38
文字数:1699字
閃光が街を焼く。
太陽と同等の光力を吸収したのだから、それも当然であろう。
光とは、熱を持つ。
直接的な炎渦でなくとも、単なる光は強さを増せば高火力な熱線に生まれ変わる。固められた石材を焼くことなど造作もないほどに。
フェルトが使用した魔法は俗に魔導と呼ばれる、"何らかの形で"禁忌の域に達した者だけが扱える魔の力だ。
この力のせいで、フェルトは全てを失った。友も、家族も、帰る場所も。
望んで得た訳じゃないのに、周囲の人間はまるで化けの皮を剥いだように人が変わり、彼女を孤立させた。
それから彼女は人という存在を信じられなくなった。所詮人と人との絆とはそんなものだと、どこか達観めいたものを、まだ年若き少女は悟ってしまった。
だから、フェルトにとってアミル・ボードネスという存在は。
『自分と同じ境遇に手を染めながら、それでもなお、裏切りの未来を包する仲間たちとつるんでいる人間』として、酷く頭の悪い人間……救わなければならない人間と思えた。そう思ったからこそ、自らが所属する組織に勧誘したのだ。
だが彼は――彼女の誘いを断った。
ただ一言も発することなく、その無言をもってして、彼は拒絶した。
「っ!?」
鋭い閃光。
……しかしそれは、フェルトの発していない、別の輝きであった。
「――――僕は、君と同じじゃない」
荒れ狂う旋風。
轟く雷鳴。
燃え猛る暴炎。
様々な属性が折り重なって。
もはや芸術的とも言える混沌を生み出す。
少年の声は、少女の脳に届く。
「僕は復讐のためにこの時代まで生きたんじゃない。僕はこの世界が好きだ。だから、君みたいな"乱れ"を正すために、今ここにいる」
「ま、まさか……!」
死門から生み出された赤橙の光弾。
それは確かにすべてを灰に返す絶望の輝きだった。
天地を翻し、時空を歪める、禁忌の力。
それなのに。
「一つ、忠告をしておくよ。……たぶん、君が知っている大英雄は、君が思うよりもずっと強い」
「…………っ!」
少女の表情が苦に染まる。
彼女は理解したのだ。この少年には、きっとまだ、叶わないと。
下調べが足りなかった。そう言うほかないだろう。
侮っていた。それが心理だろう。
千年経った現在ですら超えられていない、超絶的な魔法実績を積み上げた少年。
それが、アミル・ボードネスという存在だ。
視界が、開けた。
目を眩ませる赤い光はとうに消え失せ、辺りに残るはその爪痕。
しかして対象とした彼の者は悠然と地に立ち、数多の属性を従えながら、それでもまだ余力を残している。
すべての属性が、彼に味方していた。
「魔導を…………ただの属性魔法だけで………………?」
魔は平等にして残酷。
弱き者には敗北を、強き者には勝利を。
才能を祝福し、凡才を蔑む。
努力は魔の前にて無へと帰す。
それが今、この時この瞬間、改めて証明された。
「悪いけど、僕は君なんかに構っている時間はない。君たちのこともいずれは正さなくちゃいけないけれど……今は、その時じゃない」
アミルの傍らに、新たな魔法が生成される。
炎、水、風。これらの元素が融合したと推測できる、三つ巴の魔弾。
科学反応、という言葉がある。
それをこの状況に当てはめるとしたら、魔学反応という言葉が一番正しいのだろう。
元素の融合は時として奇蹟を生み出すのだ。
「――先に行かせてもらうよ」
ゆっくりと、生成された魔弾は今のフェルトの存在を消すために前進を始める。
それは徐々に肥大化し、目の前に来る頃には、人の顔程度の大きさだったものが、全身を包み込むほどまでになった。
属性の同時接触による魔法遮断。
魔法投影によって生み出された彼女を"殺す"のに、これ以上ない解答だった。
(これが……大英雄の力)
少女は誰にも悟られぬ笑みを浮かべた。
恐怖も絶望もしないのは、今の自分が真に肉体を持つわけではないからか。
それとも、新たな興味の対象を見出したからか。
答えは、彼女にしか分からない。
(……これは、あの方に報告するべきですね)
そして少女フェルト・レインハードの小さな身体は、神秘的な光に包み込まれた。
次話もよろしくお願いします
TwitterID:@K_Amayanagi




