“トリカゴ”の少女
「とにかくこの場から離れるか……でも」
俊弥の視線の先はおそらく、ただ一つしかないこの場から離れるたった一つの手段。
百段以上あると思われる長い階段。
その階段は所々崩れかけており、この上を歩くことは勇気がいるのであろう。
……しかしここで渋っていてもしょうがない。
俊弥は覚悟を決め、階段へと足を運んだ。
一段一段慎重に降り、たまに階段の一部が少し崩れ落ちたりしたが、なんとかあの長い階段の終わりが見えた時ーー
バキッ!
丁度、俊弥の片方の足を乗せてた階段の一部が崩れた。
「ーーえっ!」
俊弥はギョッとした。
「ちょっーーーーっ!!」
すると、まるでヘッドスライングをしながら滑る様に階段を滑り落ちる。
ズドンッ! と大きな音を立て倒れ込み、そしてゆっくりと起き上がる。
今まで階段を滑るように降りたのは、体験したことがないことだ。
これが、ウォータースライダーだったら楽しいと思ったのだろうが、先程のは楽しいというより、ただズキズキと痛いだけだ。
「くっそ……身体中が痛い。しかしここは、森の中なのか」
服についた汚れを払いながら周りをぐるりと見回しても、やはり木……木……木ばかりである。
先を見てもただ森が広がっているだけであり、とても人が暮らしているとは思えない場所だ。
「……こんな辺鄙な場所からどうやって、人が住んでる街まで行けるんだろう」
溜め息をつくと、出口を探す為に俊弥は歩き出した。
◇
「……そろそろ日が暮れてきたか……」
あれからずっと歩いていたが、一向に出口どころか村でさえも辿り付けずにいた。
風がどんどん冷たくなり、空はまだ青いがそろそろ日が暮れるであろう。
野宿は勿論、避けたい所だが。
時折獣の声が聞こえたり、鳥の羽ばたく音で吃驚しながらも歩き続けていたからか、体力的にも精神的にも疲れ果てていた。
ーーその時。
「……歌声?」
俊弥の耳には、確かに少女の歌声が聴こえてきた。
その歌声はどこか、懐かしさを覚える。
俊弥は何故が近くに村があると感じ、歌声が聴こえる方へと足早に進んだ。
聴いたことがないはずなのに、何処か懐かしい。
何とも言えない感情が、俊弥の胸のうちで広がる。
「教会……?」
俊弥がたどり着いた場所は、古びた教会。
……いや、屋敷のようだ。
周りの塗装は剥がれ落ちている部分や、蔓が壁のあちこちに張りついている。
一見もう誰も住んでいないように思える。
それから先程まで聞こえていた歌声が、一切聴こえなくなった事を不思議に思った。
けれどそんな考えはすぐ吹っ飛び、扉を開ける為古びているドアノブに手をかけた……その瞬間
突如、体が重くなりふらりふらりと体が揺れ、視界がブレる。
……あれ?
一体何故なんだろうと考える暇もなく、平衡感覚が失った体は、ふらふらと足が動いた後、地面へと倒れた。
そして、意識が遠のいていった。
◇
「………ぇ…」
声が聞こえる。
とても優しい声で、それから何処かで聞いた事があるような……そんな気がする。
重い瞼をゆっくり開け見えたのは、ふわぁっと風によりなびく綺麗な銀髪の髪の毛。
「ねぇ、大丈夫……なの……」
「ーーえ?」
視界に映る者は、俊弥の事を心配な面持ちで見ていた。
その時、違和感を覚えた。
けれど、その違和感はどう言葉に表していいのか分からない。
だが、目の前の人物なんて知らない。
……知らないはずだ。
「よかった。外に出たら、君が倒れていたの」
「倒れてた? ……俺が⁉︎」
体を起こし、目の前の少女と顔をあわせる。
綺麗な銀髪、まつ毛が長く大きな灰色の瞳、それから服は薄く水色が混ざっている白色のワンピース。
「そうなの」
まるで天使のような微笑みを浮かべる少女を見た時、初めて会ったような気はしなかった。
「……君の名前、は?」
気がつけば、そう口に出していた。
目をぱちくりさせた少女は、笑みを浮かべながら名前を口にした。
「私の名前は……ル、シャルルって言うの。君は? ……君の名前は?」
ふわっと、思わず見惚れてしましそうな笑顔を浮かべるシャルル。
「俺は、俺の名前は……俊弥って言うんだ」
この世界では、萩原という姓はきっと名乗らない方がいいだろう。
でも、それでいいんだ。
あの少女が大変だよ、と言っていたからと言う訳では無い。
あんな家の姓なんていらない。
名前はないと困るが、姓なんて無くても困らない筈だ。
