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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
二章 真理の遺跡
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文字数:1386字

「――」


 洞窟に足を踏み入れた瞬間、アミルたちは目の前に広がった光景に息を飲んだ。


 ごつごつとした岩肌から降るのは、まるで透き通るように美しい翡翠の燐光。

 陽の光は届かず、灯りも無い空間だというのに、そこは輝きに包まれていた。

 ともすれば水晶のような岩壁は洞窟の奥深くまで続いており、途中で分かれている二股路の先までしっかりと緑一色だ。

 幻想的。もしこの光景を表現するのなら、そういった言葉が一番ふさわしいのだろう。

 内部は入口の大きさと比例しかなり広大。壁から壁まで大人が一人ずつ横に並んでいったとして、二十人は余裕を持って並べそうである。

 それだけの規模を持つからこそ、幻想的なこの空間に目を奪われるのだ。、


 しかし、驚くことはそれだけではなかった。


「この洞窟……生きている……んですの……?」


 翡翠の燐光で覆われた壁は――――動いていた(・・・・・)

 ドクドク、とまるで心臓が鼓動するように。血液が脈打つように。

 そっと触れれば一定間隔で手のひらに感触を返してくる。

 当然奥まで伸びる壁もすべてそのようになっており、どう考えても普通でない光景が今目の前に広がっているのは明らかだった。

 ――まさに、『生ける洞窟』。

 アネラスは驚きを隠しきれていない表情で壁に手を付け、クラネもまた首を上に向けて天井などを観察しながら、うーんと首をひねっている。


「私も洞窟にはギルドの仕事で何度か訪れたことがあるが……こんな洞窟は初めてだ。もしかして、これはロイフェーリト特有の――」

「――いいや、それは違うのじゃ」


 青髪の少女の考察を止めたのは、小柄な魔女姿の少女だった。

 一番最後に洞窟へと足を踏み入れたメメは、その頭に被った大きな三角帽を揺らしながら、洞窟の様相に呆気に取られるアミルたち三人よりも前に歩み出る。


「待っていた。待っていたのじゃ、ウチは。いやまさか、国の内部に潜入せずともギルドから入ることになるとはな」

「メメ……ちゃん……?」


 突然何事かをぶつぶつと言い出したメメに、アネラスが怪訝そうな顔をする。

 彼女は依然こちらに背を向けたまま、そのぶかぶかの服を愉快そうに揺らした。


「……ちょっと待って」


 そんな張り詰め始めた空気に、少年の声が投じられた。

 懐から出した依頼書をまじまじと見つめるアミルの顔には、何かがおかしいと書かれている。


「ここがもし、依頼にある通りの『生ける洞窟』なんだとしたら、ちょっと変だ」

「どういうことだ、アミル?」


 問うてきたクラネにアミルは依頼書をもう一度見せ、ある場所を指で示した。


「ここを見て。魔物報告欄にそれぞれの魔物の名前があるでしょ? つまりこの洞窟には、これらの魔物が潜んでいるはずなんだ。でも……」


 言葉はそこで一旦区切られる。それからアミルは何かを確かめるように洞窟の奥をじっと見つめた後、改めて口を開いた。


「……でも、僕が【索敵魔法】で周囲を見た限りじゃ、魔物の気配なんて一つもない(・・・・・)

「……!」


 魔物は本来、一度生まれればその命が燃え尽きるまで勝手に消滅することはない。

 さらに言えばただの動物よりもあらゆる場所が強化されているため、寿命自体も長いのだ。

 だから、魔物の報告があり、それらをすべて討伐したという記録もないのに、突然魔物たちが姿を消すのは不可解なことなのである。

 この洞窟で一体何が起こっているのか、それを確かめる必要がある。

次話もよろしくお願いします


twitterID:@K_Amayanagi

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