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異世界で旅館経営します!  作者: 秋沢タカシ
序章1 心の迷宮編
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私はこれからの出来事を余すことなく赤裸々に日記に綴ろうと思う。何があって何が起こったのかを。

家族という世界に1つしか存在しない奇跡。それは1ピースでも掛けてはいけない。頑丈な鉄壁に守られた要塞のようだが、脆い土塊でもある。



2013/12月/22日


天気は曇り。


この日。母親の異常なまでの変化を私は見る事となった。

起床後、一階リビングへと向かった。いつもでれあれば、母親がいた。が、今日に限っては電気は愚か、シャッターさえも開かずに暗闇であった。

やむを得ず母の寝室に向かうもその姿はなし。

家中探したがどこにもいない。

1つの部屋を除いては。

それは父の書斎。父の他界後、母と私は悲しみから少しでも逃げる為に父との思い出を遠ざけた。

父が履いていた靴・着ていた服・歯ブラシや髭剃り。

目に付く物は捨てた。

部屋にも侵入禁止の張り紙を施している。母親もこれに同意して、辛いながらも耐え忍んだ。


父の書斎の前に着く。

耳を澄ますと中から女性の声が聞こえてくる。

「お父さん。朝ですよ。起きて下さい。」


部屋の扉を開けるとそこには母がベッドの前に座り込んでいた。

「お父さん。遅刻しますよ。」


この時私は理解した。母が壊れていると。



2013/12月/23日


天気は曇り。


台風の接近により、天候がやや荒れ気味。そして、家の中も荒れ気味。

母は家事を放棄し。一日中、父親の書斎に篭っている。

私はというと学校と旅館の仕事で手一杯。余裕を作り、母とのコミュニケーションを取ろうとするも、母の言動・行動が私の手には負えなかった。

食事は取らず、入浴も拒み。体にも異変が起きていた。

体に赤い痣。白髪に口荒れ。

知り合いに相談し、近くの病院へと連れて行く事となった。

母を部屋から連れ出そうと声をかける。


「なにすんのよ!」

上品な母からは到底思えない暴言。

私の目の前にいるのは母だが母ではなかった。相手も私を私とは思ってくれていない。

どうしたらいいのか。わからない。



2013/12月/24日


天候は大雨。


外は最悪の大嵐。台風が直撃し大荒れだ。

予約していた病院をキャンセル。明日に訪問診断してもらう事となった。


母はいつもと変わらない。食事を取らないと駄目になってしまうと思い、おかゆなど食べやすい物を用意するが食べてもらえない。何とか食べてもらおうとスプーンで口に運ぶ。

唇を噛み閉め、食べないのだという合図を口だけでひたすら表現する。

三日間の無飲無食。

体は一気に痩せ細くなり、声すらださずに父のベッドを眺めている。

もはや、人間と呼べない。母とも呼べない。

救急車を呼ぶか迷った。だが私は呼ばなかった。

近所に今の母の姿を1目でも見せたら、私達はここで生活できなくなる。

それだけは避けたい。



だが、その判断を今でも悔いている。




2013/12月/25日


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