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スフィラ2

「あれは、何なの」

「あれはフランクフルトって言う食べ物だよ」

「じゃああれは……」

「あれは、飴と言うお菓子だよ」

「あれが、飴っていうお菓子。実物はあんな風なの……」


 現在一行は、シャルルの新しい服を買う為、服屋へと向かっている。

 時々シャルルが目を輝かせながら、ルドガーに質問をしている。

 あまり質問ばっかりするとルドガーも嫌がるのではないのかと思ったが、当の本人は嫌な顔をせず、笑顔で答えている。


「シャルル、あんまりはしゃぐなよ。疲れて途中で歩けなくなったら、困るからな」

「うんっ、あれは何なの?」


 俊弥が忠告してもシャルルは聞かず、目を輝かせながら街中を歩く。

 その様子を見た俊弥はしょうがないなと苦笑しながら、シャルルのことを見ている。


 ……でも、仕方ないことだよな。

今まで外の景色を知らなかったから。


 俊弥がそんな事を思っていると、服屋に着いた。


「ここが服屋さんだよ」

「大きいの」

「大きいな」


 外見からにして、シャルルがいた屋敷より大きく感じる。

 あの屋敷もかなり大きい造りだったが、ここはやはりあの村と比べて大きな建造物ばかり目に付く。

 所詮あの村は田舎で、スフィラは都会という差を感じた。

 中に入ると、そこには様々な種類の服揃っていた。

 パーティーで着るようなドレスやタキシード、祝い事で着るような振り袖、何故か水着まで売っている。


「スフィラは王都だから、結構色んな種類の服が売っているよ」

「……凄いの」

「本当だな……おっ、シャルルこれとかいいんじゃないか?」


 そう言い俊弥が手に取った服は、濃いピンク色のTシャツに黒い文字で男魂と書かれたTシャツだ。


「…………」

「俊弥……流石にそれは女の子には……」


 俊弥本人は決して嫌がらせとかの悪意はないのだが、二人は流石にその選択はないと内心感じていた。


「うーん結構いいのにな。……じゃあこれは」


 次に手に取った服は茶色のTシャツに白い文字で納豆ご飯と書かれたのと、黒いTシャツで赤色の文字でリア充爆発しろと書かれたTシャツと、そして緑色のワンピースに人なのかよく分からない絵が描いてあり、横にドヤッ!! と書いてある本当によく分からない服ばかりを見せてくる。

