パーティーの幕開け
よく晴れた空は気持ちがいい。目覚めを促し、身体を起こす活力を与え、脳をリフレッシュしてくれる。こういう時に起きれないのは勿体ないのである。早起きは三文の徳と言ったものだ。だが彼は起きれない。ぐうすか夢の中である。だらしなくお腹を出して寝ている。だら~っと足をベッドから出したまま。
「ハル。ハル。ハル!」
「むにゃむにゃ~」
「いつまで寝ている気かしら。起きてくれないと困るのだけれど」
「~へっ!?」
耳元で囁く声に目を覚ます。異世界での自分の家、自室なのは確か。シャツ一枚で寝る程にリラックス出来る場所なのを確認し、目前に居る銀髪少女をマジマジと見た。
「寝起きでワタシをジロジロと。相変わらずの変態だわね。ワタシは見せ物じゃないわよ」
「……何で俺ん家に!?」
「今日が何の日か忘れたわけ?」
「異世界に転生してから十日目だよな? 他に……他に……」
「ハァー。今日は、リーさん達が集まるパーティーの日でしょう? 本気で忘れていたのかしら」
「そうだったっけ? すっかり頭から抜けてたなぁ」
「早く着替えなさいよ。リルリッド邸に行かないと」
「何で?」
「ワタシ達も出席するのよ。リーさんの友人として……って、それも忘れていたの!?」
「あんなの社交辞令かと思ってた」
「両親に紹介する友人が、社交辞令なわけないでしょう。キミ、リーさんをどう思っていたの?」
「友達。俺の一方通行かと思っていたがよ」
「リーさんの寂しがり屋な性格を考えれば分かるでしょう。何でこう不器用なのかしら」
「俺は器用だぞ。折り紙だって折れる!」
「そういうんじゃなくて……まあいいわ。兎に角、支度を早くね」
ハルの部屋を出たルキを出迎える、ハルの母親。何かを含んでそうな笑みでいる。
「ごめんなさいね、ルキちゃん。家の馬鹿息子が」
「起きてくれたので大丈夫です。ハル君の支度が済み次第、出掛けてきます。パーティーなので遅くなるのは確かなので、もしかしたら、そのまま泊まりになるかもしれませんが」
「ルキちゃんになら任せられるよ。あんな息子だけどヨロシクね。あとこれ、リルリッドさんみたいな貴族の方には合わないかも知れないけど、手ぶらで行かせるのは流石にさ。礼儀ってやつと伝え渡してくれない?」
「分かりました!」
※ ※ ※
リルリッド邸に着いたハルを待ち受けていたのは、リルリッドお仕えのメイドによる着替えだった。
窮屈そうな表情を浮かべる。着慣れない物だとすれば尚更だろう。髪も整えてもらい、姿見の前に立たされた。
「いかがでしょうか?」
「我ながら驚きの変貌だ! 変わるもんなんだな」
「ピッタリ合って何よりです」
「わざわざ俺の為に作ってくれたんだろう? なんだか悪いなぁ」
「リーリッド様の御友人が着る物ですから。リーリッド様からも、手厚くと言われております」
「そうか。兎に角ありがとうな! 汚さないように注意するよ」
着替えを終えたハルが部屋を出る。リルリッド邸の客間から、リーリッドの部屋へと向かった。ノックをして、『いいよ』と返事をもらい中へ。ビシッと白い正装を着こなしたリーリッドが、そこに居た。
「おっ! なかなか似合っているよねん!」
「そいつは有難いお言葉で。そう言うそっちもハマっちゃって。白馬にでも乗ってそうだ」
「持ち上げ過ぎだよねん。さぁ、ラルロアを連れて、ルキルキを迎えに行くよねん」
「そういやルキ、どこで着替えているんだ?」
「聞いてないの? ルキルキ、ルーキッド家に養子に入っているんだよねん。ルーキッド家には女の子が居なくて、ここに居た時に誘われてたんだ」
「へぇ~、初耳」
丁度支度を終えたラルロアを連れ、車に乗り込んで行く。乗っている車も普通ではなく、いかにもな高級車であった。ルーキッド邸で停まり、車内で待つよう言われたハルは、ラルロアに奴の折り方を教えて待っていた。
「待たせたかしら?」
ハルの横に座るルキ。青いドレスを身に纏い、花飾りが付いた帽子を被っている。肩や胸元が大胆に露出したデザインだが、胸元に輝くネックレスのお陰で上品に纏まっていた。
「馬子にも衣装とは言ったもんだ」
「似合わなくて悪かったわね!」
「誰も言ってないだろう。それだけ着こなせてれば上出来だ」
「不器用だわ」
「悪かったな! 褒め上手じゃなくってよ」
「誰も言ってないわよ。褒めてくれてありがとう」
※ ※ ※
アロポリアの中でも広大な面積を誇る建物、アロポリア・ドームへと到着した。車から降りて入っていくと、上品な格好をした人でごった返していた。そんな人混みを縫って奥へ進むと、広々とした空間に着いた。
「へー、芝生じゃないんだ。ちゃんと床になってやらあ」
「ドームと言っても、多目的ホールみたいなものよ。コンサートやディナーショーとかね」
「ふーん。こんなとこに貴族が集まるんだもんなぁ。イマイチ実感湧かないよ」
「ワタシもよ。参加するのは初めて。緊張するわ」
「ルキでも緊張するんだな」
「当たり前だわ。あっけらかんとしているキミが羨ましいわよ」
「ルキルキ、ハルハル。こっちに来るよねん」
手招きされた二人に差し出されたグラス。選ぶよう促され、赤いドリンクを受け取った。
「パーティーが始まったら、挨拶三昧になるだろうけど我慢してよねん。僕も得意じゃないよねん」
「そうそう。ハル、名前を名乗る時はこっちの名前で。リルリッド家の友人として粗相のないようにしないとだわ」
「こっちの名? 確か……ハルードだったっけか」
そうこうしている内に、ドームに響くパーティーの合図。無事にパーティーを乗り切ることは出来るのだろうか?