大統領のスピーチ
気品溢れる会場の一角、人目を気にせず料理に舌鼓を打っているハル。常備されていたペーパーナプキンにメモを熱心に取っている。自問自答している様子は、端から見れば奇妙に見えるだろう。料理人に訊く程に熱心である。
ミクと別れて戻ってきたルキは驚いたが、記憶を探って納得した。サラダを皿に盛って食べる。普通のサラダだと思って食べたルキだが、口に広がるフルーティーな味に目を見開いた。
「美味しいわね!」
「お前もそう思うか」
「何のドレッシングなのかしら?」
「気になったから訊いたんだけどよ、柑橘類をふんだんに使ったんだってよ。細かくは教えてくれなかったけど」
「そうそう教えるわけないでしょう。レシピを高値で買いたがる人がいるくらいなんだから」
「惜しいなぁ」
「料理が好きなの? フライパンの話もあるし」
「作ったことはないがな。俺ん家のキッチン、車椅子に座ると高くてな。テレビを観ている内に自然と想像するようになったんだ」
「今なら出来るわね」
「包丁を使ったことはある。なんだなんだ、俺の手料理を食べたくなったか?」
「そうね。ワタシは出来ないから、偉そうなことは言えないけれど。男子の手料理もいいかしらね」
「今度振る舞ってやるよ。誰かに食べてもらったことなんかないからな」
「初めてがワタシでいいのかしら?」
「おう。よし、なんだか楽しみになってきた!」
そんな感じに話をしていると、ステージが明かりに照らされて、会場の視線が向けられる。白いステージ上に男性が一人。手を腰の前で組み、マイクの前に立っている。会場が静まり返ったタイミングで男性は話始めた。
「アンオール大統領を任されております、レイフォン・アーバインです。見ての通りの老翁ですが、アンオールの未来の為、老体に鞭を打ちながら勤しんでおります。それ故、言葉に詰まることや、言い間違いない等もあるかとは思いますので、寛容な心でお願いしたい」
「「ははは!」」
大統領の言葉に会場中から笑いが起こる。
「この国の大統領かぁ。老翁だなんて言ってるけどよ、あんだけ真っ直ぐ立ってるだけでも普通じゃないぞ」
「腰を折り曲げている暇なんてないのでしょう。国民の声に耳を傾け、政治の声にも耳を傾けて。どちらにも良い顔を向けつつ、芯をしっかり持っているのでしょう。じゃなきゃ務まらないわよ、大統領なんて」
「俺、自分の国の総理すら覚えてない」
「それはそれでマズイわよ!? 嫌でもニュースで見るじゃない」
「政治には無関心でな」
「料理に記憶力を全振りしたのかしら」
「全振りは言い過ぎだぞ」
二人が喋っている間にもスピーチは進んでいく。校長の長話と同じように感じてしまい、大あくびをしてしまうハル。
流石にマズイと、肘で小突いて注意するルキ。数人から視線を浴び、慌てて会釈して誤魔化した。
「貴族の話は長いもんなのか?」
「それだけ博識なのよ。無駄に長いわけではないわ」
「そっかぁ……食べたからか眠いやぁ」
「失礼でしょう!?」
「着慣れない物を着て、これまた慣れない空間に居れば、否応なしにこうなるぞ?」
「気をしっかり!」
「いいんじゃないか。全員が貴族ってわけじゃないからよねん」
「リーリッド、挨拶は終わったのか?」
「一通り。大統領のスピーチの後、僕の番よねん。まあ、今みたいに気軽に聞いててよねん。貴族の人は、胸に証を付けてるんだよねん。アンオールの王と接見出来る証で、貴族の証でもあるんだよねん」
リーリッドの胸にも輝く証。赤いバッジが光る。それを付けたリーリッドの顔は、酷く緊張していた。




