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想いの籠った折り鶴は

「いいか? ここをこうして折り込んで」


「難しいよ。ボクは不器用だから」


「諦めんじゃない。簡単に諦められるのか?」


「諦めたくない」


 リーリッドの部屋に負けず劣らずの部屋。壁にはギッシリと本が詰まっている。ジャンルはバラバラであり、絵本があると思えば、別の棚には歴史書もあった。


「ラル。この部屋に有る本、全部お前の?」


「うん。兄さんは活字が苦手だから、あまり本を読まないんだ。本当は自由に出歩きたいんだけど、家柄、そういうわけにもいかないんだ。だから本を読む。少しでも知識を入れときたいんだ」


「恐れ入った~。リーよりもしっかりしてるぞ。ラル、今幾つだ?」


「六歳。同い歳の子と遊んだことなんかない。会えたとしてもそれは、お父さんの仕事の知り合いの子とか、許嫁とかで……」


「許嫁!? ラル、許嫁がいるのか!」


「驚くことじゃないよ。ボク達みたいな人間にはね。貴族に生まれた御曹司には、その富と名声に近付く人が絶たないんだよ」


「かああ! やっぱ大変なんだな! 幾ら金を持っていようが、それを使う為の時間も自由が無いなんて」


「お金持ちを羨むのは当然だよ。けど、お金持ちが幸せかと訊かれたら否定する。自由じゃないのは不幸せだ」


「がんじがらめなのは嫌だよな。そいつは同感だ。けどよ、金持ちなのに幸せじゃないってのは同感しかねるな。そいつは只の嫌味にしか聞こえない。不自由が不幸ってのは同感だがな」


「我が儘だ、ボク」


「そいつは違うぞ。ちゃんと自分の意見を言えるってのは大事なことだ」


「自分の意見、か。兄さんから意見を聞いたことないよ。兄さんは強いんだろうか」


「強いだろうが弱いだろう。寂しがり屋のボンボンなのは間違いない。だから、お前が傍に居てやれ。それが兄弟ってもんだ」


「うん! ハルには居ないの? 兄弟」


「生憎の一人っ子だ。だからまあ、多少の憧れはあるな」


「寂しくなかった?」


「寂しさを感じている余裕がなかった。苛立ちとか焦りとか、虚しさとかの方が強かった」


「そうは見えないけど?」


「俺は十六歳だからな。そうは見えないように装ってるんだ。強がりなのかもな」


「大人なんだ、ハル」


「背伸びをしてるだけだ。だがこれは違うぞ。ほれ、そうこうしてるうちに出来たぞ」


 綺麗に折られた一羽の鶴は、置かれた机から飛び立ちそうである。折り鶴なので動かないのだが。


「スゴいよ!」


「誰だって出来るようになるさ。お前だって絶対にな」


「一応は出来たけど」


 ラルロアが置いた折り鶴は、苦戦の痕のシワが出来ており、何回も折り直した為、所々が破けてしまっていた。


「なかなかの出来じゃんか! 上手いぞ!」


「ハルよりもヘタだ」


「俺は折り鶴の名人だからな」


「こんなんじゃ喜んでくれない。もっと上手くなりたい」


「許嫁にあげたいんだろう? 親同士が決めたにしても、自分の心は正直なもんだ」


「どうしたら」


「簡単にこなされちゃあ困るな。一回や二回で上手くいくなら苦労なんかしない。誰だってな」


「……お父さんも?」


「ああ。リルリッドのことは知らないけど、ここまでの富と名声を手に入れるまでに何回も壁を乗り越えてきた筈だ。だから、間違っても親を責めちゃ駄目だ。その代わり、甘えられる時には甘えちゃえ! それが子供の特権だ」


「うん!」


「いい返事だ。褒美に俺のをくれてやるよ。そいつを見ながら練習して、納得のいく鶴を折るんだな」


 ラルロアの頭をワシャワシャと撫でる。撫でられたラルロアは嬉しそうにしていた。


「もうちょい付き合ってやる。よーく覚えとけよ」


「うん、覚えるよ!」


 それから日が暮れるまで、ハルはラルロアに特訓をつけていた。


 

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