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文字数:1228字
「……みんな、ちょっといいかな」
歩きながら、しかし声音は誰にも犯されていない、しっかりとしたアミルの声で。
森の洗礼を受ける三人の仲間たちに優しく語りかける。
「ボードネス、さん……?」
顔は向けられないが、アネラスがこちらを見上げてくる姿が目に浮かぶ。
四方八方から容赦なく降り注ぐ恐怖に耐えながら、目上にある自分にとっての信じられる希望を必死に見つめている。
アミルはゆっくりと口を開いた。
「この依頼は、僕たちが達成するべきなんだと思う。いや、きっとそうしないと意味がない。僕らはギルドの人間だから……なんて綺麗事を言うつもりじゃないんだけど……なんて言うのかな……」
「アミル……?」
クラネが怪訝そうな声を上げる。
やっぱり自分はこういうことをするタマじゃない、アミルはこの瞬間改めてそう感じた。
アミルという人物は、常に適当で、常に面倒臭がりで、常に無感情な存在。誰とも、分かり合えない存在。
……けれどそんな自分が、この旅を続けていくうち、段々と変わる気もした。
だから今は。今だけは、凝り固まったこの空気を弛緩させる道化になろう。そう決意する。
「えっと、そうだな……みんな、まずは目的地の洞窟を目指そう。多分、ここからもうすぐで着くと思う。だから僕を信じて、そこまではどうか頑張って――」
「――ふふふっ」
落ち込んでいた空気に、少女のこらえたような笑いが広がった。
「……む。レムクルーゼさん、そんなに僕の言うことがおかしかったのかい?」
「い、いえ……そう言う訳ではないのですが……何というか、普段面倒臭がりのボードネスさんが『頑張れ』なんて言葉を使っていると思うと……」
「くく……確かに。冗談が過ぎると言うものだ」
「クラネまで……」
僅かばかり、氷のようだった空気が溶けていく。小さな笑い声が、不気味に奏でられる森の演奏をかき消した。
アミルはむっとさせていた表情をすぐに戻し、柔らかく微笑む。
真面目なことを言えない自分には、所詮道化がお似合いだ。それでも彼女たちを少しでも笑わせることができたのならば、やった甲斐があるというものだろう。
今まで状態の分からなかったメメも、ようやく笑ってくれている気がした。
「ならば洞窟は勿論、私たちを誘うこの森にも見せつけてやらねばならんな?」
「ふふっ、そうですわね。ギルドの人間の意地、とくとご覧に入れて差し上げましょう」
心を入れ替えたアミルたちは今までよりも軽い足取りで森を進んでいった。
それこそ森に見せつけるように。もう自分たちにそんな小細工は通用しないのだと言い聞かせるように。
次第、森の魔の手が引いていく感覚がした。アミルたちの軽く、それでいて芯の通った歩みに気圧されたか。
いずれにせよ、彼らを惑わす存在はもういない。
そして。
「――――」
足が止まる。
森が、人成らざる何かが、止まれと最後の命じを出す。
風が、アミルたちを歓迎する。
「――――ここだ」
深緑の苔に覆われた頭上遥かな入口を構えた洞窟が、その姿を現した――。
次話もよろしくお願いします
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