人の定義
裏道を歩き捜すハルとルキ。表に比べれば静かなものだ。ゴミ箱を漁る音すら聞こえてくる。疲れた身体を解すべく体操をしていたり、駆け回るには丁度いい広場で親子が遊んでいたり。静かな空間に色んな音が飛び交ってはいるが、捜している少女の姿はない。
「居ないぞ」
「アロポリアのどの辺りかも分かっていないから、そもそも無謀なのは承知だけど」
「空から捜せないか?」
「ワタシの方が目立ってしまうわよ。大っぴらに魔術を使いたくもないわ」
「勘弁してくれよっ。目覚めが悪くなる展開は」
「ハル? 平気?」
「俺は平気だ。だから焦ってる」
ハルの焦りの〝気〟に驚いたのか、一斉に鳥が飛び立っていく。その羽音に混じり、地団駄を踏んでいた二人の耳に届く音。賑やかな表にも、静かな裏にも相応しくない騒音が。
「……銃声!?」
「どこからかしら!?」
急いで表通りに出るが、出歩く誰一人として気付いていないようだ。表での発砲ならば騒ぎになる筈。そのような事態になっていない以上、発砲の場所は限られる。
「女の子と銃声が無関係だとしても、みすみす逃すわけにもいかないわ。裏道でなのは間違いない」
「……また鳴った! 向こうから聞こえた気がするな」
音のした方角に走っていく。走る間にも聞こえてくる銃声に焦りは積もる。息を切らして立ち止まり、ビルの壁に手を付いた。気持ちで前に進んでいくと、数人の話し声が聞こえてくる。少し後ろを走っていたルキに手で合図を送る。コクッと頷いたルキはカードを取り出し、息を殺して身を潜める。
「ちょっといいか?」
ポケットに手を突っ込んで声を掛けるハル。金髪の少女一人に対し、五人の男が囲んでいる。その内の三人は銃を持っており、三人の内の一人は銃を少女に向けていた。
「何だ!」
「そんな物騒なもん仕舞えよ。大の男が寄って集ってみっともねえ」
「みっともないだ? こいつは防衛だ! 大の男が寄って集っても力不足の!」
既に指を引き金に掛けている。撃つ意思は固いようだ。『参ったな』と言いながら手を出して髪を掻く。それが自分に対しての合図だと読んだルキは、『ブレイズ!』と唱えながら突っ込んでいくと、目を押さえた男達を横目に少女を連れて逃げていく。
「目っ……目っ!?」
「ちょっとの辛抱よ。直ぐに治まるから」
「目ぇー!!」
「キミは我慢しなさい! 男でしょう!」
「扱い雑だ!」
「扱ってあげるだけマシだわ!」
そのまま表通りに逃げていく三人。ルキの提案で服屋に寄ることに。昨日の今日の来店にも温かく出迎えてくれた店員にホッとする。少女の服を選びながら質問していくルキ。目線を少女に合わせて話す様子を見ていたハルはドキッとしていた。と同時にガックリしてもいた。
「俺が見たことない笑顔だ」
「何か言ったかしら?」
「なんでもない。只の独り言」
※ ※ ※
「ほう! センスあるんだな」
店内で着替えて出てきた少女は、ノースリーブとスカートからワンピース姿になっていた。白いワンピースと金髪の組み合わせは、遠くから見ると花のようだ。
「ワンピースだけでセンスも何もないわよ」
「褒めてやったのに……。それで、何か訊けたか? 女同士の方が話しやすいと思って離れたが」
「ええ。お陰さまでスムーズに訊けたわ。この娘が狙われていたのも当然で、それはどうしようもないのもね」
「ん?」
「……この娘は魔術師よ。獣化の魔術を使う、ね」
「獣化?」
「何度も言うようだけど、魔術師は嫌われているの。〝突然〟という繋がりから、死火同様〝呪い〟の象徴としてね」
「奴等は何で撃つんだよ!」
「獣化の魔術師は、特に狙われる傾向にあるの。人ではない姿に化ける以上、人間ではないとして。殺せない以上、手足を損傷させるのが手段。銃で動きを止めれば、躊躇なく切る。それが無理なら骨を折る。それが奴等のやり方」
「惨いだろうっ!」
「これでもオブラートに包んでいるのだけれど。それだけの衝動を起こさせる程、魔術師は嫌われているのよ」
「そんなのが許されるのか!」
「それが現実だわ、この世界での。この国から出ても逃げ場はないわ。魔術師は怯えながら生きているの」
ルキは少女の手を握りながら話す。ハルに話すと共に、自分にも言い聞かせるように。