「俊弥は、なんでこんな場所に倒れていたの?」
「え、それは……その、何て言えば」
言葉を濁していると、俊弥の後ろから段々此方の方に近づいてくる足音が聞こえた。
それに、ピクリとシャルルは反応する。
「俊弥、ここにいたら危ないの」
突然、腕を引っ張るシャルル。
一体何が危ないのかと思ったが、まさか魔物が近づいてきているのかと思うと、俊弥はシャルルが引っ張っている方向へと足を進めた。
その方向は、俊弥が開けようとしたあの屋敷だ。
扉を開け屋敷の中に入ると部屋の中は薄暗く、本が出しっ放しだ。
それから生活感はあまり感じられないが、本棚が多い印象であり、この部屋を照らしている明かりは俊弥の身長よりかなり高い位置にある窓からだ。
「屋敷の中に入れば平気だと思うの」
俊弥の腕を手から離し、くるりと向くシャルル。
「そうなのか」
「うん、でも俊弥は今日はもう帰れないかも。そろそろ村の人が畑から戻ってくるの」
「え、なら危ないって言ったのって」
シャルルは頷く。
もし、よそ者の俊弥が村の中にいたら警戒されるか、あるいは不法侵入として罰せられるかもしれない。
そう感じた時、背筋にゾッと虫が這っているような思いだ。
あの時、シャルルが機転を利かさなかったら俊弥はどうなってしまっていたのだろうか。
「シャルル、ありがとう」
俊弥はお礼を述べた。
しかしシャルルは瞳を伏せた。
「でも、俊弥が家に帰れない……の」
申し訳ないような表情を浮かべているシャルルの頭に、ポンっと手を乗せた。
顔を上げたシャルルは大きな瞳を見開き、一方の俊弥は、シャルルを安心させる為にか笑みを浮かべた。
「大丈夫、家はここら辺じゃないんだ。すっごく遠いんだ、だから心配無用だよ」
いや、そもそもこの世界にはないのだが。
「ありがとう、なの」
シャルルは安堵した様子で、そう述べた。
その様子を見て色々と安心しかけた俊弥だったが、シャルルの思いもしなかった一言が耳に届いた。
「私ね、外に行きたいの。もう、ずっと外に出ていないの」
寂しそうな表情を浮かべているが、俊弥にはある疑問が浮かんだ。
「どういうことだ? シャルルは、さっきまで外に……」
「私もよくわからないの。でもあの時、鍵が開く音がしたの。中からは鍵は開けられないから、誰か来たと思って……でもいつまでたっても誰もこないから、開けたら……」
「俺が倒れていたというわけか」
俊弥の言葉に頷くシャルル。
見た目が十二〜十三歳のまだ子供のシャルルが外に出たいということは、閉じ込められているということなのか。
だとしたら、可哀想だ。
自由に外に出られず、ただひたすら一人屋敷にいるというのは孤独だっただろう。
「なんでシャルルは……」
「……だから」
「え?」
「私が、“天の巫女”だからだよ」
一瞬、何を言っているのかはわからなかった。
天の巫女、それは一体なんだろうか。
巫女というのは、神社にいる巫女の事だと思うが、天というのは一体。
「私もよくわからないの、でもこの場所で崇められているの」
「……なんだよ、それ」
ググッと拳を握り締める。
俊弥の中では、怒りでいっぱいだった。
大人の勝手な都合で、シャルルの意見を聞かずに閉じ込めているという事が。
「俊弥? 怒っているの」
「当たり前だろ!! こんなの勝手過ぎるだろ!!」
大声を出した俊弥に吃驚し、ビクッと体を震わせたシャルル。
それを見た俊弥はハッとし、ごめんと呟いた。
「ううん、いいの」
「でも、シャルルは外に出たいんだろ」
今度は大声を出さず、優しく問いかけた。
「……うん、自由になりたい。外にでたいの。外に出て、小鳥みたいに空を羽ばたいて行きたいの!」
シャルルは胸元に手を当て、俊弥に思いをぶつけた。
今のシャルルは、小さな鳥籠に囚われている小鳥のようだ。
だから、誰かがその鳥籠を開けなくてはいけないんだ。
そう感じた時、勝手に口が動いた。
「なら俺が、シャルルを外に連れて行く」
俊弥の言葉を聞いたシャルルは、驚きの表情を浮かべた。
「でもーー」
「明日、村の人達が畑に行った後……俺と一緒に外に行こう。俺がシャルルを必ず外に連れてくよ」
手を差し伸べ、優しく笑みを浮かべた。
一方のシャルルは、俊弥の顔を見つめながら固まっていた。
あれ!? な、何も反応がないっ
え、と……これは一人で盛り上がっている状態なのか!?
