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異世界で旅館経営します!  作者: 秋沢タカシ
序章1 心の迷宮編
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4

仕事というのは己の本性を顕著に表す事のできる場所であるとつくづく思う。

旅館というお客様第一の場所でそれは尚更だ。


「おい!酢の物できてるか!?」

「すいません!土佐酢がまだです!」


調理場では荒言葉が吹き荒れていた。


「馬鹿野朗!椿の間の貝崎様は、夕食は19時だろうが!もう、食事処にセッティングしなきゃいけねーんだよ!テメェは何聞いてやがった!」


「す、すいません。」


この大声の主こそ、調理場の大将である田中勘六たなかかんろく。通称カンさん。立て型の厳つい眉にスポーツ刈りした頭に白いタオルを巻きつけ。その姿はドラマなどで良く見るベテランの板前そのもの。

この旅館の創立当初からいる人でお客さんに対しての扱いは女将同様、凄まじいものだ。



「たくよー!早くしろよ!それが終わったら、天婦羅だ!抹茶塩の用意もしとけよ!」


「へい!」


スタッフの扱いにも慣れており、女将がここの板長をまかせたのも良くわかる。


そんな光景を私は先づけする料理を待ちながら待っていた。

と、板場前からバタバタと誰かが走ってきている音がした。勢い良く扉が開き、赤くなった顔をした麗奈が現れた。


「ちょっと勘さん!!楓の間の天見様は海鮮アレルギーをお持ちでしょ!!何で小鉢にしらすが入ってるのよ!」


「なにぃ!」


黙り込む暇なく、勘六は近くの冷蔵庫に向かい何かを探し始めていた。

「おい!春男!明日の朝食に使う南瓜の煮物はもうできてるか!}


「へい、こっちの冷蔵庫にしまってやす。」


「レンジであっためて、それをお出ししろ!」


指示された春男は皿に作り置きしていた南瓜を古びたレンジで数秒温める。その間にお客さんに出す料理を作っており、この集中力は真似できないと私は思った。

隣にいた麗奈さんはそんな事どうでも良いかのようにその場をクルクル回り「まだか。まだか」と憤りを抑えていた。


「チーン」

切れの良い音と共に春男が湯気がでた南瓜の煮物を小鉢によそい、こちらへ持ってくる。


「はい!上がったよ!」


「次、天婦羅お願いね!」


麗奈さんはそれを言い残すとお盆に小鉢を乗せ、早歩きで板場を出て行った。


「おぃ、舞子!」


「はい!!!」

急に大将から声を掛けられ、どうしたものかと少し硬直してしまう。


「さきづけの料理だろ!木の芽乗っけたらできるから、後1分くれ!」


「わかりました!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「失礼いたします。」


「はい、どーぞ。」


広い和室の部屋に1つの机を相対に座る2人の老夫婦がいた。

男性の方は70歳過ぎと言ったところだろうか、白髪が丁寧に整えられており、それとマッチするような特徴的な眼鏡が合っている。ガラスが厚く、その男性の瞳がみえない。

本人は前が見えているのか?と少しばかり心配である。


女性の方も年齢は同じで70歳であろう。そのニコニコした笑顔はみんなのおばあちゃんと言った感じだ。電車などで飴玉をくれそうな・・・。


「おまたせしました。当旅館で御贔屓にしていただいている、猪肉のボタン鍋をお持ちしました。お客様のご要望通りにもう具材を入れて、過熱した状態でお持ちしました。鍋の方が大変熱くなっておりますので、どうぞ、お気をつけください。」


「はい。ご丁寧にありがとう。」


テーブルに元々ついてあるコンロの上に乗せる。本来であれば、ダシを張った鍋をコンロに置き、具材もお客様自身に入れてもうらうのが一般的だが、火傷などの危険性を考慮して、お年寄りの方にはこういった感じで提供しているのだ。


「蓋の方が熱くなっておりますので、お開けさせていただきますね。」


「はい。お願いしますね。」


ポケットに半だしにしていたタオルを取り出し、蓋にタオルを被せて、少しずつ開ける。躊躇せずに勢い良く空けると空気が鍋の中にドッと入ってしまい、おいしさを損なってしまうからだ。


蓋を取ると猪肉を希少に周りに新鮮な野菜が散りばめられている。


「おー。こりゃ、美味しそうだ。」

「本当に美味しそう。」

二人は軽い拍手をし、こちらを見て一礼した。


「鍋の方が終わりましたら、最後にお米と漬物。デザートもご用意させていただきます。どうか、ごゆるりとお過ごしください。」


「ありがとうね。ゆっくりさせてもらいます。」



二人が料理に口をつけるのを確認し、ゆっくりとへ部屋を後にする。


外を見ると辺りは真っ暗だ。街頭などの光で足元は照らされているが、まだ吹雪いているこの状態での外出は少し危険かもしれない。

徐にポケットの底に眠っている携帯を取り出す。客が通らない場所へ向かい、携帯を開ける。

一件の未読メールが入っており、確認のボタンを押す。


「舞子。お母さんです。今日は遅くなりますか?外が吹雪いているので迎えにいきましょうか?」


差出人は母親であった。


今の時刻は20時前。片付けと朝食のセッティングなどを考えると22時は過ぎるだろう。終電には間に合うがこの外を歩くのは危険かもしれない。



「ありがとう。板場の人に近くまで送っていってもらうかもしれません。様子見て連絡します。」

そう打ち込むと送信のボタンを押す。


携帯をポケットに戻し、受付に向かった。


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