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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
一章 英雄の目覚め
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文字数:2016字

「――あ…………」


 レクター――いや、この場合はフェルトと言ったほうが正しいか――の言っていたことは本当だった。


 ――彼女の用意した遊び(・・)に付き合えば、ヤツのところへ連れて行く。


 現段階では"ヤツ"という部分が何を指しているのかは定かでないが、少なくとも、また別のところへ行くための道標を提示している。

 その気になればアミルたちを各個空間に閉じ込めることだってできたはずなのに、フェルトはそれをしていないようだった。

 であれば、『ヤツのところ』に連れて行くということもそれなりに信用できるかも知れない。


「ボードネスさん!」

「ようやく来たか」


 ニセモノのフェルトを下し、彼女の消え去った場所に出現した【転移魔法】に乗って転移を完了させたアミルの眼前に広がったのは、四方八方全面石造りの地下空間だった。

 何故ここが"地下空間"だと分かるかといえば、以前にも一度来たことがあるからだ。

 前方奥には祭壇の様相を呈した四角形の台があり、これまた別の【転移魔法】が仕掛けられていると視える。

 左右上下を包み込むこの全面石造りにしてもそうだ。まるで何かの儀式を行う場所のような雰囲気を感じさせる空間にも、既視感を覚えざるを得ない。

 ――そう、ここは、()の雑貨屋裏に存在していた地下空間に違いなかった。


「二人とも……よかった、無事だったみたいだね」

「まぁな。私よりアネラスが先にいたことには少し驚いたが」


 クラネは顔に笑みを作りながら横のアネラスを見やった。


「え? そうなの?」


 アミルが問い返すと、「なんと、私が一番のりだったのですわ!」と元気よく言うアネラス。

 いつものようにでんっと胸を張り、どこから湧いてくるとも知れない自信満々な表情を浮かべている。


「別々に飛ばされたから、私はアネラスがどんな遊びに付き合わされたのかの細かいことまでは分からないが――」

「私の苦手な生き物がうじゃうじゃといて……うぅ、思い出しただけで鳥肌が立ちますわ……」

「――だそうだ」


 アネラスは実に嫌そうな顔をしながら、両の手の指を器用に動かす。どうやら、足を何本も持つ()が大量にいる空間に飛ばされたらしい。

 ……しかし、何故フェルトはそんな空間に彼女を飛ばしたのか。

 それを今、アネラス本人に聞こうかとも考えたが、どうしてか喉の奥から言葉が出てこなかった。

 アミルの中の何か"直感"めいたものが働きかけたのだろうか。


「しかし、アネラスは虫が嫌いとはな」

「な、なんですの?」

「いや、な。とてもキミらしいと思っただけだ」

「……それ、子供っぽいってことですわよね」

「どう取るかはキミ次第だ。ただ……私は、そんなキミも可愛らしいと思うが」

「やっぱり子供扱いしてるじゃないですのーっ!」


 二人のそんなやり取りを見て、アミルの中にあった彼女に対する疑問は段々と薄れていった。

 ポカポカ、とクラネの胸を叩くアネラスは、やはり子供らしい、とも思ったが。

 それを言うと間違いなく矛先が自分に向いて面倒臭いので、今度は自分の意志で言葉を留めた。


「……っと、今はこんなところで話している場合ではありませんわよね」

「うん、急いでエルフ族たちのもとに向かおう」


 冷静になったアネラスを連れて、前方の祭壇へと向かう。

 石材で組まれたそれの目の前まで行くと、やはり以前も見た【転移魔法】の仕込まれた回路のようなものが淡く光を放っていた。

 しかし今回は、前回と比べて流れている魔力の具合が違うようだ。……つまり、このままこの仕組みを作動させると以前とは違う場所に飛ばされる、ということだ。

 そしてその転移先こそが、『ヤツのところ』となるのだろう。

 その場所が果たしてアミルたちの目指すべき場所なのか、そうでないのか。判断はまだつかないが、おそらく、その心配はいらないと思えた。

 アミルは回路に手を添える。程なくして、弱かった光はその強さを増す。少年から送られてくる魔力に同調して、封じ込められた力を解き放つ。


「……この転移の先で、エルフ族の方々は助けを求めていらっしゃるのですわよね」

「恐らく……いや、きっとね」


 アネラスは未だ、今回の事件が信じられないでいるようだった。

 自らの城を出て、世界を見て、初めて分かること。

 彼女は今から、それを体験しようとしている。

 呆れるほどに真っ直ぐで純真な彼女が、この国の闇の部分を覗こうとしているのだ。

 それは新品のシーツの上に、珈琲(コーヒー)を零すようなもの。

 闇は光を侵食する。故に、アミルは彼女のことが心配でならなかった。

 そもそも、アミルの世界の調律を取るという行動に、彼女を巻き込むつもりはなかった。

 ただ、彼女に幾ばくかの"興味"が芽生えてしまったために、今もこうしてクラネという仲間を増やしながら、ともに行動している。


 ――最初は、ほんの少しの間のつもりだった。

 後に彼はそう語ることになるだろう。

 それほどまでにアネラス・フォン・レムクルーゼという存在は、彼の中で確実に大きくなっていた。

次話もよろしくお願いします


TwitterID:@K_Amayanagi

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