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命の灰を掻き集め

 血に染まるネネの身体が冷たくなっていく。涙を流していた左目も閉じていた。その状況に焦るハル。必死にルキに助けを求める。それに対し、首を横に振るしかないルキ。


「ネネちゃんはもう」


「諦めるのかよ! まだこんな子供なのに!」


「言ったでしょう! この世界の医術は遅れているの! 満足にオペだって出来ないわ」


「リーリッドは!?」


「リーさんの治癒で治せるのは軽傷だけ。こんな大怪我を治すことは無理だわ」


「なんとか! なんとかっ!」


「残念だけれど」


「こんなのっ! こんな思いは沢山だ! 俺は……また!」


「ハル?」


「事故に遭ってから一年後のことだった。車椅子で散歩をしていた時、風船を持った女の子を見掛けたんだ」


「女の子?」


「ネネと同じくらいの歳だったか。その娘が誤って風船から手を離してしまった……その風船を追い掛けて車道に飛び出しそうになったから、俺が声を掛けて止めようとしたんだ」


「どうなったの?」


「届いてなかったんだ。走っていれば充分に間に合っていた! けど俺は、足を動かすことが出来なかった! 結果、その娘は轢かれてしまった。即死だった」


 ハルの話を聞いたルキは、ハルに掛ける言葉が見つからないでいた。只黙って抱き寄せた。昨日の自分にハルがしてくれたように。


「……おにいちゃん……おねえちゃん……泣かないで」


 目を閉じたまま、小さな声を絞り出す。二人の声の震えから、泣いていると感じ取ったのだろう。


「ネネ!」


「泣かないで」


「しっかりしろ! しっかり!?」


 ネネの身体から火が燃え出していた。黒い火は熱くなく、手を近付けると暖かい。それでもネネの体温は冷たいままだ。

 ルキもネネの手を握る。涙を流しながら、懸命に笑顔を作って見せる。


「綺麗だね。キラキラな目だね」


「そう? お姉ちゃん嬉しいわ」


「ルキ……これは!?」


「ちゃんと見届けないと駄目だわ。笑顔でね」


「パン、美味しかった。甘かった。また食べたい」


「そうね、また買ってあげる。三人で食べよう」


「やった……また……」


 火に包まれて燃えていく。それでも苦しむ様子はなく、眠るように静かになっていく。掴む手も燃えていく。


「またね」


 そう言って灰となるネネ。火は消え、そこに居るのは二人だけ。二人の涙に灰は濡れる。風が吹けば乗っていく。


「ルキ、頼みがある。ネネの灰を集めたい」


「ワタシもだわ」


 ルキが風を起こす。ネネの灰だけを巻き上げ、パン屋の袋に入れていく。


「今は我慢してね」


「ちゃんとした場所に寝かせてやらないとな」


 ネネの灰を抱いて、二人は街へと戻っていった。



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