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文字数:1039字
アリマール北部に顕在する、ランゼルグ最高峰の建築物。
――ベルロンド宮殿。
リンザッド家という、貴族の中でも最上位の『大公』の爵位を授かった由緒正しき国家元首を護る最後の砦。
周囲は湖に囲まれており、宮殿へと近寄れる道はたった一本の橋のみ。
アミルたちはその威容に若干気圧されるとともに、これを掌握した敵組織の手腕がどれほどのものかを痛感していた。
「警備の騎士は……居ないようだな」
長く伸びた鉄橋の先には、本来ならば入口である大門を見張る警備担当の公国騎士がいるはずである。
しかし現在、まるで向こうから『入ってこい』と言わんばかりに、人影などまるでなかった。
敵……ジオネイル換金とその背後に構えているであろうもう一つの組織は、恐らくこの宮殿の中にいると考えられる。
「罠か何か……という可能性は?」
アネラスが問うてくる。
彼女の心配は尤もだが、アミルが解る限りでは、宮殿自体に何らかのトラップが敷かれている可能性は極めて低いと見ている。
その内部ともなるとさすがに外側からは分からないため、実際に入ってみるしか確認方法はないが。
ただアミルには、魔法師同士として、この宮殿にはこちらを陥れるような姑息な細工が施されていないと断じていた。
「多分、その可能性は無いと思う。あの時、僕たちにこの宮殿へ来るよう促した彼女からは悪意が感じられなかった」
言葉を聞いて、アネラスは再び宮殿へと首を向けた。
ランゼルグを象徴するかのようなその大きさは追随を許さず、アネラスとクラネによれば、統治者の持つ建物としては現在、世界最大らしい。帝国、王国、共和国……様々な国はあれど、王家ではなく、爵位を持った貴族一家が統治する国にしてはかなり異例なことであり、このランゼルグにおいてリンザッド大公家がどれほどの権力を持っているのかがはっきりとわかる。
それだけに、今回の事件の異常さも如実になるようだった。
「別に疑うわけではないが、悪意が感じられなかったとはいえ、警戒するに越したことはない」
「うん、当然だ。警備の騎士がいないのは、ちょっと僕も気になるからね」
「それなら、慎重に急ぐ……ですわっ」
若干矛盾の混じる発言に突っ込みたくもなるが、特に間違ったことを言っているわけではないので我慢する。
慎重に、かつ素早く、敵の懐までたどり着く。急がなければ、捉えられたエルフたちが何をされるかわからない。
一体、この宮殿の中に何が待ち構えているのか――アミルたちは決意を固め、銀碧の端に足を踏み出した。
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