手を伸ばしたまま、この状況をどうしようと、思っている時
ポタリ、とシャルルの瞳から涙が溢れ出てきた。
「……しゃ、シャルル!? 俺、何がまずいことでもーー」
「……違う、の」
絞り出したかのように、か細い声。
「わ、私……嬉しいの、今まで……こんな事言ってくれる人がいなかったの、だから……」
手で涙を拭う姿は、夕日の明かりできらきらと輝いてた。
「……シャルル」
俊弥はもう一度手を差し伸べ、口を開いた。
「俺と一緒に、外に行こう」
俊弥がそう言葉を述べると、シャルルは……
「はいっ!」
涙を浮かべながらも、満面の笑みで手をとり、そう答えた。
……そう、これが始まりの出会いだったんだ。
シャルルと出会い、これから待ち受ける数々のあまりにも残酷な現実が待ち受けてることは、まだ知る余地もなかった。
◇
シャルルを外に連れて行くというのは、決定事項だ。
外は日が傾き、少しずつ夜へと変貌を遂げていく。
部屋の明かりをつけ、周りを見る。
多少本が散乱している感じはするが、屋敷の外見とは違い案外綺麗である。
「……えっと、俊弥?」
「ん? シャルルどうしたんだ」
振り向くと、手に白いパンとジャムだと思われるビンを持っていた。
「ご飯ね、これ位しかないの……」
「いや、いいよ。でも、どっから持って来たんだ?」
そう訪ねると、シャルルはある方向へと指差した。
その方向は、他の一般的に長方形の形ではなく、円を半分にした半円の形の扉だ。
その扉をゆっくり開けると、木箱や何かの袋が積まれていた。
「これ、全て食料なのか?」
シャルルは頷く。
「うん、でも白パンやジャムばっかりなの。あっ、そこの袋は毛布が入ってるの」
シャルルが言った通り、木箱の中には白パンやジャムのビンばっかりだった。
匂いや見た目から見て新鮮だ、もしかしたら冷えてなくても鮮度を保つ何らかの魔法でもかかっているのだろうか。
周りを見ても、シャルル一人ではとても食べれない量がある。
「なあ、シャルル」
「ん?」
「この食料や毛布は、少し持って行っても平気か?」
そう訪ねると、シャルルはきょとんとしていたが、持って行っても平気だと言う。
「でも、どうするの?」
「それはな、明日からの食料にするんだ」
明日、村から出ても次の村や町までどれ位かかるかは分からない。
もしかしたら野宿も考えられる。
その為に、食料や毛布を確保しておく必要があるのだ。
食料や毛布を入れる為に、あの少女から貰ったあの袋をポケットから取り出す。
食料は難なく入るが、毛布は大きさ的に入らないのか感じたのだが、大きな物を入れる時は袋の口が大きくなるようで難なく入っ
た。
それからいくら入れても袋は一杯にはならない。
あの少女が言った通り魔法袋なんだろうと思ったが、真っ先に浮かんだのはやはり某四次元ポケットであった。
食料庫から出ると、二人は近くにあったテーブルに食料を置き、椅子に腰掛けた。
ジャムはイチゴであり、それを白パンに塗る。
それから口に含むと、ジャムの程よい甘さと柔らかい白パンが絶妙な美味しさを生み出した。
「シャルル、美味しいか?」
そうシャルルに問いかけると、シャルルは笑みを浮かべながら頷いた。
きっとシャルルは、今まで食してしたものの殆どは白パンとジャムばっかりだった筈だ。
栄養バランスが悪いだろうし、成長期なら尚更だ。
この村から出たらシャルルに、何か美味しい食べ物を食べさせようと、白パンをかじりながら俊弥は思った。
「ねえ、俊弥」
「ん?」
食事中シャルルは、なんの前触れもなく口を開いた。
「俊弥は、今日泊まっていくんだよね」
「そうだけど、もしかして部屋のことか? 俺ならソファーでも」
「ううん、二階の部屋が空いてるの。だから、そこを使って……」
シャルルの言葉を聞き、部屋の周りを見るが二階どころか階段が見当たらない。