 既にお分かりだと思うのだが、俊弥はファッションセンス皆無だ。

 買ってくる服たちはいつも意味不明な文字が書いてあり、家族にも友達にも呆れられていた。

 俊弥の服のセンスが皆無過ぎる事に、ルドガーは勿論のことだがシャルルまで呆れ顔だ。


「……俊弥。シャルルの服は僕が見るから、俊弥は好きに店内を見ていてよ」


 流石に俊弥のファッションセンスだとシャルルの服が可笑しな服装になってしまうと感じたルドガーは、そう俊弥に声をかけた。


「ん? そっか。おっ、これもいいな」

「ハァ……行こうか」

「……はい、なの」


 俊弥が可笑しな服見て楽しんでいるのを尻目に、二人は服屋の奥にへと足を運んだ。



「俊弥」

「ん? 服決まったのか」


 約一時間後、ルドガーに呼ばれ振り返ると、そこには水色の服を着ているシャルルがいた。

 そのシャルルの姿を見て俊弥は言葉を失った。

 水色の上着をリボンで止め、上着の下には少し濃いめの水色のひらひらとしたものが出ている。

布をベルトの下に入れただけのものだろうか。

 中の服は薄めの黒いワンピース、靴はブーツのようなもので黄色のラインが入っているものだ。


「どうかな? 水色が似合うかなと思ったけど」

「いや……いいと思う。凄く似合っているよ!」


 そう、かなり似合っている。

 俊弥は頭に手を添え、顔を赤らめながらそうシャルルに伝える。


「えへへ、ありがとう」


 するとシャルルが恥ずかしそうに顔を逸らした時、俊弥は風の剣の他にもう一つのスキルのことを思い出した。

 それは鑑定というスキルだ、名前からして何かを鑑定するものだろう。

 例えば本物か偽物かとかそういうのを調べるものかもしれないが、もしかしたら服の値段も見れるかもしれない。

 俊弥は好奇心でその鑑定スキルを使ってみることにした。


「……鑑定」


 俊弥は二人に気付かれないように小さい声で言う。

 すると視界に服の値段が浮かび上がってきた。

それはまるで液晶画面が目の前にあるような感じだ。

 ぐるりと周りを見渡すと100ティルという安い物から100000ティルという高い物まで様々な値段がある。

 見た感じ安いのはTシャツ等の普段着で、高い物はドレス等が多い。

 一通り服の値段を見ると、俊弥の視線はシャルルへと移った。

 ルドガーと楽しそうに談笑するシャルルを見ていると、徐々に服の値段と合計金額が浮かんできた。


「……たっ、高い!!」


 思わず大声を出してしまった。

ハッと口を塞ぐ。

 いきなり大声を出した俊弥の事を二人は一体どうしたんだろうと視線を向けた。


「へ、何が?」

「? どうしたの」

「い……いや何でも」


 もちろん二人には何も見えていない。

俊弥は焦りながらも、精一杯の笑顔を二人に向けた。

 当然二人に不思議に思われながらも、俊弥はもう一度シャルルの服の値段を見る。


「…やっぱり85000ティルだ……」


 ここは王都らしいから服の値段も高いのが多いが、……まさかここまでとは。

 ……ブランド物をよく買っている人ならばそうは感じないのだろうが。

 俊弥は、あの少女から少しお金を受け取っている。

だがやはりそこは金銭感覚の違いだろう……。

 流石に俊弥が今まで買った服の値段が、約9万という金額は今まで見たことはない。


「じゃあシャルルの服が決まったみたいだし、さっさとお会計を済ませようか」

「え……ああそうだな」


 お金はどれ位あっただろうか。

もし足りなかったらルドガーにお金を借りれることが出来るのであろうか。

或いはローンを組める事が出来るのだろうかと、そう思いながらお金が入っている袋を出そうとしたら


「今回は僕が払うよ。子供に大金を払わせるわけじゃいけないし」


 その言葉を聞き、俊弥は目を見開く。


「え…いいのか?」


 俊弥は多分服を払える程の金額は持っていないであろう。

……いや、確か持っていたような気もするが。

 変わりに払ってくれるというのは嬉しいことだが、それと同時に申し訳ない気持ちだ。

 そして後一つ気になる言葉が


「あっあのさ俺、そこまで子供じゃないからな。これでも十六歳だ」


 身長はこの世界の平均もよりも少し低いかも知れないが、子供扱いされてぷくっと頬を膨らませそう言葉をもらした。

 この世界では何処までが子供なのかは知らない。

だが10歳で大人扱いされるアニメがあったと、記憶の片隅にある記憶を掘り起こす。


「そっか、でもまだ成人年齢じゃないね。だからこういう時には甘えてもいいんだよ?

