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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
一章 英雄の目覚め
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文字数:2052字

 地下牢はやはり長く広大だった。

 まるで洞窟めいた作りをしており、こんなものが栄えた都市の地下に広がっているなど誰が予想するだろうか。

 光の届かないここを照らすのは、左右の壁に取り付けられた紅灯のみ。横並ぶ檻同士に開いた隙間ごとにそれは設置され、煌々と明かりを灯している。

 幸い、この地下牢は一本道であった。故に道に迷うといった選択肢はないのだが……それは同時に、遅かれ早かれこの地下牢の最奥部に足を踏み入れてしまうということだ。

 そして、小一時間ほど薄暗い道を歩き続けた頃。


「!」


 橙に照らされた道の先で、僅かばかり動きを伴う影がアミルたちの視界に入った。

 いや、正確には檻の中、といった方がいいだろう。

 向かい左手に設置された檻の奥に、何かしらがいる様子だ。

 あれから少し前を先導していたアネラスが数歩ほど先に檻の前に到着し、中を伺った。

 アミルもそれにすぐに続き、奥に広がる闇に視線を飛ばす。


 まず見えたのは、白く細長い、人のモノと思しき足部。

 靴は履いておらず、傷付いた素足のままで力なく地面に放り出されている。

 もう少し目を奥にやると、今度はやはり人の下半身と腕部が暗闇によって切り取られたように映る。

 これもまた力なく横たわっているようだが、生命の活動を証明する魔力は感じ取れるため、どうやら死んでいると言うわけではなさそうだ。

 そして、アミルがさらにもう少し首を上げると――――


「だあぁっ! ダメですボードネスさん! 貴方はそれ以上見てはなりませんわっ!」

「わっ!」


 突如、先行していたアネラスに両目を塞がれる。そのあまりの剣幕に、アミルは抵抗することも忘れしばし停止した。


「ちょ、ちょっと? 見えないよ、レムクルーゼさん」

「いいのです、それで! えぇ、貴方は見てはいけません、決して。これは、とても男性に見せられるようなものでは……」


 顔を若干赤らめながら、慎重に言葉を選びつつアミルに説明をしようとする。

 しかしそんな二人の横からひょい、とクラネが顔を覗かせて檻の中を見やった。


「やはりここにいたのか、攫われたエル……」

「クラネさんっ! しーっ!」

「いや、いまさら隠したところでどうとなるものでもなかろう。まぁ、少しばかり私が予想していたよりも酷い有様だが」


「アミルがこんなことを気にする性格(タチ)だと思うか?」続けられたクラネの言葉に、アネラスはうぐっ、と喉を詰めた。


「で、ですが、いくらボードネスさんと言えども一応は男性で……」

「キミみたいな女の子と分け隔てなく行動しているのだから、その時点でなんとなく察しはつきそうなものだが。……彼は間違いなく鈍いぞ」

「それは重々承知していますわっ!」

「なんか僕、ずいぶんと酷いことを言われているような気がするんだけど……」


 アネラスはアミルの両目をしっかりと封じながら、うーんうーんと考え込む。

 考え込んだ挙句、彼女は諦めたような息を一つ吐くと、アミルにある頼みごとをした。

 彼女の言うことに従い、彼は魔法で一枚の上着を召喚した。これには彼が面倒臭がって魔法の鍛錬を怠ったがために何の付加効果も付いていないただの布切れではあるが、アネラスはそれで構わないと言った。

 次いで、今度はクラネに【風魔法】でその上着を飛ばすように指示する。アミルはそのやり取りを耳でさえ把握していたが、視界は奪われているので何が行われているかまでは分からない。


(布を用意させたってことは、何かに被せる……?)


 そこまで思考が達したところで、ようやく視界が開けた。


「お待たせいたしました」

「う、うん……」


 人工的に造り出された暗闇から洞窟的な暗闇へ。橙の燐光を落とす地下牢に改めて目を慣れさせる。

 檻の奥にいたのは、静かな表情で目を瞑るエルフ族の女性だった。

 しかしその扱いは非常にぞんざいだったと見え、アミルが召喚した麻布が優しく掛けられている以外に彼女を表すのは凄惨なまでの裂傷と打撲痕。

 布によって手足の先と頭部しか見えない状況にも関わらず、その痕は数えるのもおこがましくなるほどだ。

 さらに見たところ、衣服すら着させられていないようだった。つまりアミルたちがここへ来る前までは、裸の状態でこの地下牢に放り出されていたということになる。


「恐らく……いえ、この方は間違いなく、攫われたエルフ族の一人ですわ……」

「そうみたいだね」


『――ですが、誘拐したエルフ族のその後は私たちの管轄外です。ジオネイル換金社の方で、もしかすると戒めを受けているかもしれません』


 ふと、あの少女の言葉が脳裏に流れる。

 初めから、攫われている、という時点でまともな結末は望めなかったのだろう。

 しかし、心のどこかで、こうであって欲しくないと思っていたのもまた事実。

 アミルとてアネラスと同じく、出来ることならば、世界が後ろ暗くなることは容認したくない。

 見たところ、奥で倒れているエルフ族の女性は成人を迎えるか迎えないか程度の年齢。

 未来だってまだあっただろうに。こんなつまらない(・・・・・)事件の犠牲になって、彼女の人生はどん底に落ちてしまったというのか。

次話もよろしくお願いします


TwitterID:@K_Amayanagi

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