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異世界で旅館経営します!  作者: 秋沢タカシ
序章3 旅館経営編
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2

街中を大勢の兵士が闊歩し、その後ろに見た事のない者達が縄に繋がれて引っ張られる形で連行されている。

早朝にも関わらず、街の住人達は家から現れては騒ぎ出す。


「あれが噂の化け物ね。」


「あら。なんて気持ち悪い形。」


「ママー。怖いよー。」


「街から出て行け!」


物を次々と投げる。

石に植木鉢。木片に金属類など。

恐怖と不安が入り混じる。舞台は混沌の幕開けを果たす。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

-宮殿前-


「ここで少し待て。」

兵隊の一人が犬に「待て」とするように手を突き出す。

ほかの兵士とボソボソと話しを始める。その光景を確認して、その隙にこちらも沖介達とを会話をする。


「皆、声での返答はせずに聞いて。この中での発言は命取りになる可能性がある。慎重にならないといけない。だから、ここは私にまかせてくれない?」


全員が頷く。


「それと以前、話した事も頭の隅に置いておいて。」


緊張が走る。これから命の駆け引きをしようと思うと胸が張り裂けそうだ。水分を摂取していないが大丈夫か?この宮殿の中には一体何がいるのか?

不安だけで死んでしまいそうだ。

だが私の行動1つで全員の生命を左右する。


仲居として学んだ作法・敬語をフル活用する。「やるんだ。私!!」と奮い立たせる。


前を真っ直ぐ見据えた。


「よし。いくぞ。」


さきほどの兵士を先頭に私たちは宮殿の門前で立ち止まる。



「かいもーーーーーん!!」

何処からともなく雄雄しい大声が響き渡る。その声に合わせて扉が開き始める。銅で作られた扉は土ぼこりを立てながら全開門する。


「歩け。」

グイっと縄を引っ張られて歩き出す。


宮殿内は驚くほど広かった。下は大理石がぎっしりで上を見上げるとこれでもかと言う位のガラスが敷き詰められて太陽の明かりが眩しいと思えるほど照らしている。

横を見渡すと人工自然がある。

草木が間隔良く咲いている。どこからともなく聞こえる水のせせらぐ音がアクセントになる。


そして、中央には天井まじかまである柱がある。簡易な柵に大きいクッション。その上には・・・。


「狐神様!手配中の化け物を街にて確保いたしました。」


兵士に突き出され、柱の前でひざまずく。

上に目をやると和風の衣姿でなぜかニタニタと笑っている狐がいた。毛色は黄色で尖った髭がゆらゆら揺れる。


「聞いておるぞ~。そなたちはニンゲンという生き物らしいの~。して、御主達はどこから来たのだ?答えてみせよ。」


涼しげな顔でこちらを見下ろす。

大きな目が左右に揺れて、私たちを観察している。危険な匂いがする。


右手で扇を扇ぎ、左でパイプタバコを吸う。

白い煙ではなく紫の煙なのが気持ち悪い。匂いも酷い。何重にも配合されたアロマを近距離で嗅ぐ感覚だ。咽そうになる。


狐は扇を閉じ、一人に付きつけた。


「そこの小さくて薄汚い服を着た者よ。童に答えて見せよ。」


その選択者に選ばれたのはほのかであった。


沖介が瞬時に何か言おうとしたが私がそれを遮る如く鋭い眼光でそれを静止させた。

今は様子を見るべきである。不用意にでしゃばる訳にはいかない。

だが、相手はほのかだ。発言のタイミングをミスすれば、その後どうなるか考えなくても理解できる。


「え、え、え。えっと・・・。」

話の意図は理解しているようだ。どこから来たのかという問いぐらいはほのかでも答えられる。

しかし、狐の冷え切った厳しい視線の前に振るえを押さえ切れていない。


数秒か数分なのかわからないが時は無情に過ぎ去った。


「ふん。童の問いに答えれぬとは笑止千万じゃ。おい、それを殺せ。」


場が凍りついた。

沖介が良太が沙織が事態に耐え切れず立ち上がろうとする。

が、一人の声でそれは止まる。


「お待ちください!!!」


女性の声が宮殿内に轟く。


「その問い。私にお答えさせていただけませんか!?」


限界を超えて未知であった。

宮殿に入る前にそれなりの言葉を用意していた。恐らくこういう質問をされるからそれに沿った解答を用意しておこう。人間という存在に対して聞かれた場合に適切な答えはこれだろう。と、いくつも考えていた。だが、殺せというワードに私も平常心ではいられなくなった。


「なんと甲高い声よ。まぁ、良い。はよ申せ。」


ほのかから私に目線を移し、相対する。


「はい。私はマイコと言います。。ここに来た理由は私達にも良くわからないのです。気が付けばこの世界に迷い込んでおりました。」


「ま・・い・・こ。・・・ふ。ふははははは。」


線が切れたかのように急に笑い始まる。

宮殿内はその笑い声だけで響き渡る。控えていた兵士も不意な事で理解しきれていない。


「ぷははは。なんてつまらない名前じゃ。ふはははは。」


名前でここまで笑えるのも大した事だ。

表情には出さないがイライラ感が募る。


「おい、そこのネコ。」


笑いは途端に終わり、私達の後ろに控えていた猫人に目が行く。


「なぜ、笑わない?」


一瞬の間が空き、猫人が笑い出す。


「ふ・・。ふはははは。」


数秒間、笑うと徐々に声量を落とす。

猫人の顔が真っ青になって行くのがわかる。


「なぜ、やめる?」


「え。あ・・。あ・・。」


言いよどむ。


「あは・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

再度、笑い始めようとした猫人に異変が起こる。


「っひ。」

その光景はあまりにも衝撃的であった。


「お、おたすけぇ・・・。」


溶けている。

足元から段々と体が溶けている。

ドロドロとした液体と共に下半身の方から部位が溶け始めている。


「き、狐神様。どうかお許しを!」


慈悲も糞もない。狐はその光景を見て満面の笑み。

それはただの愉悦。それはただの遊戯。それはただの道具。


無情にも溶解は止まることなく、猫人は僅か1分で液体と化す。


悲鳴もでない。


「興がそがれたわい。して、マイコよ。御主らはニンゲンというのだったな。」


何事もなかったかのように問いを投げつけられる。


「は、はい。」

舌を噛み、恐怖を押し殺す。

ここで動揺を見せれば、全員同じ目にあってしまうからだ。


「ニンゲンは何かできるのか?」


「はい。私達、人間にしかできないことがあります。」


「ほう。申せ。」


唾を飲んだ。

起死回生に選んだ言葉がこれであった。



「おもてなしです。」


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