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文字数:1530字
「アネラスぅ……怖かったのじゃぁ……」
「よ、よーしよーし、ですわ」
アグラザッドと最後に名乗った軍人が去った後、アミルたちは一旦事件のあった現場から離れていた。
特別何処に向かっているというわけでもないが、アネラスの提案から、アグラザッドに射竦められたメメを少し慰めようということで帝都内を見物がてら歩いている。
そしてそのメメは今まさに、アネラスに泣きついていた。
「ほんとに怖かったのじゃ……なんなのじゃあいつは……。ウチは食べられてしまうのかと……」
「あはは……大丈夫ですわよ、きっと食べたりなんて酷いことはしませんわ。でも……なるほど、あれが噂に聞く『鬼のアグラザッド』ですのね」
「何? その呼び名」
胸の中で泣きじゃくるメメの頭を撫でながら考え込むアネラスにアミルが問うた。
――『鬼のアグラザッド』。
それは、"自分に厳しく他人に厳しく"を地で行く生粋のロイフェーリト国民である軍人、アグラザッド・ルーメルに付けられた呼び名だ。
どんな些細な罪も見逃さず、彼の手に掛かれば解決できない事件はない。そして犯人を捕まえた暁には、二度と罪を犯せなくなるような厳しい処罰を与える。
部下たちも彼の直々の手によって選抜されたエリートたちばかりで、毎日行われている訓練も尋常でないという。
一部の人々からは『やり過ぎだ』との声も上がってはいるものの、事実彼がロイフェーリトの犯罪数の少なさに大きく貢献していることから、そのことをあまり大手を振って言い回る者はいない。
ロイフェーリトもロイフェーリトで彼を貴重な人材として扱っており、罪人に対する過度な処罰にも何も言わないのが現状だ。
さらに彼の知名度は国外にも広く知れ渡っており、国内に至ってはその名を聞くだけで、これらの理由から恐怖のあまり逃げ出す者もいるほどだという。
「私もその呼び名は耳にしたことがある。彼が重きを置くのはあくまで"罪を犯すか犯さないか"であって、どんな理由であれ自分の部下が罪を犯せば例外なく罰する……非常に冷徹な、機械のような人物だと」
「ええ、その通りですわ。私も以前ルレリックに来たロイフェーリトの軍人さんから伺ったことなので直接見たわけではありませんでしたが……先ほどので、噂にも納得がいきそうですわ」
国を護る役目にある以上、少なからずアグラザッドのような人物は必要なのだろう。
特に、このロイフェーリト帝国においては。
「……っと、これ以上この話を続けるのはよろしくありませんわね。メメちゃんがまた泣いてしまいますわ」
「うぅ……。子供扱いされてる感が否めないが、今はそうして欲しいのじゃ……」
「しかし、これからどうする? 移籍は既に済んでいるとは言え、一度ギルドに顔を出すか?」
「そうですわね……」
アミルたちは現在、大通りであるメインストリートから少し西に逸れた通りを歩いていた。
しかしメインから外れているこの道も相当に広く、様々な店が軒を連ねている。
その多くは飲食店が大半を占め、やはり立派な外装のもと、気品ある人々の出入りが見られた。
このロイフェーリト帝国という国に住む種族は、そのほとんどが人間族で構成されている。
時たまエルフ族が見られる程度で、他の国と比べて人間族以外の種族は圧倒的に少ない。
別に国を挙げて獣人やドワーフといった種族を拒否しているわけではないのだが、恐らくロイフェーリトの放つ厳格な雰囲気が彼らを寄せ付けないのであろう。
人間族は基本的にどんな環境にでも適応できる種族であり、またエルフ族はプライドが高く高貴な志を持つ者が多い。よって、このふた種族がロイフェーリトに残ったのだ。
そんなクラネの言う通りやはりギルドへ一旦向かうのが一番か……と思っていた矢先、目の前に巨大な施設が姿を現した。
次話もよろしくお願いします
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