知ってると思うけど成人は二十歳だからね。

でも村や国によっては十六や十七歳で成人のところがあるけど」


 成人が二十歳と言うのは日本と同じのようだ……まあ例外はあるようだが。

俺の事を子供と言っているのなら……もしかしてルドガーは成人しているのだろうか。


「ルドガーって、もう成人しているのか?」


 とても成人男性には見えないが。


「ん、僕は十八歳だよ。僕が住んでいた場所では十六歳で成人だから、一応成人しているという事になっているけど……?」

「そ、そっかぁ」


 まさかとは思ったが、村や国の規定の差で、たった二歳差で一応成人扱いらしい。


「シャルルあの服はどうする? 要らないなら処分してもらうけど」


 思い出したかのようにルドガーは、シャルルに問いかけた。


「えっと、持ち帰りたいの。また着るかもしれないの。だから……」

「そっか、じゃあ持ち帰ろうな」


 俊弥は店員さんから袋に入れられた、服を受け取る。

 外にでると「またのご利用をお待ちしております」とぺこりとお辞儀して笑顔で見送ってくれた。

 紙袋の大きさから、知らないうちにいくつか服は買っていたようだ。


「じゃあ家に向かおうか」


 服屋から出て少し歩くとそう言うルドガー。


「本当に悪いけど……。ルドガーの家ってここらへんなのか?」

「家は森の方にあるんだ。ここからだと少し時間がかかるかな?」


 ルドガーの話によると家は、ここから少し離れた森の方にあるらしい。

 俊弥は森の中に家があるのは夏は涼しくていいかもしれないが、虫が沢山いそうな気もする。


「森の方? 私が住んでいた場所も森の中なの」


 シャルルがそう呟くように言うと、ルドガーは意外だったのか少し驚くような表情をした。


「そうなんだね。僕は最初森の中で暮らすのは少し反対だったけど、いざ暮らしてみると案外暮らしやすくてね」

「反対していたのか、じゃあなんで」

「今一緒に暮らしている同居人がね……森の方に暮らしたいって言ってね。だからかな?」


 口元に手を添え、微笑みながらルドガーは言葉を発した。


「そっか、ルドガーはその同居人には結構甘いんだな」

「あははは……そうかもしれないね。なんというか、ほっとけなくて」


 そんなにほっとけない程の同居人とは一体どんな人なんだろう?

もしかしたら、かなりの天然で鈍臭い子なのかな。

 俊弥は密かにそう思っていた。

 話をしながら歩いていると、真ん中に噴水がある広場のような場所に出てきた。

 服屋に行く時は明らかに、この場所は通っていない。


「ここが広場で、丁度スフィラの中央に位置する場所だよ。僕達は裏通りから来て、そしてあちらは城だね」


 ルドガーが指さした方向は、遠くであるがお城が見えている。


「お城なの!?」

「そうだよ。王等この国の一番偉い人達が、住んでいる場所だよ」

「城か……。あのさ……さっき裏通りから来たと言っていたが、あまり裏通りって感じはしなかったよな。ここより人が少なかったが、裏通りにしては人多かったし」


 思い出すと結構露店があったし、人通りが多かった。


「そうだよね。裏通りにしてはお店もあるし、あまり裏通りとは感じないよね。

でも今いる場所が表通りで、裏通りよりは道も広くお店も沢山あるでしょ? 多分裏通りはここよりは道も狭く民家が多いから、それで裏通りって呼ばれているだけかもしれないね」

「そうなのか」


 俊弥が辺りを見渡すとコンクリートではなく、細かく塗装されたタイル張りの道。

レンガ造りの街並みが目に入る。

 先程から気になっていたが用水路なのか、所々水が流れているのと、数センチ程の水が溜まっている場所もある。

 その風景を見た俊弥は、つくづくここは自分が住んでいた世界とは違うんだな……と感じた。


「んー今日は…………が帰ってくるから、うーん夕飯はどうするか。でもまずは昼ご飯だよね……軽食でも平気かな」


 途中何を言っているか聞こえなかったが、どうやら今の言葉からにすると昼ご飯と夕飯の事らしい。


「昼ご飯なの?」

「うん。そうだ、ねえシャルル。何か食べたい物とかある?」


 ルドガーは腰を低くし、シャルルにそう尋ねる。


「食べたい物?」

「そうだな。ルドガーには悪い気がするが、シャルル何かリクエストしたらどうか? たまにはパン以外のを食べたいだろうし」

「もしかして、パンばっかり食べていたの!? それじゃあ栄養が……」


 えっ!? と、ルドガーは吃驚する。

 そうだ、ルドガーは医者だったのだ。

人一倍健康には気を使っているはずだ。

 そしてシャルルは見た目年齢だと、まだ成長期。

栄養には気を遣わなくてはいけない年齢なのだ。


「いやぁ、俺は料理が作れる程器用じゃないし」


 まさかシャルルが閉じ込められていました。

だからパンばっかり食べていたんです!

 ……なんて言える訳がない。

 弁解しようと口を開いたが、ただの言い訳にしか聞こえなかった。


「いやでも、見た感じシャルルは今成長期なんだから、何かバランスがいい物を食べさせた方が……」


 俊弥とルドガーが話をしていると、シャルルから食べたい物のリクエストが入る。


「食べたい物は……甘い物なのです!!」


 俊弥とルドガーはきょとんとする。

 ハンバーグやカレーライス等の子供が大好きな料理とされている食べ物を言うと思っていたが、シャルルは甘い物が食べたいらしい。


「え……甘い物? それってデザートだよね。……だったら食後でいいよね?」


 そう確認するように訪ねると


「……今すぐ食べたい、の」


 拳を握りしめ、ぐっとルドガーの顔を見つめていた。


「今すぐって……ルドガーここら辺ってケーキ屋とか無いよな」

「確かに近くにはないけど、家には僕が昨日の夜に作ったアップルパイならあるよ」


 アップルパイと言う単語を聞いた途端、シャルルの瞳がキラキラと輝き出した。


「アップルパイ? それって甘い物なの!?

