御開き
お待ちかねのディナーを目の前に、目をキラキラさせているハル。テーブルに置かれた料理を端から端まで食べていく。ステーキの焼き加減を指定出来ると知るや、『レアがいい!』と注文したり、鯛の塩焼きの出来立てを狙ったり。目の前で調理してくれる場合は、その手順を熱心にメモっている。
「熱心だわね。好きなことがあるのは羨ましいわ。ワタシ、何か夢中になれることなんてあったかしら?」
「なーに考え込んでるんだ? 空腹で元気不足ってか」
「そんなんじゃないわよ」
「そっか。まあ食えよ、旨いぞ」
焼いてもらったステーキをルキに差し出す。食べやすく切られたステーキを食べたルキの表情が笑顔になると、安堵したハルも笑顔になった。
食事を楽しんでいると、会場に音楽が響き渡り始める。オーケストラによる生演奏だ。その音楽に合わせ踊り始める人達。その光景に慌てる二人。リーリッドとシャリア、ラルロアとナナが踊っているのを目撃してしまい、お互いに目を合わせる。
「ワタシ達だけ踊らないのは無礼になるわね。ハル、踊りの経験は?」
「あるわけないだろう。あんなに見つめ合いながらのなんてよ」
「男性のリードも期待出来ない以上、周囲を見ながらやるしかないわね。取り敢えず……はい」
「その手は何だよ?」
「手を取り合わないと始まらないわ。器用なんでしょう? ワタシを上手く踊らせてくれないかしら」
「足を踏んづけても文句言うなよ」
周囲を観察しながら踊り始める。ぎこちなくステップを踏むハルをからかうようにターンをしてみせるルキ。『経験あるだろう』とハルが訊けば、『真似ただけだわ』と返すルキ。銀髪と青いドレスが揺れる度、ルキから香りが香ってくる。
「薔薇か?」
「あら意外。当てるだなんてやるじゃない」
「香水なんか付けるんだな」
「折角だから使わせてもらったわ。香水は苦手かしら?」
「ほのかに香る程度なら。キツいのは勘弁」
「そう。それはよかったわ」
喋りながら踊っているからか、身体から無駄な力が抜け、動きが軽やかになっていた。気持ちにも余裕が出来たハルは、ルキを改めて見ている。肩や胸に目がいくと、照れから目を逸らす。
「何を赤くなっているのかしら? 胸元がそんなに珍しくて?」
「そりゃまあ……目のやり場には困るな」
「キミを照れさせるくらいの色気はあるのかしら。自分に異性をドキドキさせる魅力があるとは思えないのだけど」
「ドキドキなんかしてないぞ!?」
「ふーん。でもここは正直みたいね」
ハルの胸に手を当てる。ハルの心臓の高鳴りを感じて笑みを溢す。オッドアイでハルの目を見つめると、サッと離れていく。
「どした?」
「音楽が終わったのよ。気付いてなかったのかしら?」
「いっ、いつから!?」
「キミの胸を触った時だわ。ふふっ、なかなか楽しめたわね」
(俺の顔を見てきた時には終わってたのかよ。ん? 音楽は終わってたのに、何で見てきたんだ?)
「ルキ……」
「そろそろ御開きのようね。スイーツの一つでも食べようかしら」
ハルの言葉を遮るようにスイーツを食べに行く。『考え過ぎか』と呟くと、特製スープを飲んでいないことに気付き、急いで飲みに向かうのだった。
※ ※ ※
ドームの近場にあるホテルに泊まることになり、リルリッド家の計らいで個室を取ってもらえたハルは、部屋のベッドにダイブした。ふかふかのベッドは程よく沈み、眠りへと誘っていく。
「……うぉうう……」
顔を枕に押し付けていたハルの意識がボーッとしていく。そのまま眠りに入ってもおかしくなかったが、頬を突かれる感触に引き戻される。
「扉を開けっ放しなのは不用心だわ。緊張で汗をかいたのだろうから、シャワーを浴びるのを推奨するわ」
「邪魔するなよ」
「スーツがシワになっちゃうもの。それじゃワタシは部屋に戻るわ。いい? 戸締まりとシャワーとスーツをちゃんとよ!」
「分かった分かった。ちゃんとしますよ」
ハルの返事を聞いて部屋を出るルキ。
襲い掛かる眠気を払い除け、扉を閉めてスーツを脱ぐハル。何気なく身体を見ると、筋肉が付いてきたことに気付いた。
「畑やら薪割りやら手伝わされたからか。立てなきゃ出来なかったことばかりだ」
風呂場へと入ってシャワーを浴びる。髪を洗っている最中、一つの疑問が浮かび上がった。
(ルキのやつ、なんで俺を普通に起こさなかったんだ?)
突かれた頬を触る。突かれた感触を思い出しながらシャンプーを洗い流す。次に身体を洗っていく。ルキに触られた胸を洗っている時に、そのことを思い出して赤面してしまう。
(ドキドキ……するに決まってんだろう!)
身体に付いた泡を洗い流し風呂場を出ると、濡れた身体をタオルで拭いて寝間着を着た。サイズがピッタリなことに驚きつつ、そのままベッドに吸い込まれていった。




