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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:1379字

「そっちはどうかのー?」


 翠緑の光降るこの大空洞の中、メメの声が木霊した。

 問われたクラネは彼女から相当離れた場所で一人壁を調べており、収穫がなかったと顔を向けて首を振る。


 メメがアミルたち三人に出した手伝いの指示とは、この最奥部の壁のどこかに刻まれている【魔術文字】なるものの発見だった。

【魔術文字】とは魔術行使に関する暗号文字の総称で、魔術師と名乗る者ならばこれを読めない者はいない。役割的には魔法で言うところの『詠唱』の言葉に当たる。

 魔術師たちはこの文字を専用の媒体に刻み込むことで魔術を行使するのだ。


 しかしこのとおり、本来【魔術文字】とは魔術行使の際に初めて刻むもの。刻まれればその瞬間から魔術が発動する。

 そして、専用の媒体となりうる条件の『魔力を通す』物体でなければ文字に意味はない。そもそも刻むことすらできないのだ。

 だというのに、メメはこの洞窟の壁に【魔術文字】が刻まれていると言う。


(……一体、どういうことなんだろう)


 アミルはメメに割り振られた範囲の壁を眺めて歩きながら一人思考した。


 現状この洞窟でメメ以外の魔術が発動したような気配はない。もし発動されていれば、魔力の変化から少なくともアミルは察することができる。

 そして魔力を通さない物質に【魔術文字】を刻むことは物理的に不可能。……と、なるならば、残りの可能性は必然的に絞られてくる。

『魔術発動を目的としていない魔術文字』の存在。

 しかしこんなものは本当に何の意味も持たない。言ってしまえばただのラクガキである。

 メメはそんなものを見つけるために、わざわざこんなところまでやってきたというのだろうか。

 骨折り損の草臥(くたびれ)儲け……いや、草臥れるほども儲けていない。それだけの無駄足だ。

 けれどアミルが考えられる可能性としては、もはやそれくらいしか残されていなかった。


「――――あれ?」


 思考に行き詰まったアミルの右耳を突いたのは、一人の少女の声だった。

 顔を上げて声の方を見ると、そこには自分の割り振られた範囲ギリギリの所で壁に鼻を付けんばかりに接近したアネラスの姿があった。

 端正な横顔をぐむむ、と苦考に歪め、しきりにメメからもらった【魔術文字】のメモと見比べている。

 そのあまりの苦悶の表情に、アミルはたまらず声をかけた。


「ど、どうしたの、レムクルーゼさん?」

「へっ? ……わひゃぁっ!? ボ、ボードネスさん、いつからそこに!?」

「今来たばかりだけど……」


 よほどアミルの登場に驚いたのか、アネラスは顔を真っ赤にして飛び退いた。


「……見てました?」

「えっ、何を?」


 もしかして、メモとにらみ合いをしていた顔のことだろうか? つい反射的に問い返してしまったが、その可能性は非常に高そうである。

 しかしアネラスはアミルの反応を見ると、慌てて両手を顔の前でぶんぶんと振った。


「い、いえっ! 見てないならそれでいいのですわ。ボードネスさんは何も見ていない、もし見ていたとしても見ていない。いいですわね?」

「う、うん……?」


 人差し指を口元に押し付けずいっと顔を近づける彼女の迫力に気圧されて、アミルはぎこちなく頷いてしまった。

 多少の疑問は残るが、わざわざ女の子に『さっきの凄い顔、どうしたの?』何て聞き返すほど彼も愚かではない。

 彼女の言う、見ていた、とは、また別のことなのだろうと、アミルは自分の中でそう落としどころを付けた。

次話もよろしくお願いします


twitterID:@K_Amayanagi

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