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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:2531字

「よくやったのじゃアネラス!」


 アミルから報せを受けたメメは、満面の笑みで発見者であるアネラスを褒めたたえた。

 広すぎると言っても過言ではないほどのこの空間において、決して大きくない【魔術文字】を見つけることができたのはとても幸運と言えるだろう。

 あまり褒められ慣れていないのか、アネラスはぎこちない笑みを浮かべていた。


「それで、メメ。キミはこれを見つけて何をしようとしていたんだ?」


 腰をかがめ、壁に掘られた【魔術文字】をまじまじと眺めていたクラネは、背後のメメに問いかけた。


「いや、実を言うとこれだけでは意味がないのじゃ。この洞窟の壁に掘られたそれは、言わば単なる模様に過ぎぬからな」


 コツコツ、と足音を響かせながら、メメは【魔術文字】の刻まれた壁の前に歩み出る。

 その背に再びアミルたちの視線を浴びる彼女は、少しの間を置いた後で「これくらいは()いか」と誰にも聞こえない声量でつぶやき、ゆっくりと語り始めた。


「……この【魔術文字】は、ロイフェーリトに眠る遺跡の起動の鍵になるのじゃ。これだけでは確かに意味を持たないが、これがなければ遺跡に価値はない。いにしえの人々は何故こんな回りくどいことをしたのか、その理由は分からんがな」

「遺跡の起動、だと?」


 聞き慣れない言葉に首をかしげるクラネ。しかしメメはそんな彼女を無視し、それきり口を閉じてしまった。

 まるで"これ以上は聞くな"と言うように、その背中からただならぬ雰囲気を発している。

 結果、クラネはそれ以上踏み込まなかった。いや、踏み込めなかったという方が正しいか。

 無言の圧力を放つメメの姿を見つめながら、クラネだけでなく、アミルやアネラスでさえも口を噤まざるを得なかった。


「……さ、もう本当に時間がない。お主らは下がっとれ、ここからはウチの出番じゃて」


 アミルたちに一定の距離を取れと命じたメメは、それを確認したあとで、改めて壁の方を向いた。

 右手に持った杖を身体の前へと移動させ、トントン、と地面を二度ほど突く。

 すると、杖の先に円形状に付いた八つの宝石のうち、紫紺に染まった菱形の宝石が光り輝いた。

 そして次の瞬間、その宝石の中心辺りから、『術式』が刻まれ始めていく。

 メメによる何かしらの魔術が今、発動されようとしていた。


「『ここに封じられるは古代の智慧、これを解き放つは賢者の末裔。時代の掛けし枷を外し、今こそこの(まなこ)に神域への道を映せ』」


 彼女の口から詠唱が紡がれ、足元には六芒星が形成されていく。

 一本、そしてまた一本と、岩肌の地面に紫紺の線が刻まれていく。

 メメの周囲で魔力の奔流が起こった。

 洞窟の中だというのに風が渦巻き始め、それは彼女の身体を取り囲む。

 足元から吹き上げる魔力は徐々に魔術を完成させていく。


「『理を知る英知の都、蘇りの舞台は整った《アルケミア・ロード》』!」


 次の瞬間、まるで滝を反転させたかのような強烈な魔力がメメを完全に包み隠した。

 薄紫に色付けられた魔力の渦は洞窟の天井にまで到達し、さらにはあの【魔術文字】が掘られた壁をも呑み込む。

 あまりの奔流には途轍もない風が随伴する。油断すれば地から足が浮いてしまいそうな強風に、アミルたちは腕で顔を隠しながら何とか持ちこたえる。


「――きゃぁっ!?」


 横から、少女の悲鳴が聞こえた。

 アネラスだ。アミルの横で同じように風に耐えていた彼女はつい足に込めた力を緩めてしまったのだろう、掬われるように風に抱かれる。

 地に付いていた足は片方が完全に浮き、必死でもう片方の足を地上に繋ぎ止めようとしていた。


「くっ……レムクルーゼさんッ」


 傍にいたアミルは咄嗟に手を伸ばす。

 アネラスも必死に手を伸ばす。が、互いの両手はあと少しのところで絡み合わない。

 何度も何度も腕を振るが掴むのは空気だけ。

 彼女の身体は着実に風に足を取られ始めていた。

 もはや彼女を地上に留めるのは爪先のみ。それでも諦めることなく、伸ばされるアミルの手に必死に齧り付こうとしている。


「もう……少し……っ!」


 アミルは吹き荒れる暴風の中、決死の覚悟で一歩踏み出しアネラスへと近づこうとする。

 アネラスは身体の制御が聞かないはずの空中から、それでも抗おうと精一杯腕を伸ばす。

 二人の腕の距離は僅か二十(セルム)もない。普段ならこんな距離、なんてことないはずなのに。

 まるで今だけは、目に見えない何か(・・・・・・・・)が二人の仲を引き裂こうとしているようにも取れた。


(こんなところで……!)


 彼女(アネラス)を失うわけにはいかない。

 面倒臭がり屋な自分が唯一できるのは、『一度決めたことは曲げない』ということ。

 自国の王女として経験を積むために過酷な旅を決意したアネラスを放ってはおけないと、アミル自身が決めたことだった。

 ならば、何としてでもここは彼女を助けなければいけない。かつての仲間にも顔向けできるように。

 彼はさらに強く一歩を踏み出した。


「とど……いた!」


 確かな感触とともに、アミルの腕は見事アネラスの腕を掴んだ。

 しかし、


「――――!」


 ごう、と背中ごしからひときわ強烈な風が轟いた。

 メメの発動している魔術がいよいよ最終段階に入った合図か、それとも想定外の事故が起きたか。

 いずれにせよ、繋がれた二つの腕は再び決別した。


「レムクルーゼさんッ!!」


 腕を離れ、今度こそ完全に宙に昇っていくアネラスに向かってアミルは名前を叫んだ――横で、水色の影(・・・・)がさらりと揺れた。

 影から伸びたのは一本の腕。細く華奢だが、幾度もの死闘をくぐり抜けてきた強き腕。

 それは吹き飛ばされかけていたアネラスのもう片方の腕をしっかりと捕え、彼女を地上に繋ぎ止めてみせた。


「クラネ……」

「ふっ、何をぼうっとしている。キミも手伝え」


 背後から吹く強風に煽られながら、それでもクラネは自信家な笑顔を崩さない。

 目線だけで「さぁ早く」と促す。

 アミルは頷いて、一度は掴むことの出来た少女の腕を、もう一度掴んだ。

 今度は絶対に離さない、そう強い意志を込めて。




 それからすぐ、メメの魔術は終息を迎えた。

 強力な魔力奔流の渦中に身を投じ続けていた彼女は、魔術が終わるや否や、地面に倒れこんだ。

 そんな彼女の手の中には、透き通った紫紺の結晶が握り締められていた。

次話もよろしくお願いします


twitterID:@K_Amayanagi

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