67
文字数:1362字
「ふぅ……ひやひやですわ……」
額に掻いた汗を腕で拭ったアネラスは小さく呟いた。
しかしその呟きはアミルに届いた様子はなく、話題はそのまま別の話題へとシフトする。
「それで、レムクルーゼさん。もしかして【魔術文字】、見つけた?」
「あ……」
そうだ、と思い出したかのように、アネラスは先ほどまで自分が顔を押し付けていた壁に歩み寄った。
「【魔術文字】……っぽくはあるんですが、どうも違うような、合っているようなという感じで……」
「どれどれ……」
同じく壁に近寄ったアミルに、アネラスは横からメモを差し出す。
見比べると、確かに似てはいた。
メメの用意した【魔術文字】は、四つに分けられて構成されている。
まるで模様のように記された文字列が四つ、形で言えば四角形を象って、その四隅に配置されているといったものだ。
模様は四つ集まってそこから一つの絵を構成している。その最終的な絵を例えるなら、『花』。
陽の光を浴び、地中から養分を吸い取って育つ、あらゆる美しさの象徴とも言える『花』だ。
(確かに似てはいるけど少し違……ん?)
アネラスに手に持たれたメモと見比べていたアミルは、ここで一つの違和感に気がついた。
メモを持つ彼女の左手をぐっと握る。
「ボ、ボードネスさんっ、何をっ――!?」
突然手が触れたことで動揺したアネラスは無視して、アミルはその手を自身の顔に近づけて食い入るように見る。
アネラスの心中はこの場から一刻でも早く去りたいという気持ちと、その真反対の気持ちが織り交ざって自分でもよくわからないことになっていた。
この程度、と言われればそうかもしれないが、なんせ相手は超絶鈍感少年。むしろこれを断りもなく無意識にやってくる辺り、そっちの方が心臓に悪い。
ぐむむ、といつぞやの少女のように眉間に皺を寄せた彼は、やがて掴んでいたアネラスの手を離し顔を上げた。
「……レムクルーゼさん、そのメモ、百八十度回転させてもう一度見せてもらっていいかな」
「は、はぃ……?」
返事もへろへろになりながら、アネラスはとりあえず彼の言うとおり、メモの紙を上下逆さまにしてもう一度見せた。
再び差し出されたメモを見たアミルはすぐに納得したように頷くと、「もういいよ、ありがとう」とメモを仕舞わせるように促した。
「多分、暗がりで分からなかったんだろうね」
「な、何の話で……」
頬を紅潮させ半ば放心した彼女の前に、アミルはずいっ、と自分の懐から同じメモを取り出して見せる。
「ほら、この形。レムクルーゼさんが見つけたのは間違いない、【魔術文字】だ」
「……へ?」
ようやく意識を引き戻したアネラスは、まだ若干火照る顔をひた隠しにしながら、アミルの指差すメモと壁の模様に顔を近づけた。
「完全に同じ……ですわね」
「うん。でもレムクルーゼさん、よく見つけたね?」
「え? あ、ああいや……」
アミルの純粋な賞賛に、アネラスは顔を背けてしまった。
しかしそれは恥ずかしいからではなく、何とも言えないような、素直に喜べないといった顔をしている。
だがこれで、お目当てのものが見つかったことに変わりはない。
「よし、それじゃあメメたちに知らせてこよう」
「ほら、行こう」と、差し伸べられる手。これもまた、無意識なのだろう。
薄暗がりに照らされた、腕の先にある少年の柔らかな笑みを見ながら、アネラスはその手を自ら掴んだ。
次話もよろしくお願いします
twitterID:@K_Amayanagi




