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小さな身体と大きな愛

 目を閉じて覚悟するラルロア。そんなラルロアの前に突然、メイド服の少女が現れた。クナイを男に投げ飛ばすと、鎖を巻き付けて動きを封じる。


「大丈夫ですか?」


「……ミラ! ど、どうして!?」


「ラルロア様が車を拾っていくのが見えましたので。物凄く焦ってらしたので気になってしまいました」


「「ラルロア! ナナ!」」


 ミラに続くように入ってくるリーリッドとシャリア。展望台の状況に驚く二人だが、ミラに呼び止められる。


「リーリッド様、シャリア様! 御気持ちは察しますが下で待機してください」


「でもミラ!? ラルロアが危ないよねん!」


「ナナを助けないといけないせえ!」


「坊っちゃん! 姫!」


 二人に待機を促すミラ。ミラの説得に黙って頷くしかない二人は、歯痒い思いをしつつ降りた。


(御二人を巻き込むわけにはいきません。必ず再会させます!)


「部外者は立ち入り禁止だぜ!」


「私、リルリッド専属メイドのミラと申します。当主の御子息のピンチの為、ナナ・シャナーズ様の申し出を破ったことをお許しください」


「リルリッドのメイドだぁ!? たった一人で何が出来る!」


 男の後ろで刃物を構えている集団。しかし、ミラが臆する様子はない。口元を緩めながら球体を投げると、黒い煙幕が発ったと同時に鎖を引っ張る。鎖に巻かれた男は振り回されながら仲間にぶつかった。


「魔術師狩りのようですね。噂は聞いております。魔術師を捕らえバラバラにし、臓器を売買しているそうですね」


「だったら何だ? 証拠でもあるってのか!」


「残念ながらありません。ですが今回の一件で充分な理由になります。捕らえる理由には」


「騎士団に渡すのか? ナナ・シャナーズが魔術師だってのがバレるんだぞ! シャナーズ家の評判はガタ落ちだ!」


「その心配には及びません。私が貴方達を引き渡す相手は、王族専属の騎士団ですので」


「はあ!? 何で王族が出てくる!」


「王様の認めにより貴族になるのは知っていますね? シャナーズ家と王族との繋がりは強いのです。王様とロン・シャナーズ様は友人関係にあります。ロン様の孫娘であるナナ様を誘拐し、危害を加えようとした事実を王様がお知りになればどうなるでしょう」


「なっ、なっ、なっ!?」


 男の顔が青ざめていく。そんな男に仲間が助け船を出す。『魔術師だと知れば、たとえシャナーズと親しい王でも只では済まさない!』と。


「魔術師が存在してはならないという決まりはありません。それに騎士団の団長は魔術師を認めています。王様が全幅の信頼を寄せる騎士団長がです」


 ミラの言葉に集団は黙り込んだ。暫くしてミラからの連絡を受けた騎士団が到着する。騎士団長のリンクがミラをチラッと見る。それだけで外傷がないことを確認すると、騎士団にテキパキと指示を出した。


「リンク様、ありがとうございます。私の無理を引き受けてくださり助かりました」


「王城や王族以外を守ってはいけないという決まりはありません。貴女の力になれて嬉しいです」


 獣化を解いたナナが座っている。肉体的にも精神的にも疲労困憊なのは直ぐに分かる。大した怪我がないことに安堵するラルロア。ナナに手を差し出すが、ナナは下を向いたまま。


「ナナ?」


「ラルロア……ごめんなんよ。怖くて誰にも言えなかったんよ……とうとう知られちゃったんよ」


「立てる? 騎士団長に背負ってもらう?」


「駄目なんよ。もう居場所なんてないんよ。生まれてきたのが間違いないだったんよ」


「何言ってるの!?」


「死火以外じゃ死なないって本当? ここから飛び降りたらどうなるんよ?」


 床を這いつくばるナナ。アロポリアを一望出来るガラスに近付いて立ち上がる。


「何をする気!?」


「獣化だっけ? あの姿になればガラスを割れる。そうすれば飛び降りれるんよ」


「駄目だよ! そんなこと!」


 ラルロアがナナに近付こうとするが、ナナはラルロアを制止する。腕だけを獣化させてガラスを割る。


「バイバイ。バイバイ……」


「ナナ様!」


 ナナの元へ駆けようとするミラだったが、リンクに腕を掴まれてしまう。『大丈夫です』とミラに言うリンクはしっかりと二人を見ている。


「……ラルロア」


 タワーの外に身を投げるナナ。吹き付ける風を感じながら目を閉じる。だが落ちる感覚がない。それどころか、足首を掴まれてる感覚がある。ゆっくりと目を開けたナナが自分の足首を見ると、必死に足首を掴むラルロアがいた。


「パンツ丸見えだよ、ナナ。女の子は恥ずかしいんじゃない?」


「何で!? 何で助けるんよ! こんな化け物を!!」


「化け物じゃないよ!! ナナは女の子だよ!!」


「そんな慰めいらないんよ!! 触っちゃだめなんよ!! こんな汚い化け物に」


「化け物じゃないって言ってるだろう!!!!」


 今まで聞いたことのないラルロアの声に驚くナナ。目を大きく見開いてラルロアを見る。ラルロアの目も大きく見開かれており、ナナの顔をジッと見ている。ジンワリと汗を額にかきながら、両手で足首を握っていた。