今すぐルドガーの家に行って食べたいの」

「んーしょうがないな、じゃあ夕飯はしっかり食べてね」

「はい!」


 諦めたかのようにそうシャルルに伝えると、笑顔を浮かべて元気よく返事をした。


「……何かごめん」


 服を買ってもらい、家に泊めてくれるというだけでも有り難い事なのに……。

迷惑をかけてしまった事を謝るが、本人は至って気にはしていなかったようだ。


「いや大丈夫だよ。でも甘い物好きって彼と同じだな~って。じゃあ夕飯はサラダと焼き魚とちょっとした肉類と……後はスープを作れば平気かな。

でもな……は、きっと嫌がるかな」

「え? 誰がーー」

「俊弥! ルドガー! 早く家に帰るの!」

「あっシャルル! 走ったら転ぶよ。ほら俊弥、早く行くよ」

「あ、うん」


 俊弥がルドガーに尋ねようとした時、シャルルの言葉によりそれはかき消された。

 だが俊弥はまた後で聞けばいいかと思い、シャルルとルドガーの後を追った。



 王都の中心部から少し離れた場所に、森にへと入る為の階段が存在していた。

 その階段を降りて少し進んだ所に、一軒の家がそこに存在していた。


「ここが、僕の家だよ」

「おっきい……」

「うん確かに」


 家の外見は街で見た家と同じような造りである。

 それから森といっても足場は悪くはなく、虫もいない。

 そして心地よい風が吹いてくるので、住みやすそうだ。

 スフィラの中心部からは歩いて約十五分程なので、あまり買い物にも困らなそうだ。


「じゃあ入ろうか」


 ルドガーが鍵を開けた。

中に入り玄関で靴を脱ぎ、リビングへと繋がる扉を開けた。

 すると白を基調とした部屋が目に入る。


「わぁ広いなの!」

「確かに、この窓もかなり大きいサイズだな」

「そう?」


 ルドガーは普通と思っているようだが、これはどう見ても普通ではない。

 まず玄関の先にある扉を開けると、大人数でも入れる程の広さのリビングが目に入る。

窓も大きく、開ければ心地よい風が入ってきそうだ。

 そして白色のソファーが二つあり、丁度中心にはローテーブル。

そのソファーとは他にも座る所があり、少し離れた場所にテーブル席と椅子がある。

 それから何故か左側の開きっぱなしの扉を不意に見ると、ピザを焼くような大きな窯と焼き菓子を焼くオーブンがある。

キッチンもシステムキッチンのようで、道具も一式揃っているが、キッチンと冷蔵庫や戸棚は扉の近く……リビングの方にもあった。

 何故キッチンが二つあるのだろうと思いながら、ルドガーの近くまで歩く。

 それから右側にある扉をルドガーが開くと、そこには幾つかの扉と階段がある。


「ここはお風呂場やトイレそして物置がある部屋だよ。それから二階はそれぞれのプライベートな部屋があるよ」


 淡々と話しているが、俊弥には部屋と思われる扉の数が多いように感じた。


「なんか、かなり部屋数が多くないか?」

「やっぱりそう思う? でも、一階にある殆どの部屋は書斎や僕の研究資料とかでね」


 ルドガーは苦笑しながら説明する。


「アップルパイ……?」


 ルドガーの服の裾を引っ張るシャルル。


「あっシャルルちょっと待って、今切り分けるから。二人は座って待ってて」


 ルドガーは足早にキッチンの方へと、向かって行った。

一方の俊弥とシャルルは、ソファーの方ではなくテーブル席の方の椅子へ腰をかけた。


「はい、どうぞ」


 コートを脱いだルドガーは、二人の前に切り分けたアップルパイを並べる。


「ありがとうなの」

「ルドガー色々とごめんな」

「いいよ別に。はい、シャルルはオレンジジュース」


 ルドガーと出会ってから謝っている事が多い気がしながら、俊弥はルドガーから貰った飲み物を口に含む。


「これは、もしかしてレモンティー?」


 程よい甘さが口の中に広がり、甘い物が特別好きではない俊弥にとっては、とても飲みやすいレモンティーだ。

 昔にも飲んだ事があるが、そのレモンティーは苦過ぎたり甘過ぎたりと、とても飲めるような代物ではなかった。


