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混沌世界の面倒臭がり調律師  作者: 天柳啓介
一章 英雄の目覚め
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文字数:1699字

 閃光が街を焼く。

 太陽と同等の光力を吸収したのだから、それも当然であろう。

 光とは、熱を持つ。

 直接的な炎渦でなくとも、単なる光は強さを増せば高火力な熱線に生まれ変わる。固められた石材を焼くことなど造作もないほどに。


 フェルトが使用した魔法は俗に魔導(・・)と呼ばれる、"何らかの形で"禁忌の域に達した者だけが扱える魔の力だ。

 この力のせいで、フェルトは全てを失った。友も、家族も、帰る場所も。

 望んで得た訳じゃないのに、周囲の人間はまるで化けの皮を剥いだように人が変わり、彼女を孤立させた。

 それから彼女は人という存在を信じられなくなった。所詮人と人との絆とはそんなものだと、どこか達観めいたものを、まだ年若き少女は悟ってしまった。

 だから、フェルトにとってアミル・ボードネスという存在は。

『自分と同じ境遇(まどう)に手を染めながら、それでもなお、裏切りの未来を包する仲間たちとつるんでいる人間』として、酷く頭の悪い人間……救わなければならない人間と思えた。そう思ったからこそ、自らが所属する組織に勧誘したのだ。


 だが彼は――彼女の誘いを断った。

 ただ一言も発することなく、その無言をもってして、彼は拒絶した。


「っ!?」


 鋭い閃光。

 ……しかしそれは、フェルトの発していない、別の輝き(・・・・)であった。


「――――僕は、君と同じじゃない」


 荒れ狂う旋風。

 轟く雷鳴。

 燃え猛る暴炎。

 様々な属性が折り重なって。

 もはや芸術的とも言える混沌を生み出す。


 少年の声は、少女の()に届く。


「僕は復讐のためにこの時代まで生きたんじゃない。僕はこの世界が好きだ。だから、君みたいな"乱れ"を正すために、今ここにいる」

「ま、まさか……!」


 死門から生み出された赤橙の光弾。

 それは確かにすべてを灰に返す絶望の輝きだった。

 天地を翻し、時空を歪める、禁忌の力。

 それなのに。


「一つ、忠告をしておくよ。……たぶん、君が知っている大英雄ぼくたちは、君が思うよりもずっと強い(・・)

「…………っ!」


 少女の表情が苦に染まる。

 彼女は理解したのだ。この少年には、きっとまだ、叶わないと。

 下調べが足りなかった。そう言うほかないだろう。

 侮っていた。それが心理だろう。

 千年経った現在(いま)ですら超えられていない、超絶的な魔法実績を積み上げた少年。

 それが、アミル・ボードネスという存在だ。


 視界が、開けた。

 目を眩ませる赤い光はとうに消え失せ、辺りに残るはその爪痕。

 しかして対象とした彼の者は悠然と地に立ち、数多の属性を従えながら、それでもまだ余力を残している。

 すべての属性が、彼に味方していた。


「魔導を…………ただの属性魔法だけで………………?」


 ()は平等にして残酷。

 弱き者には敗北を、強き者には勝利を。

 才能を祝福し、凡才を蔑む。

 努力は魔の前にて無へと帰す。

 それが今、この時この瞬間、改めて証明された。


「悪いけど、僕は君なんかに構っている時間はない。君たちのこともいずれは正さなくちゃいけないけれど……今は、その時じゃない」


 アミルの傍らに、新たな魔法が生成される。

 炎、水、風。これらの元素が融合したと推測できる、三つ巴の魔弾。

 科学反応、という言葉がある。

 それをこの状況に当てはめるとしたら、魔学(まがく)反応という言葉が一番正しいのだろう。

 元素の融合は時として奇蹟を生み出すのだ。


「――先に行かせてもらうよ」


 ゆっくりと、生成された魔弾は()のフェルトの存在を消すために前進を始める。

 それは徐々に肥大化し、目の前に来る頃には、人の顔程度の大きさだったものが、全身を包み込むほどまでになった。

 属性の同時接触による魔法遮断(ショート)

 魔法投影(ホログラム)によって生み出された彼女を"殺す"のに、これ以上ない解答だった。


(これが……大英雄の力)


 少女は誰にも悟られぬ笑みを浮かべた。

 恐怖も絶望もしないのは、今の自分が真に肉体を持つわけではないからか。

 それとも、新たな興味の対象を見出したからか。

 答えは、彼女にしか分からない。


(……これは、あの方(・・・)に報告するべきですね)


 そして少女フェルト・レインハードの小さな身体は、神秘的な光に包み込まれた。

次話もよろしくお願いします


TwitterID:@K_Amayanagi

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