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大統領の孫娘

 グイグイ引っ張られていくラルロアに付いていく。後ろから見ていればいる程、ラルロアの許嫁であるナナの押しの強さがよく分かる。色々な料理が並ばれているテーブルに行くと、お皿に盛ってもらい食べ始める。料理を食べている姿は二人共、どこにでもいる子供である。


「なんか安心したよ。お上品に食べ始めたらどうしようかと思った」


「料理によるでしょう? ステーキにかぶり付くのは駄目でしょうね」


「立食なんだから切ってあるだろう。ほれ、ラルロアが食べてるの、ちゃんと切ってある」


「最低限のマナーは守ってよ」


「そんなのは承知だ。ルキ、何か食べるか?」


「ワタシはいいわ。キミは遠慮せずにどうぞ」


「そうか。そんじゃ、お言葉に甘えて」


 料理を取りに行ったハルの背中を追いながら、グラスの中の飲み物を干していく。


「お酒じゃないわよね? 人混みに酔ったのかしら?」


 壁に寄り掛かり、会場を見渡す。自分とは住む世界が違うと思いつつ、水を貰いに行く。水を飲んで落ち着くと、用意されていたソファーに寄り掛かった。


「炭酸水なのね。流石は貴族のパーティーだわ」


「そうかな? 全員が貴族ってわけじゃないのよ?」


「へっ?」


 急に話し掛けられて驚くルキ。

 茶色の髪を伸ばした少女は、緑色のドレスを着こなしていた。その雰囲気は、この会場にいる令嬢とは違っており、思わず吸い込まれそうになる。


「驚かせてごめんなさい。さっきから、なかなか落ち着かなかったの。ずっと話し掛けられてばかりで。なんだか貴女、気疲れしているようだから、話し掛けてしまったの」


「あ……あああ!! わ、忘れてください!! 今のはつまらない独り言で!?」


「嫌味なら誰だって言うよ。とても貴重な意見でした。自己紹介が遅れました、私、ミク・アーバインと申します」


「ミク!?」


「ん? 貴女とは初めての筈なんだけど? 姓で驚かれることは茶飯事だけど、名前で驚かれたのは初めてかな」


「ごめんなさい!? 知り合いに同じ名前の人がいたので」


「珍しい名前じゃないし不思議じゃないよ。なんだか貴女とは縁を感じるかも」


「そう言われるとは光栄です。アーバイン大統領とはどういった?」


「祖父と孫の関係よ。アーバイン家は代々、政治家なの。父は違う道に行っているけどね」


「?」


「祖父が五月蝿くって。孫を自慢したいみたい。私、この通り普通なのにね」


「そうでしょうか? 綺麗だと思いますよ?」


「お上手だね。まだまだ十六歳な私には真似出来ないかな」


「ワタシも十六です。こちらこそ、同い歳とは光栄です」


「ふふっ。是非とも名前を知りたいな」


「ルキ・ルーキッドです。お見知り置きを」


「ご丁寧にどうも。ルーキッド家は、私の記憶が正しければ、金の採掘で有名だよね?」


「はい。お陰で苦労はしてないです」


「私の父は、宝石の採掘をしているの。政治には無関心で、祖父とも距離を置いているくらいよ」


「それはそれで大変ですね。心中お察しします」


「堅いよルキさん。もっと砕けても構わないよ」


「じゃあ……ミクさん」


「それでいいよ」


 大統領の孫ということを鼻に掛けることはなく、気さくに話してくれるミクに、ルキは不思議な気分になっていた。親友と同じ名前で同い歳。仕草や喋り方まで似ている。


(ワタシを知らないところから、美空ではないみたいだけど……。偶然……なのよね)


「どうかした?」


「ううん! 何でもないわ」


「そう。そろそろ祖父のスピーチが始まる頃ね。またね、ルキさん」


 華麗に歩いていくミクの姿を追い掛ける。炭酸が抜けない内に水を飲み干すと、ラルロアとナナ、ハルのいる場所へと戻っていった。





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