「……そんなこと……」


「それ以上、自分を悪く言ってみろ!! このままボクも一緒に落ちてやる!!」


「そんなの駄目……」


「だったら言うことを聞いてよ!! お願い……だから」


 ポロポロと涙を流すラルロア。大粒の涙が落下してナナに落ちる。懸命に引っ張るラルロアだが、そろそろ腕が限界にきていた。


「よく堪えましたね、リルリッド殿。貴方は立派に出来ることをしました」


 ラルロアの身体を抱き抱え引っ張るリンク。芋づる式に引っ張られたナナは、タワーの床に突っ伏した。


「私はミラ殿と下に行っています。落ち着いたら来てください」


 二人が降りていくのを確認したラルロアは、床に仰向けになった。すっかり疲れてしまい、座るのも躊躇う。


「もう無理、指も動かないよ」


「助けてよかった? 後悔してない?」


「しないよ、するわけないよ」


 指一本動かないと言ったラルロアだったが、ナナの手をそっと取る。ラルロアの手を握り返すナナの表情は穏やかである。


「ラルロアの許嫁……返上するんよ。その方がいいんよ」


「そんなの受け付けないよ。ボクの許嫁はナナだけだ。ナナ以外の許嫁なんて有り得ない」


「後悔するんよ?」


「しないよ」


「魔術師なんよ?」


「関係ないよ」


「……アタシがシャナーズとの血の繋がりが無いと知っても?」


「えっ?」


「偶然にも聞いてしまったんよ。屋敷の玄関に籠が置いてあったらしく、赤ちゃんのアタシが寝ていたそう。姉様の後に子供を授かれなかった両親はアタシを養子にしたんよ」


「そうだったんだ」


「金色の髪を生やした人間はシャナーズにはいないんよ。それで確信したんよ。だから、リルリッドの許嫁の資格は無いんよ、アタシ」


「関係ないよ。血の繋がりなんて」


「ラルロア」


「ナナ・シャナーズはボクの許嫁だよ。だけど、それはナナが〝シャナーズ〟だからじゃない。たとえ何者でも〝ナナ〟だからだよ! ボクが……ボクが好きなのは、ナナっていう女の子!」


「優しすぎるんよ」


「優しくしちゃいけない?」


「いけなくないんよ! 嬉しいんよ!」


「それならいいんだ」


 ナナの顔を見てニッコリ微笑む。ナナもまた、ラルロアの顔を見て笑顔になる。床に仰向けでいる方が疲れてきた為、起き上がりラルロアの手を引く。『そろそろ行こうか』と言うラルロアに合わせて立ち上がるナナだが、疲労が抜けていないラルロアがよろけた為、二人揃って倒れてしまう。


「ラルロア!?」


「ナナ!?」


 ラルロアに覆い被さる形になってしまい照れるナナ。あまりの顔の近さに慌ててしまい、尚更近付いてしまう。お互いの鼻先が触れあう。あまりの恥ずかしさに、お互いに固まってしまう。


「ど、どく……!?」


 恥ずかしさに身体は震えてしまい上手く動けず、またもや体勢を崩すナナ。気が付いた時にはもう、ラルロアの口を塞いでいた。


「うごおお!!!?」


 手足をバタつかせるラルロアだが、放心状態のナナは動けないでいた。仕方なく無理矢理顔を離したものの、ナナはラルロアに馬乗りになったままである。


「アタシ……ラルロアと!!」


「あはは。ちゃんと立てなかったボクが悪いよね、ごめん」


「許さない!」


「そう……だよね」


「初めてのキスは、ラルロアからしてもらうつもりでいたんよ! それがアタシからだなんて!?」


「えっ?」


「このままじゃ駄目なんよ。もう一回するんよ!」


「えっ!? ナ、ナナ!?」


 なんとか座ったラルロアだったが、ナナは退こうしないどころか、目を閉じて待っている。ラルロアが耳まで赤くなる。


「ラルロア、ほら!」


「ナナは強引だよ。ボクの心の準備が終わってないのに。それに卑怯だよ、そんなの。そんなに可愛いく待たれちゃ……しないわけにはいかないもんっ!!」


 幼い唇が重なり合う。恥ずかしさから、直ぐに離れたラルロア。そんなラルロアの様子にクスクス笑うナナ。ラルロアは、もっと耳を赤くした。


※ ※ ※


「ナナ!」


「姉様!」


 ミラから言われ待機していたシャリアは、駆けてきたナナを抱き締める。『苦しいんよ』とナナが言っても構わず抱き締める。


「ラルロア、勝手に先走っちゃ駄目だよねん! 僕がどれだけ心配したと……」


「ごめんなさい」


「……無事ならいいんだよねん。それと、お疲れさま」


 同じく待機していたリーリッドは、ワシャワシャと、ラルロアの頭を撫でる。危険だったとはいえ、ナナの為に奮闘したラルロアを嬉しく思うのだった。

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