騎士団長
ゴルドの話を静かに聞いている八人。相槌を打つこともせず静かに聞いていた。
一通り話を終えたゴルドは、『部屋へ案内しよう』と立ち上がる。手を後ろに組んで歩く姿に隙はない。ゴルドの後ろを歩く八人を警戒するかのように、騎士が数人囲んで歩く。その威圧感は重く苦しい。
「一人一部屋用意している。自分の部屋と思って寛いでくれて構わん」
各々部屋に入っていく。一人で使う分には充分過ぎる広さに、ハルは笑ってしまった。
「俺の部屋より広い。王族じゃあ当然か」
荷物を置いて部屋を出ると、向かいの部屋の扉をノックする。開いた扉から顔を覗かせるルキ。
「何かしら」
「ぶらりしないか? まだ午前中だ、騎士団の演習とか見れるだろう?」
「そうね。アンオール王属騎士の様を見てみたいわ」
「決まりだな。皆は来るかな?」
「あまり出歩くのは危険かもしれないわ。リルリッドもシャナーズもアーバインも」
「気疲れしてるだろうしな。俺達だけで行くとするか」
※ ※ ※
「はああ~。どっと疲れたよねん」
ベッドに倒れてしまうリーリッド。ゴルドに会うのは初めてではなかったが、独特の空気には慣れないでいた。このまま一眠りしてしまおうかとも思ったが、向かいの部屋に居るラルロアが気になり、様子を見に行くことに。
「ラルロア」
「どうしたの? 兄さん」
「一人で平気よねん?」
「ボクなら大丈夫だよ。兄さんとは向かい部屋だし、隣はルキとシャリアさんだから」
「一緒の方が安心だけど、いざというとき、バラけていた方が動きやすいよねん」
「兄さんは心配性だよ。ここは王城。家よりも安全だよ」
「そうだといいよねんが」
※ ※ ※
城の敷地内。芝生に整列する騎士団の動きは揃っており、一種の競技のようでもある。
「休め!」
一人の騎士の一声で休む団。オレンジ色が眩しい髪に、緑色の瞳が光る。鋭い眼光を向ける姿は絵になっている。
「おお! やってるやってる!」
「流石は騎士団ね。凄い威圧感だわ」
「おや? これはこれはお客様」
「黒い服なのかぁ。なんだか悪役っぽいな」
「敵に威圧感を与え、国民に強さを示す。黒にはそういう意味合いもあるんです」
「イケメンは違うなぁ」
「いけめん? それは何だい?」
「騎士さんが格好いいってこった」
「褒めてくれたのですか! 嬉しい限り」
((謙遜しないのか!))
「私は、この騎士団の団長を任されている。名はリンク」
「ハル・ハルードだ。なぁ、それって本物?」
腰の剣を指差されたリンクは、サッと鞘から引き抜いた。太陽に照らされた刃は眩しく光る。
「持ってみますか」
「いいのか? 騎士の命だろうに」
「だからです。騎士の背負う重さを知ってもらいたい」
リンクから渡された剣。軽そうにリンクが持っていた為、受け取った瞬間に来た重さに驚いた。
「重っ!?」
「決して持てないわけじゃない。それを片手で自在に扱えるようになるのが大変なんです。騎士が剣を持つなんて当たり前に見られてます。だけど、当たり前を当たり前にするのに、涙ぐましい努力をしているんです」
「確かに重いなっ!」
リンクに剣を返し、痺れた腕を振る。剣の重さを実感したことで騎士の凄さを再認識する。ハルの額にじんわり汗が出ているのに気付いたルキは、ハンカチで汗を拭う。
「おやおや。ハルード殿も騎士のようですね」
「えっ!? あっ、違うって! 俺とルキは別に!」
「自分の身くらい自分で守れます。ルキ・ルーキッドの強みです。腕が痺れて汗を拭けない人が、ワタシを守れるわけがありませんよ」
「手厳しいですね、ルーキッド殿は」
「もうちょい優しければ……」
「うっさい!」
「……痛っ!!」
ルキに足を踏まれたハル。
ハルの足を踏んだルキの顔は笑顔に満ちていた。




