シャナーズ姉妹
グラスを持ったまま歩いていく。スラッとした背丈の男性や、きらびやかな女性が大勢居る。
「場違いだよな、俺」
「それはワタシも同じだわ。目が回りそうよ」
「二人共、こっちよねん」
リーリッドに付いていくと、赤いドレスの少女が立っていた。スリットから覗く生足は、女性としての色気を醸し出している。
「一週間振りせえ。あれから上達はしたんせえ?」
「やれることはやったよねん。御手柔らかに御願いするよねん、シャリア」
黒髪を長く伸ばし、毛先を遊ばせているが、その気品を落とすような身なりではない。ヒールを履いたことにより、リーリッドと同じ目線で話す姿は、令嬢という言葉がよく似合う。
「そちらは?」
「僕の友人の……」
「ハル・ハルードだ」
「ルキ・ルーキッドよ」
「そう。ワタクシはシャリア・シャナーズ。これでも物書きせえ」
「本を書いてるのか」
「小説を書いているのせえ。ワタクシの祖父も父も書いている。シャナーズ家は小説一家せえ」
「ラルなら読んでるだろうなぁ」
「その筈せえ。ワタクシが渡したから」
リーリッドの側にいたラルロアは思わず、リーリッドの背中に隠れてしまう。ギュッと掴んでくるラルロアに、リーリッドは同情した。
「感想はいつでもいいせえ。ワタクシの素晴らしい作品を堪能するがいい」
「う、うん」
小さく返事をするラルロア。リーリッドの背中に隠れながらも、何やら辺りを気にしている。
「ハルとルキでよいか? シャナーズを宜しくせえ」
「おう」
「こちらこそだわ」
「それじゃあ。ワタクシは人気者故に忙しい。声が掛かれば行かねば」
別の所へと行ってしまったシャリア。正直、リーリッドもラルロアもホッとしていた。本の感想を求められた時はヒヤッとしていた。
「危なかったよねん。僕は読んでいないし、ラルロアも困惑していたから」
「ラル、そんなに酷かったのか?」
「理解が出来なかったんだ。もう読まないから、ハルにあげる」
「あら、よかったじゃない。リルリッドからのプレゼントよ」
「百聞は一見に如かずだ。読んでやろうじゃないか」
「無理は禁物よねん、ハルハル。それはそうとラルロア、落ち着きがないけど、どうしたよねん?」
「シャリアさんがいたから、もしかしたらって」
「こういう場は得意じゃないから。本人は気分屋だよねん」
「どした?」
「シャリアの妹を捜しているよねん。ラルロアの許嫁なんだよねん」
「ああ! 噂の彼女か!」
ハルの発言に顔を赤くするラルロア。あまりの恥ずかしさに、下を向いてしまう程だ。
「家族と挨拶に回っているのかもよねん。シャリアは一人でも大丈夫だけど」
取り敢えず、他の人との挨拶をしていく。太めで猫を抱いた婦人や老婆。絵に描いたような利かん坊、高飛車娘。個性的な人達が沢山居て飽きない。そんな中、つまらなそうに壁に寄り掛かる少女が一人。
「ナナだ!」
タッタッタッと走っていくラルロア。少女もラルロアに気付いて反応する。金髪のツインテールと吊り上がった目、青い瞳。少々、近寄りがたい雰囲気である。
「退屈だったんよ! この思いをどうしてくれようか!」
「これでも捜したんだ」
「言い訳は要らないんよ! 退屈だったのは変わらないんよ!」
「ごめんよ!」
「じゃあ命令! アタシと手を繋ぐんよ」
「分かった!」
完全に尻に敷かれているラルロアだが、敷いているナナの方も言動とは裏腹に、ラルロアに密着して離れない。
「ははは。こりゃあ大変だ。ラルの奴、とんだツンデレ嬢ちゃんに惚れたようだな」
「ねえ、ハル。ナナちゃんを見ていて思ったのだけど、なんだか似てない? ネネちゃんに」
「うーん? 確かに似てるかもしれないけど、そういう人間がいたって不思議じゃない。世の中は広いからな」
「……そうよね」
「ルキルキ、ハルハル。僕、ちょっと御呼ばれされたから行ってくるよねん。ラルロアをお願いしてもいい?」
「勿論だ! ちゃんと相手してこいよ?」
「頑張ってください」
リーリッドが緊張した面持ちで向かっていった。どうやら、シャリアとナナの両親のようだ。緊張するのも無理はない。




