来客
アロポリアに戻った二人は、ネネの灰を入れる壺を買いに来ていた。ネネのワンピースと同じ色の壺だ。
「少しは喜んでくれているのかしら」
「きっとそうだ。お前の選んだワンピースを気に入ってたからな」
「そうであると願うばかりね。さあ、眠らせてあげましょう」
カードを取り出して壺に翳すと、あっという間に吸い込まれた。その光景に呆気に取られるハル。
「何の魔術だ?」
「闇よ。無尽蔵に物を入れておけるのよ」
「ブラックホール的なやつ?」
「ちゃんと取り出せるから安心して。ワタシ以外には取り出せないから、ネネちゃんは安心して眠れるわ」
「便利だけどおっかねえー! 吸い込まれたら終わりじゃんか」
「そうよ、精々気を付けることね」
「刻み込んどくよ」
「本当は家族一緒が理想なのだけれど、ネネちゃんの両親共に先立ったみたいで。ずっと一人だったと聞いたわ」
「きっと一緒に居るだろう。あの世で一緒にさ」
「ロマンチストなのかしら? 顔に似合わないわよ」
「余計なお世話だ! どうせ俺は普通だよ」
「顔といえば……ねえ、こっちに転生した姿は、生前とは違ったの?」
「なーんも変わらないな。全く同じ姿だ。何も疑問に思わなかったがよ、転生って、生まれ変わりだよな? 何ともないから気にすることじゃないがな」
「気にはしてないわよ。ちょっと思っただけだわ」
(ふーん。自分では普通と思っているのね)
「どした? 顔が赤いぞ」
「気のせいだわ。そうやってジロジロ他人の顔を見ていると、誤解されるわよ?」
「もうされてるんでねぇ、誰かさんに」
「悪かったわね! 大体、ワタシの顔なんか見たってしょうがないでしょう? こんな普通なのを」
「美人は三日で飽きるって言うだろう? お前の顔なら飽きない自信がある!」
(普通って思ってるのかよ!?)
「急に黙らないでほしいのだけれど」
「黙祷だよ!? ほら、黙祷」
「そうならそうと言ってほしいわよ」
静かに黙祷をする二人。その心の祈りは届いていることだろう。
※ ※ ※
アロポリアにあるビルの最上階。そこに家を構えるリルリッド家の長男は頭を抱えていた。そう、リーリッドである。来客の知らせを受けた瞬間、目の前が真っ暗になってしまったような気分に陥っていた。
「パーティーは来週だよねん! 何でこんな時に~」
「坊っちゃん、落ち着いて下さい。別件で立ち寄ったついでだそうなので」
「僕は突発的な事への対応が苦手なんだよねん!」
「勿論存じ上げております。ですが、折角出向いて下さった方を追い返すのは失礼かと思われます」
「父上と母上は何と?」
「『喜んで招き入れなさい』とのことです」
「……分かったよねん……僕が折れるよねん」
「畏まりました。それでは、お連れ致します」
御付きが客人を出迎えに部屋を出た瞬間、机に突っ伏してしまうリーリッド。長く伸びた金髪も、なんだか弱々しく見えてしまう。なんとか立ち上がり身形を整えていると、扉のノックが聞こえ、気重さそうに扉を開けた。
「お久し振りね、リーリッド。愛しのフィアンセの到着よ!」
長く伸びた黒髪の毛先を遊ばせ、太ももからスリットが入った赤いドレスを着る女性。背丈は、ヒールを含めればリーリッドに並ぶ程。スラッと伸びた生足を見せ付けてくる。
「シャリア……いらっしゃい」
リーリッドの顔は引き攣っていた。