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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:2078字

「――いいや。アミル、それで正しいのじゃ」

「え?」


 依頼書と実際の現場との相違を指摘したアミルに、再びメメによる制止の声が上がった。

 側にいたアネラスとクラネも含め、全員の視線が今一度彼女の背中に集まる。

 入口から吹く風に、メメの奇妙なデザインの服がたなびいた。


「あらゆる物理法則を破る不明瞭領域。無から有を生む存在。すべての遺跡の……根源(ルーツ)

「遺跡の……根源(ルーツ)……」

「そうじゃ。ウチはここへたどり着くために、ロイフェーリト帝国なんて所までやって来た。……長い、長い道のりを超えて」

「メメちゃん……」


 その小さな背中に、アネラスが手を伸ばそうとする。

 けれど、何を感じたか。伸ばしたその手は空を掴むだけだった。

 少女の身に幾何の過去があるかは分からない。アネラスは今、まだ自分が彼女に手を伸ばせる存在ではないと、そう自覚してしまったのだ。


「遺跡……と言えば、ロイフェーリトは別名『遺跡の国』とも呼ばれているな。国内、都市の外にいくつもの遺跡を保有し、それらを管理していると」

「クラネは物知りじゃな。……ウチは、ある目的を達成するために、遺跡を調査しに来たのじゃ」

「ある目的?」

「悪いが、それに答えるわけにはいかんのじゃ。これはウチだけの問題。いや、ウチら(・・・)がこの世界に残してしまった、混濁への償いだから」


 少女は語りの中、こちらに振り向くことは一切無かった。

 アネラスが近づくことを躊躇ったその背中。どんな過去が刻まれているのか。

 アミルでさえそれに関した疑問は尽きない。だがそんなものも、くるりと振り向いた少女(メメ)の顔に浮かんだ笑みがかき消してしまった。


「さて、こんな暗い話はおしまいじゃ。簡潔に言えば、ウチの目的とギルドが出した依頼の目的は一致しておる」

「つまり、この洞窟の調査?」

「うむ。まあとりあえず洞窟の最奥まで行けば後はどうとでもなる。あ、ちなみにこの洞窟、魔物は出るぞ」

「えぇっ!? で、でもボードネスさんが言うには魔物はいないはずだって……」

「アネラス。この洞窟には魔物が"いる"んじゃない、"生まれる"んじゃ」

「う、生まれる……っ!?」


 メメの話によれば、この洞窟は"魔物を生み出す"ことが出来るのだという。

 それは、千年前に魔王がなし得たこととほぼ同義。

 世の理に反し、下手をすれば、世界の構造そのものに影響を与えかねない大いなる力。

 しかしメメは、そんなとんでもないことを平然と言ってのけた。


「まあ、安心せい。その力も厳密に言えばこの洞窟の力の一端に過ぎん。本当はもっと別の所に余力を割いているはずじゃから、そんな一気に溢れ出る、ということは無かろう」


「お主の心配しているような事が起こるほどでもない」と、少女は最後にアミルの方を見ながらそう告げた。


「ここで生み出された魔物はこの洞窟を出ることを許されない。もし万が一があった時には、急いでこの洞窟を抜ければ、ひとまずの危機は免れるじゃろ」

「そ、そうなのですね……」


 アネラスがほっと胸を撫で下ろした。

 出現する魔物の種類は不明。何しろ、この洞窟は生きている(・・・・・)

 アミルたちよりも前に来た十のグループの動きを学習したように、内部に出現する魔物も、段階を踏むごとに手強さを増すと言うのだ。


「とにかくこの洞窟に関しては、ここで考えていても仕方がない。お主らの実力も見てみたいところじゃし、さっさと進んでしまおう」

「それはいいんだけど……ねえ、メメ。君は随分とこの洞窟に詳しいんだね。ギルドが十個もグループを送って得た情報より、遥かに多くの情報を持っているみたいだ。それこそ……まるで自分が見てきたように」

「――」


 ここに来て饒舌だったメメの口が一瞬動きを止めた。

 瞳を覗き込み、すべてを見通してしまうかのような少年の双眸に、メメは固まる。

 ……でも、すぐに笑みを返した。


「あったりまえじゃ! ウチがこの洞窟の情報を漁りに漁った年月、どのくらいじゃと思う? 三年じゃ、三年! つい数ヶ月前にこの存在を知り、たかだか十個程度のグループを送って知った気になっておるギルドの連中と比べるでない!」


 メメはその小柄な胸をでん、と張った。

 誰に似たのかは知らないが、そんな彼女の様子を見てアミルは微笑を浮かべる。


「……そっか、変なこと聞いてごめん」

「別に構わんのじゃよ」


 魔女姿の少女は、にっ、と笑顔でアミルを見上げた。


 それから改めて隊列を組む。

 まず、前衛を務めるのは剣を獲物とするアネラスとクラネ。

 次に、戦闘では殆どが攻撃寄りになってしまう魔術師のメメを置き、最後尾に回復役も同時に務める魔法師のアミルを配置。


「――それじゃ、行きますわよ!」


 先頭を歩くアネラスの号令に、四人全員が返事を返した。

 隊列を組んで洞窟を進みだした中、メメは誰に悟られることもなく、一人胸の内で言葉を漏らす。


(……これで、いいのじゃ。ウチは、この洞窟の調査が終わったらもう、この者らとは――)


 元から決めていたこと。だから、心の状態で敏感に変化する体内の魔力は反応しない。

 故に、それはアミルでさえ事前には測り兼ねる気持ちだった。

次話もよろしくお願いします。


TwitterID:@K_Amayanagi

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