一人頭にはてなマークを浮かべていると、シャルルはある本棚の前に足を運んだ。
一体何をするんだと思っていたら、シャルルは一冊の赤い本を取り出した。
すると、ゴゴゴと低い音が鳴り、本棚は横にスライドするように動いた。
本棚があった場所にはまるで隠し通路のように、二階へと続く階段が存在していた。
「こんな仕掛けがあったのか。シャルルも二階にーー」
「私は行かないの」
言葉を言い終わる前に、シャルルはそう言った。
「私は、ここにいるの。俊弥一人で行って。いくつか部屋があるけど、今はその一つが寝室なの」
そう言葉を発したシャルルは、どこか悲しげだ。
もしかしたら二階には、シャルルが行きたくない理由でもあるのだろうか。
そう感じた俊弥は、シャルルを連れて行くのはやめる事にした。
食事が終わると、シャルルは俊弥にお風呂の場所を教えた。
洗面所からお風呂場を覗くと既にお風呂が沸いており、もしかしたら何かの魔法で沸かせたのだろうと思った。
俊弥はすぐさま浴槽に入り、1日の疲れを取る。
「今日は色々な事があったな…」
突然夜中に人が訪ねてきたかと思えば、気が付けば異世界へと転送されているという。
とても体験出来ることではない一件だ。
「皆、俺がいなくなってどうしてるかな。……いや考えるのはやめとくか」
そう自分に言い聞かせて、これからの事を考える。
シャルルを連れ出した後、何処に向かうのかだ。
シャルルはまだ俊弥よりは子供で、尚且つ閉じ込められており体力もあまり無いだろう。
きっと野宿は危険を伴う。
俊弥自身何かに行使する手立ては殆どない。
そもそも外に連れ出すという事は、シャルルの保護者は必然的に俊弥となる。
それに加え、この世界の常識を知らない。
それは後々少しずつ情報を集めるとしても、当てのない旅となる。
なにか目的があればいいのだが、目的というのが中々浮かばない。
俊弥は考えが纏まらず、そのままお風呂から上がった。
服や下着は仕方なくそのままだがお風呂にも入り、まだ早いかもしれないがお休みと伝え、開きっぱなしであった本棚の中の階段へと一人足を運ぶ。
ちょうど後ろでまたゴォォと音がし、本棚が元の場所へと戻った。
その時本棚を内側から開ける方法を知らない事に気づき、後ろを向く。
するとそこには紅いレバーがあり、それを下に下ろせば本棚が動く仕組みになっているようだ。
俊弥は安堵し、薄暗い中階段を上っていった。
◇
二階に着くと扉が四つある。
その一つを開けると、どうやら寝室のようだ。
長年使われていないのか所々埃がかぶってはいるが、寝るのには問題はないだろう。
「ん? なんだこれ……写真」
ふとベットサイドに視線を移すと、そこには一つの写真が置いてあった。
誰の写真なのか気になり手に取る、かなり汚れていてよく分からないがそこには二人の子供が写っていた。
擦ると一人の顔が見えた、そこに写っていたのはーー
「……シャルル?」
そこには笑顔で写っている銀髪の少女がいた。
隣の子の手をしっかりと握っている様子から、仲が良かったのだろう。
しかしどう見ても、写真に写っている銀髪の子はシャルルにしか見えない。
だが写真の様子からではこの屋敷で閉じ込められている様子ではない。
もしかしたら、この後に閉じ込められたのか……俊弥は隣の子の顔を見ようと擦るが、隣の子の顔は汚れが酷く見れないが、髪の色は赤系等の色だということはわかった。
髪の長さは胸元位までなのを見ると、もしかしたら女の子なのだろうか。
シャルルはこの写真があるのを知っていたから、二階に行きたがらなかったのか。
いや……それだけではないような気がする。
もしも二階に一緒に写っていた子が暮らしていたのなら、シャルルが行きたがらなかった理由になるのでは……。
