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異世界の悲劇

 ルキに案内された店にハルは居た。何の説明もなく置いてかれていた。店員によって二転三転の見立て。渡されれば合わせ、首を横に振られての繰り返しである。そんなやり取りを三十分は続けている。そろそろ心労が限界を迎えていた。


(まだ終わらないのか? 俺、トイレに行きたいのに!)


「そろそろ本命です!」


(ようやくかあ)


 店員による本命を受け取ったハルは、それを黙って披露した。精一杯の笑顔を見せながら。


「やっぱり正解でした! とってもお似合いですよ! お連れの彼女もお気に召しますよ!」


 ようやく終わったことにホッとする。包んでもらった品を受け取って外へ。包んでもらっている間にトイレも済ませたからか、スッキリとした表情だ。


「あら、随分と晴れ晴れしているわね。スラムのことで落ち込んでいると思っていたのに。ワタシの自腹でのショッピングはどうだった? 袋を持っているということは、何かを買ったと言うことになるのだけれど」


「アロポリアだっけか? この街を歩くには不似合いだったから、ここの店員に予算内で見繕ってもらったんだ。で、残った予算だけどよぉ」


「こんなに!? ……」


「そ、それでも粘ったんだぞ!」


「こんなに残ったの!? キミ、一体どんな脅しをしたのかしら!?」


「正当な交渉だぞ! まとめ買いをするっていうのを条件にな。バラで買う時の半分で済んだんだ」


「意外な発覚だわ。キミの特技が、値引きだなんて」


「どっちかっていうと性分だ。前、セールスに上手いこと丸め込まれてな。そしたら、近くの店で半額だったことがあったんだよ! それが悔しかったのが始まりだ」


「セールスマンも必死だったのでは? ノルマがあっただろうし。そのセールスマンを擁護するわけではないけど、さぞかし人を惹き付ける話術だったのかしらね」


「思い出すだけでも腹が立つ!」


「そうやって学んでいくのよ。いい経験じゃないかしら」


「五千円で買ったものが二千五百円だったんだぞ。絶対に忘れてやるもんか!」


「何を買ったわけ?」


「フライパンセットだよ。ソテーパンとソースパンとその蓋に、玉子焼き用のやつと取手だ。フッ素加工でこびり付き難いのが特徴でだ~……」


「そこまで訊いてないわよ。じゃあ行きましょう」


「まだ途中だぞ!」


 はぁーっと溜め息を吐いたルキ。フライパンに熱くなるとは思っても見なかった為、自分の軽率な質問を反省したと同時に、ハルにフライパンの話をしてはいけないことを学んだ。


※ ※ ※


「なんだこりゃー」


「本よ。見て分からないのかしら」


「そうじゃない。こんなに大量の本の光景に驚いてたんだよ」


「本が大量に有っても不思議ではないわよ。アンオールの様々な書物が集まっているのだから。分かりやすく言えば、国立図書館よ」


 壁一面だけでなく、巨大な本棚にも無数の本がギッシリと。探すだけでも一苦労な広さである。


「ドーム何個分だ?」


「知らないわよ。ワタシ、ドームに行ったことないから」


「ま、いっか。そんな些細な疑問なんざ置いといて、ルキ、ここには何の用があんだ?」


「アンオールのことをピンキリ知りたいのでしょう? それならばうってつけの場所だわ」


「活字を読むのは苦手でよお」


「ワタシは戦いが苦手よ。その苦手を手伝ったのだから、キミも苦手に挑みなさい」


「大体、何を読めばいいのか分からないしよ」


「そのことなら心配要らないわ。ワタシが選んであげるわよ」


 図書館の真ん中に位置する受付に話し掛けるルキ。すると、何かを操作した受付の手元に本が現れた。


(何だあれ!?)


「何を驚いているのかしら?」


「本が急に現れたんだぞ! どんな仕組みなんだよ?」


「あの本棚と受付は、この世界の転送技術で繋がっているの。わざわざ取りに行く手間が省けるわ」


「医術は進歩しないのにかよ」


「ワタシ達が文句を言ってもしょうがないでしょう。それよりもこれ。本当にピンキリだと、幾ら時間があっても足りないから、ワタシがピックアップしといたわ。持ち出し厳禁だから、静かに座って読みなさい」


「マジかよ。マジで読むのかよ」


 ぶつくさと文句を言いながら、黙々と静かに読み始めた。どういうわけか文字は普通に読め、小難しい文体でもなかった為、活字が苦手なハルでもスラスラ読めた。時間にして二時間。その間、ハルの隣で本を読んでいたルキ。時折ハルを気にする素振りを見せつつ、特に手助けをすることはなかった。


「うーーん!!」


「キミにしては早いわね。ちゃんと読んだのかしら」


「失礼な。ちゃんと読んだよ。〝百年前は今の倍の大陸があった〟とか、〝今から十年前には戦争があった〟とか。〝そのせいで世界の人口は激減し、出生率も減少した〟なんてのも書いてあったな。なんだか踏んだり蹴ったりだよな」


「死火の影響も大きいわよ。赤ん坊すらも燃えてしまうから」


「〝死火と人類の関係は千年にもなる〟と。人類が誕生した当時はどうだったんだ?」


「この世界での人類史は三千年。死火による死も、人類の突然変異とする研究結果が発表されてるわ。そんなもの、誰も望んでなんかないのにね」


「なんだかな……まったくよ」


 椅子に凭れながら呟くハル。本を読んで疲れた目に、図書館の照明は堪えるのだった。

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