晴れ晴れ
水をグビグビ飲んで緊張を誤魔化すリーリッドだが、顔には汗が噴き出していた。ハンカチを取り出して拭いていくが、拭いていく側から噴き出す汗。
「兄さん、大丈夫?」
「平気だよ、ラルロア。僕なら心配要らないよねん」
「しっかりしろよ、リーリッド。いつも通りでいればいいんだ」
「分かったよねん。行ってくるよねん」
大統領とすれ違い様に会釈しながらステージに上がる。メモを片手にしているところから、丸暗記は断念したのだろう。メモを持つ手は震えている。
「皆様、御機嫌いかがでしょうか? この度、参加者一同の代表として挨拶をさせて頂くことになりました、リーリッド・リルリッドと申します。本日は御忙しい中、これだけの方々が集まれたことを嬉しく思っております」
「ふーん。なんだかんだいっても流石だな。全く噛んだりしない。俺は無理だな。アガっちゃって喋れないよ」
「場数が違うものね。アンオールの名家の手前、失敗なんか出来ないでしょう」
「ルーキッド家も貴族なんだろう?」
「ルーキッドは違うわ。生地屋をやっている関係上、多くの貴族と親しいだけだわ。細々暮らしている平民よ」
「貴族と親しいだけでも凄いじゃないかよ。よっぽど上質な生地を扱ってるんだろう」
「素人のワタシには分からないわ」
「そういうことにしとこうぜ?」
「そうね。そうするわ」
「……これにて挨拶を締めさせて頂きます」
割れんばかりの拍手を浴びるリーリッド。緊張から解かれた彼の表情は明るい。軽やかな足取りで戻ってきた。
「ナイススピーチでした!」
「ありがとう! そう言ってもらえると嬉しいよねん」
「調子がいいな! 肩の荷が下りたか?」
「漸くだよねん。はぁー、どっと疲れたよねん」
ステージに照らされていた明かりが消え、再び会話が始まった。両親と合流するべく離れるリーリッドとラルロア。ナナもまた、家族の元に戻っていった。
「リーリッドとラルの許嫁と会えたし、リーリッドのスピーチも聞けたし、俺のパーティーはフィナーレかな」
「気が早いんじゃないかしら。まだパーティーのお開きには時間があるし、料理だって夜は変わるのよ?」
「マジで!」
「ええ。このまま終わらせたら後悔するんじゃなくて?」
ディナーを食べる迄は帰らないと誓ったハル。変わる前にと熱心にランチのことを訊き込みメモるハルに、会場にいる人達は凍りついた。ハル本人は気付かないでいた。




