恐怖の感覚
朝日が差し込み目が覚める。魘されることはなかったので気持ちのいい目覚めだ。手を開いて閉じて身体の動きを確認する。特に異常はなく安堵する。ちょうどそこに現れたシーラが声を掛けてきた。『おはようら!』と元気に言われたので、負けじとハルも『おはよう!』と返す。何気ないやり取りではあるが、それがとても有難い。一人でだったら耐えられない状態である。
「今日はどうするら?」
「瓦礫には用が済んだからな……」
シーラお手製の飲み物を口にする。見た目に反して美味しい飲み物をいつの間にか気に入っていた。少しドロドロする舌触りだが、それも慣れるとクセになる。
「……シーラ、今日のは昨日と違うな」
「そうら? 昨日と一緒の材料で作ったけどら」
グビッと飲んでグラスを置いたシーラは、『変わってないら』と言う。もう一度飲むハルだが、首を傾げて困り顔だ。
「じゃあこっちら! ジャガイモをトマトで煮たんら! お肉も一緒に煮込んだから、結構いい出汁が出てるら!」
「それは美味しそうだな!」
スプーンでスープを掬って飲む。ハルの感想を待っているシーラ。しかし、ハルの表情は固い。何度も掬って飲んでいくが、表情は固いままだ。
「美味しくないら?」
「……そんなわけないだろう。なんだかんだ美味しい」
「よかったら!」
ホッとしたシーラは食べ進める。必死に笑みを浮かべて食べるハルだが、スプーンを持つ手は震えていた。なんとか震えを抑えて食事を終えた。
「ちょっと外を歩いてくるよ」
「分かったら」
外に出たハルの表情は固い。頭を押さえて俯いている。次第にしゃがみ、身体を震わせていく。
(何だ何だ何だ!? どうなってるんだ!?)
耳を塞いで苦しみだしたと思いきや、鼻を押さえて苦しみだす。目をギュッと閉じて視界を遮断する。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!?)
道に倒れてしまい、更にもがき続ける。心配した街人が近寄るが、ハルが暴れて手が付けられない。
「君、大丈夫!?」
「うっ……るさい!」
「え?」
「……さっきから……さっきからっ……うるさあああい!!」
突然叫んだハルは、そのまま気を失って倒れてしまった。街の人々は慌ててしまう。その騒ぎに駆け付けたシーラがハルを連れ帰った。
※ ※ ※
「……うっ!?」
「やっと起きたら? 心配したのら」
目覚めたハルの視界に映るシーラ。心配そうにハルの手を握っている。
「俺……一体?」
「街中で暴れて倒れたのら。皆怖がってたら」
「ああ……そうだ、思い出した。人の声が沢山頭の中に聞こえてきて……色んな臭いを強く感じて……遠くのものが近くに見えて。普通の感覚じゃなくって」
「もう少し寝てるといいら。何かあれば呼ぶんら」
ハルから離れるシーラ。まだ頭に重さを感じながら天井を見るハル。手で目を押さえて溜め息を吐く。
「聴覚も嗅覚も視覚も普通じゃなかった。それに味覚も……味を感じない!」
自分の身体に起きた異常に恐怖し、身体を震わせ涙する。暫くの間、顔を枕に埋めて泣き続けるのだった。




