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文字数:1555字
「えぇぇいっ!」
ガキィンッ、と剣戟の音が轟く。
紅い火花が緑透の空間に舞い、桃髪の少女と骸骨の剣士との間で散る。
アミルたちは現在、洞窟に足を踏み入れてから一時間の時を過ごしていた。
洞窟の内部構造は常に緩やかな坂のようになっていて、深部に行くにつれて周囲の壁から降る翡翠の燐光がその色度を段々と増していた。
度々現れる分かれ道はメメの誘導によって時間を取られることなく進むことができており、足を動かした距離で言えば、もうそろそろ二K半には到達するだろう。
今のように魔物と交戦している時間もごく僅かであり、かなりのハイペースでこの洞窟を踏破しつつあるのではないかと、アミルは密かに感じていた。
「……何というか、じゃな」
「うん?」
前方で前衛であるアネラスとクラネが、行く手を阻む骸骨の魔物、スケルトンたちを相手取っている間、暇を持て余していたメメが苦笑を浮かべつつアミルの傍まで歩み寄ってきた。
彼女は非常に言いにくそうにもじもじとしている。
今もなお交戦中、そしてあまり手こずっているとは感じられない二人の少女の戦いぶりを眺めながら、口にするべき言葉を探していた。
「どうしたのさ」
「いやまあ……その、な」
「?」
流石に首をかしげたアミルを見て、目下の少女は『正直に言おう』と決意を固めたようだ。
うん、と一つ頷き、改めて少年を見上げる。
「――お主ら、強すぎんか?」
これまでで相手取ってきた敵の数は、思い出しながら数えるだけでも三十は硬いだろうか。
見ている限りでは、どうやらアネラスも魔物の討伐に慣れ始めているようだ。
まだ少し怯え腰ではあるが、骨だけで身体を構成したスケルトン相手に手堅く立ち回っている。
「う~ん……そうかな?」
「何が『そうかな?』じゃ! 特に、何じゃあのクラネの動きは! 一人でアネラスの方に向かったスケルトンごと根こそぎ倒してしまっているぞ!?」
「あー、それはいけないよね、やっぱり。レムクルーゼさん自身のためにも、もう少し敵を送ってあげないと――」
「――そういうことでもないわっ!」
ぜぇはぁ、とクラネの方を指さしながら肩で息をするメメ。
対しアミルは再び首をかしげていた。
「それに……アミルよ、お主は何故先ほどから手を出そうとしない」
「だって面倒臭いし」
「う……はぁ、確かにクラネやアネラスが言っていた通り、お主は極度の面倒臭がりのようじゃ」
諦めたのか疲れたのか、メメは深い溜息を吐いた。
先ほど聞いた彼女からの情報によると、洞窟の奥へと至るまでは残り半分を切ったとのこと。
別にこちらは時間に追われているわけでもない。このまま無理せずペースを保ったまま歩みを重ねていけば余裕で到達する。
しかしこの順調な中、アミルには一つだけ気になることがあった。
「……メメ。正直に言って、この洞窟はぬるすぎる。さっき入口でここがすべての遺跡の根源だとか言っていたけど、僕にはどうしてもそこまで大層な場所には思えない。まあ、この程度を調査しきれなかったエレシュメルンのギルド加入者グループが弱かったって可能性もあるけど……」
平均を見れば、この洞窟から生まれ出る魔物たちは決して弱いとは言えない。クラネが規格外というだけで、アネラスには確実に疲労を蓄積させている。
けれど、まがりなりにもギルドに所属し、さらにはギルドから直接指名されてまで洞窟の調査に向かった者らが、このレベルすら満足に攻略できなかったと考えるのは些か不自然だ。
――この洞窟にはまだ何か秘密がある。
そう考えるのが一番妥当だった。
問われたメメは一度顔を伏せたあと、アミルに向くことはせず、ただただ前を見上げてこう言った。
「それは、この洞窟を奥まで見れば分かることじゃ。どうせ今ここで言っても、お主らには信じられん」
次話もよろしくお願いします。
TwitterID:@K_Amayanagi




