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文字数:1126字
周囲の温度が、突如として低下する。まるで極寒の地に足を踏み入れてしまったかのような感覚に襲われた。
クラネは、魔法を発動していた。しばしの詠唱を聞き届けた精霊たちは、彼女に力を授ける。
【氷魔法】ゼロ・ワールド。本来は対象に向けて、遠距離から空気を侵食していく魔法なのだが、クラネはそれに独自のアレンジを加えて、自身の剣に宿している。
それが彼女の得意とする戦法。魔法を剣に宿すことで、擬似的ではあるが、魔法を放ちながら剣による立ち回りが可能となるのだ。
受け止められた銀剣に、氷の筋が走り始める。ピキピキと何かが割れるような音を立てたかと思えば、それは瞬く間に周囲の侵食を始めた。
刃を軸にして氷の結晶が展開される。
「――」
身の危険を感じたのか、レスティは素早い判断でその場から離脱する。
すると数刻もしない内に、張られた魔法の壁は氷の塊と化した。
クラネは、口元をニヤリと釣り上げた。
「ア、アミルさん! このままでは、あのお二人の戦いが続いてしまいます……! 何か止める手は……」
「――それは愚問だよ、レムクルーゼさん」
「へ……?」
アネラスが問い返すより先に、少年は戦場へと歩み出していた。
直前に見せた横顔は何かを感じ取ったようにも見えたが、その真意を間違えることなく読み取るのはアネラスでは到底できない。
「止める手、なんてもう存在しない。弟子は今、師匠との戦いに身を投じてる。そんな中で僕たちが出来るのは、せいぜい仲間の援護くらいなものだよ」
「まぁそもそも、僕は戦いなんて疲れるし面倒臭いしで嫌なんだけど」最後に彼らしい一言を添えて、少年の背は再び遠くなっていく。
質素なデザインの羽織り物を靡かせながら、激しい攻防の続く戦禍へ魔法による援護を図る。すぐに戦場に、一筋の稲妻が迸った。
アネラスには分からなかった。
クラネが自らの師匠であるレスティと、いくら洗脳されているからとはいえ、本気の戦いをする意味が。
アミルが嫌だ面倒臭いなどとのたまいながらも、何かを確信したかのように、戦の炎に油を注ぐ意味が。
置いていかれている気がした。
いや、彼や彼女には万が一にもそう言った考えはないのだろうが、今のアネラスにはどうしてもそう捉えることしか出来なかった。
――でも、そんな分からないことだらけの中で。ただ一つ、分かることがあった。
この戦いは、決して悲しい戦いなんかじゃない。
この戦いの先には、間違いなく何かがある。
だから、君も来い。
そういった思いが、先陣を切っていった二人の少年少女の背から語られている気がした。
「…………ああもうっ!」
やや乱暴に腰の鞘から剣を引き抜くと、非常に不本意そうな表情をしながら、アネラスもその足を前へと動かした。
次話もよろしくお願いします
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