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異世界で旅館経営します!  作者: 秋沢タカシ
序章3 旅館経営編
23/25

1

草薮を抜けて一斉に急斜面を靴でブレーキを掛けながら降りて行く。

滑りが良い土で構成されており、まるでスキーをやっているかのように垂垂と進む。


降下後、道なりに進んで小川を渡ると街へと続く川がある。外灯などは一切無く、明かりと呼べる物は存在しない。

ただ、一点の光があった。


オレンジ色に輝くその光は遠くからでは漫画などに出ててくる人魂のような形をしている。

ゆらゆらと光を放ち、もやもやと煙っている。


「あ。ほのかちゃん。!」


沙織は視力がこの中では一番優れている。まだ太陽が出ていないこの闇黒の中で人を視認できるとは大したものだ。


「ほのかーー!」


「ちょっと待って、沖介さん!」


舞子が静止するように呼び掛けたが、沖介は無我夢中にほのかの元へと走り寄った。


「舞子さん?」


横にいた沙織がこちらを見て、不安げな表情をする。


「さっきから、何か胸騒ぎがするの。」


心臓の鼓動が激しい。急に走ったのでビックリしているだけなのかもしれない。


「ごめんね。何でもない。行こう!」


「はい。」


沙織が走り出すと良太がこちらをちらりと見てから、それに続いて行った。


「?」


妙な事を言い出すから心配させてしまったのだろうか。

深く考え込まずに最後尾の位置取りをして、ほのかの方向へと戻った。


途中に辺りを見渡し誰かもいないかを確認する。

この時間だ。街は静まり返っている。


早いとこ撤収するのが最善であろう。



皆の所に駆け寄ると沖介がほのかを抱きしめていた。軽く啜る音も聞こえる。よっぽど心配だったのだろう。


「みんなー。みてみて!お魚さん。」


食べかけの焼き魚をブランブランさせながら見せびらかす。


「うぉお。うまそうっすね!」


「ええ~。いい香り。」


良太と沙織も久しぶりの「肉」の香りに夢中だ。


まだ暗がりで各々の顔をしっかり見る事はできないが。きっと、ほのかが無事であった事と焼き魚の香ばしい匂いで笑顔なはず。


沖介も「良かった・・・。」と何度も言っている。


「ん?」


場の空気で流されたが一瞬で我に返る。


「焼き魚?」


ポロっと口をこぼす。


七輪の前にいた良太がこちらを向いて「みんなで食べましょう!」と言う。

ニコニコと嬉しそうな顔をしている。が、そうではない。


「そうじゃない。」


ほのかの方へ目をやる。


「ねー。ほのかちゃん。この魚や七輪はどうしたの?ほのかちゃんが用意したの?」


発言を全部理解しきれておらず、首を傾げる。


「ん?舞子お姉ちゃん、どういうこと?」


その返答に一同が私の方を向く。


「このお魚さんを焼いたのはほのかちゃん?」


「ん~とね。猫さんー!」


「その猫さんはどこに行ったの!?」


「え~とね。あったの方向に何か叫びながら走っていったよ。」


一瞬の間ができる。

最初に口を開けたのは沖介。


「やばいな。戻るぞ。」

さっきまでの穏やかな顔が刹那に「ヤバイ」という顔に変わった。

良太と沙織も背筋に寒さを感じたのが辺りをキョロキョロし始める。


沖介はほのかを抱き上げ、元来た方向へ振り返る。


「ちょっと待ってください。この七輪の火を消したほうがいいです。」

沙織が川に微量の水を取りに行こうとする。


「いや。その七輪ごと川に沈めた方がいい。良太!」


良太は一回頷き、七輪を両手で持ち上げる。

そして・・・。



「おりゃー!」


力を込めてぶん投げる。


「ば、ばか!音立ててどうすんのよ。」

沙織はその行動に呆れて、良太の頭に拳骨をお見舞いする。


「いってぇぇ。」


腫れた頭を擦りながら、沙織の方へ舌を突き出して「ベー。」のポーズを取る。


「行こう。」

沖介は全員に聞こえる声で発声する。


「うん。」


頷きあい街の反対を位置する家の方を凝望する。

が、一歩は踏み出さず全員がその場で硬直してしまう。その原因は間の前にあった。


「そこの不貞の輩よ!その場を動くでない!!」


油断していた。

冷や汗が出る。体が熱くなる。心臓の音が高鳴る。


「ふむ。手配書の通りだ。何と異形よ。」


先頭に立っていたのは熊頭の人。

硬そうな体毛に雄雄しい顔。毛色は茶色。現実世界で見たことのある熊より遥かに怖い。


「動くなよ?」


ギロリと沖介に鋭い眼光を向ける。

後方に一歩足をやろうとしていたようだ。中途半端な所に左足が行っている。


「異形の者達に問おう。お前達は何だ?」


見た目からしっくりとする声が出る。

その言葉は個人に答えさせるものではなく誰でも構わないから言えというものだった。


良太と沙織は見るからに震えている。普通に考えると熊と対峙して震えない人間はそういないだろう。そんな屈強な人間がいるのならば会ってみたいものだ。


「私が言います。」


口を開いた。唇が乾燥していて声を出し難い。


「ほう、異形にも性別はあるようだな。どれ、そこの女。申してみろ。」


「はい。私たちは人間という生物です。」


「人間?」


熊人は初めて聞く単語に首を傾げる。


「はい。私たちは猿が進化した形態です。」


「猿?」


「人間」というワードを知らないのだ。「猿」を知らなくて当然か。

自分の失言で状況が悪くなる可能性だってある。とんだミスをしてしまった。


「失礼しました。今のはお忘れください。私達はこの世界とは違う世界からやって参りました。」


「ほぉ。我々がいるここと違う世界があるのか?」


「はい。そうです。」


熊人の後ろで控えている兵隊達が顔を合わせて「知ってたか?」などとお決まりの会話をし始める。


「うるさい。黙っておれ!」


そんな兵隊達のどよめきを一瞬で殺す。


「ふん。まぁ、貴様等がどこから来たのかどうでもいいわ。」


「私達は皆さんに害を及ぼすつもりはありません。私達はただ元いた世界に戻りたいだけなのです。どうか見逃していただけませんでしょうか。」


熊人の目を直視し、懇願する。


「ん~。」

目を瞑り考え込む。


「我々は異形の者を見つけた際は殺すよう仰せつかっておる。」


「な!?」

一言も声を出さなかった沖介が聞こえるか聞こえないかぐらいの声を出す。


「だが・・・。」


熊人は厳つい顔を崩さず、こう述べる。


「だが・・・。礼儀は弁えておる。そこの女に免じて、今は命の保障を免じてやる。」


「ありがとうございます!」


「だが、貴様等の存在価値を決めるのは我が國の王「狐神様」である。狐神様がおられる宮殿までは殺さないでやろう。そこで貴様らの価値を証明するがよい。」


そう言うと兵士に「連れて行け」と合図を送る。


兵隊の数人が目の前までやって来て、手に縄を縛り付ける。

沖介は抱きかかえていたほのかを下ろし、「いい子にするんだ。」と言いつけ、お縄に付く。



「私達。一体どうなってしまうんだろう。」




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