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 ハルの視線の先には、ショーケースに綺麗に陳列された刃物の数々。その刃物の一つ、短剣を真剣に見ていた。昨日の熊との戦いで駄目になった為、新しい物が欲しかったのである。


「高いな、うん、高い。包丁よりも高いだなんて納得出来ん」


「剣や槍なんて売れないからよ。護身用に持つのは短剣がポピュラーなの。ちょっとした作業にも便利だから。売れると分かっているから、ある程度強気な価格で出せるの」


「プラプラ持ち歩いていいのかよ?」


「アンオールでは問題ないわ。逆を言えば、それだけ治安が悪いってことかも」


「そうは見えないがな」


「ネネちゃんを襲った連中みたいなのは勿論、死火のことから自暴自棄になってしまう者もいるのよ。平和そうに見えるけど、そうじゃないのが現状ね」


「どこの世界も、か。あー、俺の異世界像がぁ」


「異世界に何を期待していたんだか知らないけど、どこの世界も甘くないわよ。皆、生きるのに必死なんだから」


「そいつは充分、身に染みたよ」


「それならいいわ。それで、欲しい短剣は決まったのかしら?」


「コレがいい。他のよりも安いし、よく手に馴染む。見た目も気に入った」


「分かったわ。ちょっと待ってなさい」


 懐中時計同様、支払いを済ませたルキ。買った短剣が入った袋をハルに渡した。


「なんだか悪いな。時計も短剣も買って貰っちゃって」


 申し訳なさそうにするハルの頬をツンと突くルキ。反応に困っているハルに向かって『バカ』と言って店を出る。


「バカって何だよ!?」


「キミの短剣を駄目にしたのはワタシだわ。それは、キミに対するお詫びの印。申し訳なさそうにするのはワタシなわけ。……ほら見なさい、雨だわ。キミが、申し訳なくしているからよ」


「傘なんか無いぞ」


「キミ、物覚え悪いのかしら?」


 懐から、瞬時に傘を取り出したルキ。青い傘をワンタッチで開くと、ハルを手招いた。


「闇のカードか!」


「いいから入りなさいよ。濡れたいのなら無理強いはしないわ」


「いいのかよ? 俺と相合傘ってことになるんだぞ」


「ワタシと一緒では嫌なのかしら」


「嫌じゃない。寧ろ、お前が嫌なんじゃないかってよ」


「嫌な相手なら入れないわよ。それだけワタシが心を許したってわけ。さぁ、どうするのかしら?」


 イタズラっぽく微笑むルキ。傘を差していても絵になる彼女と並んで歩くに相応しいのかと考えるハル。この世界で自分に出来ることはあるのかと思い詰める。自分が一緒に居ることが、彼女にとってどうなのかは分からない。


「そこまで言うならしょうがない。入ってやるよ」


 一緒に居たいのは自分の方。その確かな気持ちに素直になり、ルキの差す傘に入ったハル。

 二人の歩幅が自然と揃う。雨の日は憂鬱になると言うが、今のハルには違っていた。


「こっちに寄せすぎだ」


「悪いわね」


 ルキの方に傘を寄せる。青い傘が二人にとっての青空となっていた。お互いの笑顔が、太陽の代わりになっているのかもしれない。

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