王からの招待
パーティーから一週間。自室にいたリーリッドの元に封筒が届く。メイドから手渡された封筒を受け取った彼は、送り主を見て驚いた。
「王様から!!!?」
「リーリッド様とラルロア様に宛てられたもので間違いないかと。その筆跡は間違いありません……王様の直筆です」
「父上と母上は何と?」
「『心して読みなさい』と」
「何か失言でもしたのか? 思い当たる節などないよねん。ああ~!! 緊張してきたよねん!!」
「早く開封してください。開けない封筒など、只の紙くずですから」
「しかしっ、しかしよねん!!」
「坊っちゃん!!」
メイドからの一喝に覚悟を決め、震える手を動かして開封する。中から出てきたのは、一枚の紙と三枚のカードであった。
「この紙が手紙みたいだよねん」
「何と書いてあるのですか?」
「『リーリッド・リルリッド殿、ラルロア・リルリッド殿。如何御過ごしか。突然の便りで驚かせてしまったことだろう。このような便りを送らせて頂いたのには訳がある。近頃、王城周辺に不穏な動きが見られている。王族を狙った者がいる可能性があり、それを否定出来ないのが心苦しい。そこで、王直々に御願い申したい。王城へ客人として招待する見返りに、この不穏な動きの正体を突き止めてほしい。我が儘なのは承知の上である。同封の招待状で、親しい者を連れてきても構わない。連れてくる者の身分も問わない。リーリッド殿とラルロア殿の招待状は、その封筒とする』……なっ、なっ、なんだとよねん!!」
「一大事ではありますが……引っ掛かりますね。王城の警備は国内随一。王族付きの騎士団、特別な訓練を受けた番犬もいます。城内に入るのにも一苦労の筈ですよ」
「僕やラルロアでは力不足。身分を問わないと書いてある以上、貴族を必要としているわけではないよねん。騎士団よりも剣に長けている者や、狙撃団よりも銃に長けている者はそうそういないよねん。単なる嵩増しのつもりよねん?」
「木を隠すなら森の中ということですか? 親しい友人を囮にしろということでしょうか」
「会ってみないと分からないみたいだよねん。六歳のラルロアも呼んでいるのも気掛かりだし」
「親しい友人はどうなさるのですか?」
「三枚、か。どうするよねん」
※ ※ ※
翌日、車に乗るリーリッドとラルロア。パーティーの時とは違い、ラフな格好をしていた。そんな二人と向かい合う男女もラフな格好である。
「ごめんだよねん。なんか巻き込んでしまったよねん」
「お前が落ち込んでどうすんだよ。嫌なら付いてなんか来ないよ。アンオールの王様と会えるんだ、光栄じゃないか」
「ハルハル、ありがとうだよねん。ルキルキもありがとうだよねん。二人には感謝しかないよねん」
「そんなに頭を下げられたら困りますよ! 上げてください」
「そうですよ、リーリッド様。ご自分と相手の立場を弁えた上で行動してください」
「ミラ。僕はそういう風に友達を天秤にはかけないよねん」
「分かってないようですね。ハル様やルキ様にとって貴方は友達なのです。リルリッド家だとか貴族だとか関係ないのです。対等な立場であるならば、容易く頭を下げることは控えるべきです。まだ謝罪すべきことも、感謝すべきことも起きておりません。御二人が来たことに対する感謝でしたら、言葉だけで充分に足ります」
「へぇ。やっぱりメイドは違うな。ズバッと言う感じが最高だ」
「普段は立場上、強いことは言えませんが、今は友達として同行しています。今なら言いたい放題です」
車を走らせること一時間。大層立派な白い城に到着した。敷地には芝生が生い茂げ、チラホラ騎士も立っている。
「歩くのか……マジで」
「敷地には違いないわね。玄関までが遠いけれど」
門を抜けて敷地へ入る。この時点でチェックをされた。芝生の公園と言われてしまえば信じてしまう程の広さをひたすら歩くこと十分。二つ目の門に到着した。
「身分を証明するものを」
「これでいいよねん?」
「良かろう。許可する」
門を抜けて石畳を歩くこと五分。漸く玄関に辿り着いた。玄関に立っていた騎士に封筒と招待状を見せると、静かに玄関が開いた。だだっ広いフロアが現れて驚いていると、階段を降りて男性がやって来た。
「いらっしゃい。招待に応じてくれたことを感謝する」
「リーリッド・リルリッド、ラルロア・リルリッド。友人を連れ、王の招待に参じました。この度は王城への御招待、誠に嬉しく思います!」
片膝を付いて挨拶するリーリッド。兄の姿を見て、ラルロアもそれを真似た。『顔を上げて』と王は言うと、二階の大広間へと案内した。長いテーブルに幾つものイスが並ぶ。
既にイスに着いている者達が居た。その者達と向かい合うように座る。大広間の扉が閉められ緊張に包まれる。
「招待に応じてくれたことを改めて感謝する。アンオール王の、ゴルド・マトリクスだ。すまないが今一度、名前を名乗ってはくれないか。王といっても年寄りだ。物覚えが悪くてな」
ゴルドの言葉に一同は立ち上がり、一人ずつ名乗っていく。
「リーリッド・リルリッドと申します」
「ラルロア・リルリッドです」
「ハル・ハルードだ」
「ルキ・ルーキッドだわ」
「ミラ・アプリコットであります」
「シャリア・シャナーズせえ」
「ナナ・シャナーズだよ」
「ミク・アーバインよ」
紹介を終えて着席する。ゴルドも座る。ひとつ咳払いを済ませ、その静けさを破った。




