堂々入城
剣と傘がぶつかる。剣に負けず劣らずの頑丈さを誇る傘。一体どんな仕掛けがあるのかと思うリンクだが、ミントに振りかざす力は軽い。あくまでも相手は一般人という思考からくる戦法である。対するミントは、剣の刃を警戒して、持ち手の方をリンクに振りかざしていた。リンクの剣を傘の持ち手に引っ掛けたまま走り出す。
「くっ! グルグルさせるのがやっとか!」
「私を動かすのは至難です。日々の鍛練の賜物です」
「だったら……」
傘をリンクの顔目掛けて突き出す。研ぎ澄まされた反射神経を発揮し、持ち手をサッと避けるリンクだったが、ミントの狙いは別にあった。リンクの首に持ち手を引っ掛けると、リンクの背後に素早く移動する。ミントが傘を引っ張れば、リンクの首に食い込む。
「流石の騎士でも耐えらんねえ筈だ。倒れ込みやがれ!」
背中から芝生に倒れるリンク。その隙に剣を奪い取ると、ニヤリと笑みを浮かべながら、剣を後ろに回す。黒い髪をバサッと切り落とした。
「なんてことを!?」
「剣は返す」
リンクに剣を返すと、全速力で先を進むミント。待ち構える門番に対し、『騎士に髪を切られた!』と伝えて進んでいく。
(やりぃ!)
玄関に到着したミントは、玄関の両端に立つ騎士にも同様に伝える。騎士達は慌てて駆け出していく。堂々と取っ手に手を掛けると、その扉を開けた。
※ ※ ※
王様の乾いた笑いが起きる大広間。アンオールの王の前にも物怖じせず、ガツガツと丼を掻き込むミント。剣で適当に切った為、髪の長さは疎らである。そんなミントの様子を見て慌てたメイド達は、どこで習得したのか、カリスマ美容師顔負けの腕を披露した。
「それで……」
「あぁん? 騙して入ったのが気に食わねえってか?」
「……い、いや!? 普通ならば許されんことだが、王城の騎士を負かしたとあっては話は別だ。君のことを知りたい」
「ジジイに口説かれてもねぇ。アタシを口説くんなら、もうちょい頑張りな」
「口説いてなどないが」
「面白くねえ。王様ってのは固くてしょうがねえ」
「これでも頑張ってるんだが」
「王様なんだろ? 金銀財宝とか無えの?」
「うーむ……そこまで立派な物は無いが……付いてくるがよい」
ゴルドは困惑していた。騎士隊長のリンクを負かし、自らの手で髪を切り落とした。そうまでして王城に入ってきた筈なのに、こうして歩いている間も仕掛けてこない。王を狙うの絶好のチャンスなのに。
「ここだ」
「失礼するよ……って、なんだかガラクタばっかだな」
「アンオールだけではない。色んな国の物があるのだ。どれも大変貴重な物だから……あああ!?」
「うっせーな。アタシに何か付いてんのか?」
「それは壺だ! 百年前の貴重な壺だ」
「そんなに貴重ってんなら仕舞っとけよ。こんな棚に置いただけってのは粗末じゃねえか?」
「ちゃんと管理はしておるよ。ちゃんとした者がね」
「ちゃんとしてねえもんでね。他には?」
「こっちに」
棚とは違う場所に移る。鍵で厳重にされた金庫があった。ゴルドがマスターキーで鍵を開けると、鈍い光を放つ銃が現れた。
「銃まであんのか」
「これは友好の証だ。アンオールとヒノンとのな」
「なんで銃なんだ?」
「今から十年前、各国間で戦争があった。犠牲者は数えきれない程だ。終戦の証として贈られたのがこれだ。アンオールからも剣を贈っている」
「フーン」
「持ってみるかね」
「ヒノンとの証なんだろ? この国の部外者が触るべきじゃねえ」
「そうか」
「ヒノンに行ったら触るけどね。それまではお預けだ」
(ヒノン、か。興味深いじゃねえの)