「うんそうだよ。……もしかして、口に合わなかったかな?」


 不安そうに訪ねてきたが、口に合わなかった訳ではない。

 違うと首を横に振った。


「いやっそんな事はないよ、あ……このアップルパイ美味しいな」


 ぱくりとアップルパイを口に含む、アップルパイも甘過ぎず程よい甘味だ。

 ルドガーが出してくれたレモンティーとよく合う。

 皆はアップルパイを食べながら、色々と談笑した。

 気がつくと、そろそろ夕方へとなる時間帯になっていた。


「んー遅いな、ちょっと電話するね」


 ルドガーは携帯電話を取り出し、とある番号へと電話をかける。


「…………あっもしもし、ちょっと今どこにいるの? 今日帰ってくるって言ってたじゃない。

……へ? そこって家と反対方向だよ。

ははっ、相変わらず方向音痴だね。

……うん分かったじゃあ夕飯支度して待っているから、早く帰ってきてね」


 そして電話を切った。


「今の電話の相手って……」

「うん、一緒に暮らしている同居人。相変わらず方向音痴でさぁ。でもそろそろ帰ってくるし、僕は夕飯の準備するから適当にくつろいでいて。なんならテレビを見ていても構わないよ」

「テレビなの!? それは何なの?」

「多分これがリモコンかな。……おっ付いた」


 テーブルの上にあるリモコンを操作すると、ピッとテレビがついた。

 二人は椅子からソファーへと移り、テレビを見る。

 俊弥の右側にシャルルが座り、何となくチャンネルを回していると、とあるニュースが目についた。


『現在ここは立て続けに謎の死を遂げる者が多い街の近くです。ここは王都スフィラより南に十五km程離れている場所にあり、スフィラに暮らしている住民からは不安な声があります』


 殺人事件とは出てはいないが、人がかなり死んでいるらしい。

 背筋にゾワッと悪寒が走る。


「ルドガーこの事件、スフィラの近くの街みたいだな」


 当然知っているのだろうと思いながら伝えたら、返ってきた言葉は意外な言葉だった。


「え? そうなの、知らなかったな」


 扉の奥の方のキッチンではなく、リビングにあるキッチンの方にいたルドガーは、冷蔵庫で食材を取りながらそう言った。

 するとテレビは住民へのインタビューへと変わった。


「私見ましたの、見知らぬ大柄な男性達が事件が起こったとされる時間に、街から急いで出ていく現場を……」


 そう答える女性は顔がモザイクかかっており、声も女性の身を守る為に加工されていた。


「この事件は絶対に危険なの」

「そうだな……」


 俊弥もシャルルも直感だが、危険と感じた。

 そんな中、俊弥が日本と同じような作りのニュース番組に、ちょっと感心を覚えていると玄関が開く音が聞こえた。


「ん? 帰ってきたのかな」


 帰ってきたのはきっと、ルドガーの同居人だろう。

 いったいどんな人なんだろうと思っていると、足音が次第に大きくなり、リビングの扉が開く。

 扉を開けたのは、緋色の髪に空色の瞳そして暗赤色のコートを着ている少年。


「ルドっ……!!」


 だがその扉を開けた張本人は、俊弥とシャルルの存在に気付くと、驚愕した様子で固まっていた。

 もしかして、見知らぬ俺達がいるから吃驚しているのか? と、感じた俊弥は事情を説明しようとした時、緋色の髪の少年が口を開いた。


「こいつら一体誰なんだよ……!!」


 先程の驚き顔から一転、一気に不機嫌そうに仏頂面した緋色の髪の少年は、二人を睨みつけるようにジッと見た。

 一方の俊弥は事情を説明したいのだが、緋色の髪の少年の目力と不機嫌オーラのせいで口を少し開いたまま固まっていた。

 そんな重苦し雰囲気の中、ルドガーがキッチンから緋色の髪の少年に話しかけた。


「あっレドお帰り、ご飯はもう少しでーー」

「レド……?」


 シャルルは目を見開き驚いた様子で、レドと呼ばれた緋色の髪の少年の名前をそっと呟いた。

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