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異世界で旅館経営します!  作者: 秋沢タカシ
序章1 心の迷宮編
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「なぜ、もっと早く病院に来ていただけなかったのですか!!」

緊急搬送された病院の女性医師からの怒号。

辺りは一瞬で静まる。

大の大人がまだ成人を向かえていない子供に発言して良い言葉ではない。だが、それはきっと母の姿を見ての事であろう。

人間は絶食をし続けても一ヶ月は生きられる。水分を取っていた場合。


母は3日間の飲まず食わず。時間にしておよそ72時間弱。

72時間を過ぎると体に多大な悪影響を及ぼし、死ぬ事もあると言われている。自分の無責任さに目を瞑るしかできなかった。


「先生。この子はつい最近、父親が他界して、精神的にもダメージを受けているんです。どうか、許してあげてください。」


藤岡先生がパッと割り込んでき、女性医師に落ち着く様に説得する。

それを聞いた女性医師は刹那、黙り込み顔の表情を変える。私の方に向き返り、申し訳なさそうな表情でこう告げる。


「・・・。ごめんなさい。お母様のお姿を見てしまい、少し乱してしまいました。医師としても私としても失礼な事を言いました。ごめんなさい。」


「い、いえ・・・。」



女性医師は深く頭を下げて、別室へ私達を誘導する。

「お母さんの容態をお伝えいたしましょう。こちらへ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「率直に言いますね。頭部の損傷については軽い傷で済みました。ご安心ください。」



「はい。」


「そして、お母様の異様な行動。これはうつ病です。恐らく、お父様がお亡くなりになった事で心に傷ができたのでしょう。」


隣に座っていた藤岡先生が軽く咳き込む。

「その件に関しまして、私が本日お伺いする予定でした。あ・・・申し遅れました。私、藤岡クリニックの藤岡と言います。」


バックから電話番号とメールアドレス、住所などが記載された名刺を渡す。


「あ、カウンサラーの方ですか。これは失礼しました。」



大人同士での会話に中々入り込めず、その様子を呆然と見ていた。だが一番気になる話を聞く事にする。


「あ、あの。そのうつ病は治るのですか?」


「はい。これからが本題です。うつ病に関しては私の専門外などでそちらの先生に一任できます。が、お母様に今起こっているのはそれだけではありません。」



「というと・・・?」


女性医師は机に置いていたカルテに一回、目を遣り近くに用意していたマグカップに入れてあるコーヒーを飲み干す。

私の方へ向き直し、こう言った。




「お母様は記憶障害を起こしています。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


母はベッドの上でスヤスヤと眠っていた。点滴に繋がれている。どうやら、栄養補給の薬をちょっとずつ投与しているようだ。

衛星管理された個室の中はとても清らかで慌しい私の心も少しは安堵した。


「お嬢さん。」


席に座っていた私の隣で立っている藤岡先生。遭った時からその笑顔は一切崩さず、私の不安や心配を緩和してくれた。本当に感謝しかない。彼がいなければ、パニックになり今頃はどうなっていた事か。


「さて、私はそろそろ御暇させていただきます。宜しければ御自宅までお送り致しましょうか?」


「あ・・・。」



時刻は夜の23時を回っていた。

良く考えてみれば今まで赤の他人だった人をこんな遅くまで付き添わせてしまったのだ。お詫びはどうするか。治療費などもどうしたらいいのか。どう切り返したらいいかわからない。


「あ、あの先生・・・。」


「ん?どうかいたしましたか?」


口篭った私の目の前に立ち、頭を撫でる。

優しく温かい手で。この人が他人だったとは思えないほどの温もり。


「今日は本当にありがとうございました。こんな遅くまでお付き合いさせてしまって・・・。治療費や御礼なども含めて後日お伺いさせてください。」


「ははは。」


軽い笑いをしてから、目を合わせる。


「治療費なんて結構ですよ。私は診断をしていません。言わば仕事していないのです。それなのにお金を取ったら・・・わかりますよね?」


「で、でも・・・。」


私にも引けない部分があった。感謝とは言葉ではなく物で表すもの。お金やそれと同等の物。先生も一人の人間で生きて行く為にはお金がいる。今回は仕事という名目で訪問したのにも関わらず、診断というのよりももっと複雑な事に巻き込んでしまった。

本当ならばお金だけでは申し訳ないというのに。否が応でも何かしらの物を受け取ってもらわなくては。



先生は天井に目をやり、何かを考える素振りを取る。


「そうですね。御礼は結構ですが1つだけお願いを言っていいでしょうか?」


「は、はい!」


「これから貴方にはもっと過酷な災難が起こると思います。ですが、絶対に立ち止まらないでください。どんなに苦しくて辛くても、その先にきっと幸せがりますから。」


これをお願いと判断するのに私は時間を要さなかった。


「それは・・・。」


私の口元に先生の人差し指が当たる。



「っし。病院ではお静かに。治療費も要りませんし、御礼の品も要りません。今言ったお願いを忘れないでくださいね。」



口を塞がれた私はコクリと一回頷き、了承の動作をゆっくりと取る。


「結構。・・・今日は病室で泊まって行きますか?朝にはお母さんも目を覚ますでしょう。」



口の封じが解かれるのを確認して口を開く。


「そうさせていただきます。今日は本当にありがとうございます。」



「では。」



お互い会釈をし合い、別れを告げる。

静かに開いた病室の扉から廊下の電灯が差し込む。その光が母の顔を照らし、久しぶりに出会ったみたいであった。倒れた時はどうなる事やら不安しかなかったが何とか一件落着。

これからが踏ん張りどころだろう。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




????/??月??日





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