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-ほのか side-
私の名前は相沢ほのか。小学1年生です。
優しいお兄さんと大好きなお母さんとお父さんに愛されて楽しい日々を送っています。
好きな食べ物はハンバーグ。嫌いな食べ物は茄子です。
好きな科目は国語と体育です。嫌いな動物は近所の家で飼われている大きなワンちゃんです。
好きなアニメは魔法少女まどかちゃんです。嫌いな事は運動です。かけっこではいつもビリです。
仲の良い子達からは「ほーちゃん」や「ほののん」って呼ばれています。
学校ではいい子にしていて、皆は私の事をキラキラした目で見てきます。
でも、家では甘えん坊さんです。
私はお兄ちゃんが大好きです。
一緒にお風呂に入ったり、勉強を教えてくれたり、お布団の中で絵本を読んでくれたり、優しいお兄ちゃんです。将来はお兄さんのお嫁さんになりたいです。
お母さんにその話をしたら、笑ってこう言われます。
「兄弟は結婚できないのよ。」と。
お父さんにも同じように言われます。
でも私は挫けません。頑張ってお兄ちゃんのお嫁さんになるのです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「グー。」
空腹感から出る音でほのかは目を覚ます。木材で出来ているこの家は隙間があちこちにあり、破れた布と床に引いている藁だけでは寒い。まだ未成熟な体には少しばかりキツイ環境だ。
隣には兄の沖介が気持ちよさそうに寝ている。
「ウガー。ウガァー」と、良太は盛大にいびきをかいている。
その音に対して、沙織が反応して「ん~。ん~。」と悶える。
舞子は熟睡している。
霞んだ目を擦り、寝床につこうとする。
「ん?」
外から何か良い匂いがした。
それに釣られるように家の門扉を開ける。
「この匂い・・・。」
すぐにわかった。
「お魚さんの匂いだ。」
漂ってきていたのは魚を炙った香り。焼き魚の芳香。
木の実や山菜などしか口にしていなかったため、魚肉という「肉」というワードを連想させるだけで涎が出る。
我慢できなくなり、小走りでその方向へと向かう。
もう何も考えられない。
一人で行動していいのか?皆に教えてあげなくていいのか?
もうどうでもよかった。
久しぶりのお肉。飢えた狼の様に肉の匂いを嗅ぐ。
「くんくん。」
匂いの方向へ鼻をやる。
「あっちだ。」
天に届くのではないと思えるほど草が生い茂っている中を膝をつきながら、よちよち歩きで前進する。
足に泥が付こうがお構いなし。
靴が一足脱げている事さえ気が付かず、もう我という自我を保てておらず、無我夢中で進む。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「へっへっへ。」
猫人が深夜の河川敷でニタニタ笑っている。
「この魚は深夜の時間にしか取れないからな~。眠いの我慢して良かったぜ。」
七輪を団扇で扇ぎ火力を強める。
網に乗っている魚は「ジュージュー。」と良い炙り音。
「う~。さむ。」
七輪の火を焚き火代わりにし温まる。
焼き上がりの時まで今か今かとウズウズしてしまう。軽く身をよじらせ、背伸びをする。
「早く焼き上がらないか~。・・・・。もういいかな~。いや、後ちょっと、もうちょっとの我慢。」
最高の食べ時を見定める。
魚の全体に熱が入っているか。程よく黒い焦げがあるか。そして、香り。猫の鼻は一級品。他の種族に遅れはとらない。
「もう少し・・・。もう少し・・・。今だ!!」
一回り大きい箸を勢いよく持ち、狙いを定めて振りかざす。
完璧の瞬間だった。
だが、猫の優れた聴覚が無意識に働く。
「だれだ!?」
後方から微かに音が聞こえた。
「まさか、わしのこの魚を狙ってきたのか!?犬の野郎か!まさか、鳥の爺さんじゃないだろうな!?」
徐々にその音は近づいてくる。
右手に箸。左手には扇。剣と盾を持ち構えているかのようだ。
七輪の火だけでは見えずらい。
が、それはあまりに小さいものだったので姿はすぐに視認できた。
「ねー。猫さん。これ、私も食べたいな。」
目の前には見た事もない何かがいた。
「き、き、きさま。なにもの・・・だ。ま、まさか。最近、街で噂されている化け物か!!」
「ねーねー。猫さん。食べちゃうよ。」
言葉を無視して、目の前の化け物は脂が乗った焼き魚をほおばる。
わしが眠気を我慢してまで焼いた魚を。せっかく節約して買った魚餌で釣った魚を。
「恐ろしい・・・。なんて恐ろしい。この化け物がぁぁぁぁぁぁ。」
急いで國の兵士に知らせなくては。こんな恐ろしい化け物を放置しておくわけにはいかない。
早く。早く。早く知らせなくては。
「一大事じゃぁぁぁぁぁ。みんな起きるじゃあ。化け物がおるぞおおお。」
大声で叫びながら街まで走った。