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*私立岬ヶ丘高校*
2年前まで伝統ある女子高校だったが新入生の確保が難しくなった為、私の入学同時期と共に共学へと変わった。そのため同期は男子がいるが先輩達の学年には女性しかいない。
当初は慣れれない光景ではあったが二年生に上がってからはそうでもなくなった。男性に興味がないのかと聞かれたらそうでもない。
確かにそこまでの関心がある訳ではないが、今の立場的には恋愛などをする余裕もないのだ。
朝夕の仕事。そして、学業。
高校2年生という遊びたい時期にも関わらず、仕事と学業の両立で暇を作るのも難しい。そのせいで部活には無所属。放課後の付き合いなどもない。
友達がいないという事でもないが、ほかからは尊敬の目のようなものを向けられ、近寄りがたい存在となっている。
「優等生」という扱いにも慣れっ子になりつつある。
この学園は元女子高なだけあって、その名残もちゃんとある。
校門を通ると手入れがされているガーデニングが広がっており、昼食時や放課後などは生徒達で溢れ返っている。
ベンチで本を読む者。仲間同士で歓談している者達。カップルなどもちらほら確認できる。
私も昼食時にはここを利用している。
食堂や売店が無い為もあり、ここは生徒達の安息の場。
学園の中はというと特に変わった所はない。空き教室がちらほらあると言ったところだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
旅館の業務終了の後、学園へと向かう道は学生や通勤者でゴタゴタであった。
横断歩道も少なく、曲がり道もそんなにある訳ではないので1つの道に大人数が行き来している。こればかりは入学してからの2年間慣れることはできない。
学園へは10分そこそこで到着した。
入門すると共に下級生へ同級生の女子生徒から声をかけられる。
「古川先輩おはようございます。」
「舞子さん。おはようございます。」
私は笑顔で「おはようございます。」と周りに軽い会釈をして、早歩きで下駄箱へと向かう。目立つつもりは一切ないのだが凄まじい視線を浴びせさせられている。
自分の靴箱の前に立つと「またか。」とほかには聞こえないように溜息を吐き出す。
そこには一枚の封筒が入っていた。察するにラブレターという物だ。
毎週毎週、必ず1枚は入っている。
「みてみて、古川さん。またラブレターもらってるよ。すごいなー。」
「本当だ。今日で何枚目なんだろうね(笑)」
その声の方向へニコリとした顔をして振り向く。
「やば。」という下品な声をあげて、その声の主達は立ち去った。
私はそのラブレターを鞄にしまい、教室へと足を進める。
階段を上がり職員室の前を通り、2年A組の教室まで来ると軽い深呼吸をして扉を開けた。
このクラスはほかのクラスと違って異質な存在であった。というのも全員が物静かな人達であるという事だ。
私より先に来ていた生徒達は友達とお喋りしたり、ウロウロしたりなど一切せずに律儀に椅子に座り、本を読んだり、授業の予習したりなど。
ただ私からしたらこの状態はとてもありがたい事なのだ。
早朝の仕事を終えて来ている訳で友達と会話するというのは体力の浪費で夕方の仕事に差し支えるのだ。
友人関係のないこのクラスに巡り会えたという事に感謝しなくてはならない。
しかし、私は友人との会話は決して嫌いではないし、友達を持たないのもコミニケーションを取るのが苦手なのかと聞かれるとそうではない。
学園内では孤高の存在ではあるが、それはここだけの事だ。それはわかっていてほしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
静寂につつまれている教室内にチャイム音が鳴り響く。と同時、ガラガラという音と共に1人の男性が入ってくる。
教壇の前に立つと1人の女性に対して催促するかのような目線を向ける。
「起立」
生徒が一斉に立ち上がる。
「おはようございます。」
揃った挨拶までとはいかないが中々に統制された声揃いだった。その生徒達の挨拶を返すようにその男性が「おはよう。」とハキハキした声ではなく、覇気を感じれない声で言った。
これがうちのクラスの担任。名前を吉田先生。
年齢も50過ぎでこの学校設立時からいる数少ない男性講師だ。
嫁さんに逃げられたという噂があり、そのせいで数年前から元気が全然ない。それが真なのかはわからない。
「ええ~。特に定時連絡などはありませんが、寒くなってきましたので、風邪には気をつけましょう。以上です。」
言うことを済ませた吉田先生はさっさと教室を後にする。
「それでいいのか!!」と少なからず私以外にも思っている人は必ずいるはずだ。たぶん・・・。
外を見るとパラパラと粉雪が降ってきていた。
季節は冬。
私は机にひじをついてボーっと窓から見える外風景を眺める。
誰もいない運動場。ガーデニングで休憩している講師。正門にいる配達員。
「穏やかな時間だ・・・。」
私はそう呟き、授業の用意をした。