「もしかして、この子はもう既に亡くなっているのか? シャルルはその事を思い出したくないから、行きたがらなかったのか……?」
俊弥は色々と気になる事があるが、誰にも知られたくない秘密があるものだ。
このことを考えるのは、やめることにした。
そして気分転換に、別の部屋に行くことにした。
寝室から一番近くの扉を開けると、そこには尋常ではない程の多くの本があった。
殆どは数多くある本棚でさえも入りきらず、床に積み上げられていた。
その中の一つ手に取り、中を開くと文字は慣れしたんだ日本語だ。
「んー……っ言葉は日本語と同じ様だな。良かった。いや……シャルルと話せる時点で、そうなるか」
時間を持て余していたのと、この世界について分かることがあるのではないかと思った俊弥は、本を読み始めた。
「これは……数式の本、こっちは……何語だ? ……ん、これは」
俊弥の目にとまったのは、この世界の名前でもあるティーアという題名の本。
中を見ると、あの遺跡で会った少女が言っていた種族の事が書いてある、そのまま本を捲っていると暁の名を持つ者という項目に目がとまった。
その項目を読み進めているとその者は、昔この世界を滅ぼそうとしていたらしい。
種族は天族で髪の色は暁色、眼の色は紅色でこの事件が起こったのは千年前とかなり前の事件である。
「……この事件の後、紅髪紅眼の人物…通称紅色を持つ者は災いとなりーー
……この後は汚れて見れないな」
その後も色々と本を読み漁っていたが、大体の本が汚れやページの破損で、最後まで見れるものはほぼなかった。
本を閉じると、不意に眠気が襲ってくる。
俊弥は盛大なあくびをしながら寝室へと向かい、ベットにダイブした後すぐに意識は夢の世界へと旅立っていった。
◇
「……ん……んんぅ」
朝、鳥のさえずりにより目が覚める。
時間は分からないが窓から覗くと、まだ朝早いのは確かだ。
「ふあぁぁ、まだ眠いな。
だが、早く下に降りて準備しないとな」
今日はシャルルと一緒にこの村から出る日だ。
色々と準備する為に起き上がった時、下の方から物音が聞こえた。
「シャルル……?」
俊弥が呟いた時、下の方から何やら言い争っている声が聞こえる。
それは誰が聞いてもシャルルの声ではなく、大人の声だ。
声から殆どが男性と思える。
こんなにも二階まで声が聞こえるのなら、一階ではかなりの大声だと思われる。
俊弥はシャルルの状況を考えるといてもたってもいられず、慌てて一階へと続く階段へと足を進めた。
向かっている時、今日村から出る事を勘付かれたのではないかと思いながら。
◇
「シャルル!!」
「だからっ、知らないの!!」
「そんな事はないだろう! この場所に侵入者がいることは、もう確認済みだ」
俊弥が本棚をどかし、シャルルの名前を呼ぶ。
しかしそこには、シャルルと複数人の男性がいる。
侵入者と言っているところから、シャルルは侵入者とされている俊弥のことをかばっているのだろう。
そして本棚の音により、そこにいた者達は一斉に俊弥の方へと目線が向く。
これは……絶対に来ては行けなかった。
来ては行けないパターンだ。
少し考えれば分かるというのに……、もし勘付かれたとしたら助けに入りたくても、先ずは息を潜めて様子を伺うことが大事だ。
だというのに、自分から捕まりに行くようなことをするとは。
俊弥はしまったと思ったが、それはもう遅い。
「いたぞ! 侵入者だ。捕まえろ!」
「巫女様、ここは危ないです。早く安全な場所へ」
「いやっ、皆話を聞いてほしいの!! 皆の勘違いなの!!」
俊弥はその場にいた男性達に取り押さえられて、シャルルは騒動により駆けつけた女性達により外へと連れて行こうとされてる。
「……シャ、ルル!!」
「……俊、っ弥!」
二人が伸ばした手は届くことはなく。
シャルルは、どこかへと連れて行かれた。