているような感じがしなかった。

 この世界において、生命を持つ存在が魔力を持たないなんてことは滅多にない。

 魔物や人々は勿論、凶暴性のない動物にだって多少の魔力は流れている。

 だと言うのに、今目の前にいる異形の生物は、魔力を有していないのだ。


人造生命体(ホムンクルス)……)


 アミルの脳裏に一つの可能性が過ぎる。

 故意に作られた人造生命体(ホムンクルス)であるならば、製作者の意図しだいでは魔力を持たせないことが可能だ。

 しかしそれでも、あえて魔力を持たせないことにメリットはあまり存在しない。

 世界が魔力ありきで廻っている以上、魔力と決別を図るのは世界との断絶を望むも同じだ。


 それに、アミルの生きていた千年前でさえ、ホムンクルスの製作は奇異の目で見られた。

 無から有を生み出す魔王やこの洞窟が異端であるように、自然でない生命の産出は許され難い行為なのだ。

 今更それが解禁されているとも思えないし、やはり魔物と同じ部類として考えるのが妥当だろう。


『*********』


 静寂を破り、先に動いたのは相手だった。

 十五(メルム)先の位置から姿が消えたかと思えば、視界右上にその長い腕を振りかぶりながら出現する。

 腕の先は、鋭利な剣先のように変形していた。

 黒に染まった漆黒の太刀。それが、アミルの首筋を捉える。


「遅い」


 そんな二人の間を、渦巻く炎が遮った。突き出されたされた漆黒の腕を一瞬で包み込む。

 これは、必要な戦いだ。

 全員で無事にここから抜け出すことが、アミルたちに課せられた今何よりすべきこと。

 けれど時間をかければクラネ、アネラス、メメの命も危ない。

 だから、さっさと終わらせることにする。

次話もよろしくお願いします


twitterID:@K_Amayanagi

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