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文字数:1719字
あれは、今から数年前の話だ。
『彼の騎士団にこの男ある限り、ランゼルグに崩国の文字はない』
周囲の強国にそこまで言わしめた人物が病に倒れたのは。
ランゼルグは元々小さな国だった。
それは、そもそも国を統治する存在が『王』でも『皇帝』でもなく、単なる貴族の一家に過ぎなかったからだ。
周辺諸国に見せつける威光と権力は他と比べると明らかに劣り、先代の努力も虚しくランゼルグは建国初期から衰退の一途をたどっていた。
しかしそんな中。まるで窮地を救うようにして騎士団長へと上り詰めてきたのが、後に歴代最強として名声を上げるガーフ・アイセンスその人だった。
彼は戦いに身を置く騎士という立場にあるにも関わらず、天才とでも言うべき外交術を備えていた。
他国が今まで貿易の際に請求していた不当な額の税金を取りやめさせ公平な関係を築き。
数ヶ国間で密かに進んでいた『ランゼルグ公国領植民地化計画』を抑制し。
さらにはこの頃から流行りだしていた『ギルド』のシステムを素早く取り入れ、国内での物資や金の流通を潤滑にした。
このように、ガーフ・アイセンスという男は騎士団長の立場を逆手に取り国を改革、動かしていった。
これがたった三年の間の出来ごとである。
三年という年月でランゼルグはかつての衰退国の面影を完全に消し、立派な一国家として成り上がったのだ。
では何故、国家レベルの組織に短期間でここまでの成長を、ガーフは遂げさせることが出来たのか。
それには彼の類稀なる外交の才能もあるが、それ以上に。
やはり、"騎士"としての実力が規格外だったことにあるだろう。
騎士団長の座に上がった当時の彼の年齢は二十八。
それまでランゼルグの騎士団長を担って来た人物は軒並み三十も後半に足を踏み入れており、二十代での騎士団長就任自体が極めて異例だった。
本来ならば、まだ騎士団内の中隊長として戦場を駆けている年齢だ。
そんな人物が騎士の中で最高の実力と認められる騎士団長になればどうなるか。
答えは簡単だ。
彼は騎士団長に上り詰めた直後から、周囲の国に対して自らの力を示しに行ったのだ。
つまり、戦争である。
しかし周知の事実として、ランゼルグは小国だ。
そんな国から突然戦争の誘いを受ければ、受けた国は当然のごとくそれを快諾する。『格好の獲物だ』と。
だがランゼルグから選りすぐりの騎士を集めて作り上げた専用中隊を率いたガーフは、これを圧倒的なまでに叩き潰した。
戦況の百手先すら過去に追いやる抜群の千里眼。
それによって導き出される完璧な騎士の布陣は、十倍近くの戦力差を軽く埋めてお釣りが来た。
いや、彼が凄まじかったのは、何もその眼だけではない。
剣士としての実力は当然。接近戦を主な戦法とするにも関わらず、ひとたび彼の間合いから外れれば飛んでくるのは対軍魔法。
正確無比なその一撃は、紙一重のところでガーフたちに直撃しないよう微細に調整された機械のような魔弾。
――それは、彼の右腕と謳われていた女性が放ったものだ。
ガーフという人物の才能は外交、戦術に留まらず、そのカリスマ性にもあった。
部下からの信頼も厚く、誰一人として彼の作戦に文句を言う者はいない。
それが最善の戦略だと分かっているから。
最初の戦争の結果はすぐに世界に知れ渡った。
しかし世界の目など気にすることなく、ガーフは次々とランゼルグを脅かす国々に戦争を仕掛け、そのすべてにおいて勝利を収め続けた。
『ランゼルグ公国領植民地化計画』の抑制はこれの最中に行われ、既にガーフに大敗を喫していた国が関わっていたこの計画は、一瞬の内に白紙になったという。
次第、負けた国の中でもランゼルグにほど近い国に属していた小さな町や村が徐々にランゼルグ領になっていき、弱小国だったランゼルグ公国はその規模も拡大していく。
その後、もう十分強国としての地位を築いたランゼルグがさらに強さを見せつけるために『ランゼルグ大公国』と国家名を改めたのはすぐのことだった。
――それはまるで、ガーフ・アイセンスという人物を"時代"が生み出し、弱小国に反旗を翻すチャンスを与えたかのような物語。
――だからこそ、彼が力を失った時、ランゼルグは焦ったのだ。
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