女の勘
図書館から場所を移し、近くのカフェに腰を落ち着ける三人。三人共にコーヒーを注文して飲む。ハルとルキは砂糖を入れたが、ミントは砂糖を入れずに飲んでいる。
コーヒーを飲んで落ち着いたところで、これまでの事を説明するハル。適当に相槌を打ちながら聞いていたミントもまた、これまでの事を話した。
「「王城に行った!?」」
「仲良く驚く程のことか? ちょいと立ち寄っただけなんだけどね」
「フラッとコンビニに立ち寄るみたいなのとは訳が違うんだぞ」
「いいじゃねえか。手厚くしてくれたんだから。アンタは相変わらず固いね」
「ミントが緩すぎなんだよ!」
「そんなもんかね? まっ、知ったこっちゃねえけど」
「調子がいいよ、本当に」
「褒めても何もやんねえよ?」
「褒めてない」
ルキをそっちのけの言葉のキャッチボール。ルキが会話に入る隙はない。
(あんなにハルが生き生きしている。ワタシが会話に入る隙はないわ。なんなのかしら、この感じは)
「っと、ルッキー。さっきから黙りでどうした?」
「ルッキー!?」
「ルキってんだろ? だったらルッキーだ。一ヶ月もマルに付き合ってくれてあんがとね。コイツといると疲れるだろ?」
「そ、そんなことは!?」
「いーていーて! アタシも苦労してたから」
(苦労したと言う割には笑ってる。彼女は知っているんだわ、ワタシの知らないハルを。ワタシが知らないハルと長く一緒だもの……当然だわ)
「ミント、これからどうするつもりだよ?」
「あのキモデブの屋敷には戻りたくねえし。アタシの召喚が初成功だったみたいだから、元の世界に帰れる可能性もゼロだね」
「うーん……俺ん家に来るか? 畑仕事と薪割りが付くけど、住む分には充分だ」
(へっ!?)
ハルのミントへの言葉に固まるルキ。この世界での家族と一緒とはいえ、ひとつ屋根の下だ。十六歳の男女が一緒に住む、しかも幼馴染という関係。
「良いのかねえ? 二人きりになったらどうなるかね」
「冗談を言うのはやめろ。思ってもいないことを口にするなよ」
「分からねえよ? なんとなく雰囲気が出来上がって……」
(ミントは絶対ハルのことを!?)
「……どちらからともなく、流れるようにって感じになるんじゃね」
(何でワタシは焦っているのかしら!? こんなに手汗も凄いわ!)
「絶対にならん!」
「アタシは構わねえけどね、マル」
「俺は拒否するぞ!」
(口ではああやって言っているけれど、ハルも乗り気なんじゃ)
「フッ! アタシに対してそんだけ話せりゃあ充分だね。車椅子に乗っていた頃よりも明るくなってる」
「はい?」
「気持ちだけで充分ってこった。アンタの一家団欒の邪魔をするわけにはいかねえ。それにアタシには行きたい国があってね」
「国?」
「王様から聞いたんだ。ヒノンって国らしい」
「ヒノン? ルキ、知ってるか?」
「ふぇああ! し、知っているわよ!」
「どしたんだよ? さっきから黙りじゃんか」
「何でもないわ。幼馴染の再会の邪魔をしたくなかっただけ」
(ワタシのバカバカ!)
「どうやって行くか分かるかね?」
「アンオールの北上にある国だわ。アンオールとは橋で繋がっているの。車でも行けるわ」
「フーン、そう。そいつは助かる」
「乱暴はよせよ」
「アタシが? 冗談はよしな。その辺は弁えてる」
コーヒーを飲み干し立つ。『トイレに行く』と言いながら、ルキの肩を指で叩いて誘う。女子トイレに入ると、ミントは手を洗いながら話し掛ける。
「ルッキー。アンタ、何か勘違いをしてるんじゃねえか」
「勘違い?」
「アタシとマルは幼馴染だ。それ以上でも以下でもねえ。アタシの発言は大半が冗談だから、真に受けるだけ疲れる」
「ワタシは別に」
「隠したって無駄だよ。アタシ、これでも勘は鋭いんでね。アンタ、マルのこと……」
「違うわ! そんなことないわよ!」
「……馬鹿にしてるだろ?」
「へっ?」
「確かにアイツは馬鹿だ。いつまでもクヨクヨしてるし、どこかで損を受け入れちまってる。苦しみを誰にも打ち明けず、テメエで勝手に死にやがる。少しは分けてくれてもいいとは思わねえか? 辛さも損も苦しみもね」
「それは同感だわ」
「そいつは助かる。幼馴染としてもダチとしても礼を言う。アイツを頼んだ……いや、頼む」
ルキに右手を差し出すミント。ハンカチを見せて、洗ったアピールをする。
「頼まれたわ」
「これで正式にルッキーともダチってこった。一人より二人、二人より三人、ダチは多いに越したこっちゃねえ。だがあれだ……」
「何かしら?」
「……惚れる相手は一人で充分だろ。それとも惚れっぽい?」
「何を言って!?」
「その顔見りゃあ分かる。正直になった方が楽じゃね? ルッキー」
笑みを浮かべながら出るミント。
ルキは暫く立ち尽くしていた。高鳴る心臓を落ち着かせ、トイレを出るのだった。




