異世界ティーア 2
「いっ異世界!?」
「そう、異世界だよ」
日本にはこんな遺跡のような建造物は無い。
だからなんとなくだがここは“自分がいた世界”と違う……と、そんな気がしていた……
が、どうしてもその事実を受け入れずにいた。
まるでゲームや小説の様に、全くの別世界に来てしまうなんて。
非現実的だ。
「ちょっと待ってっ! 君は俺をいっ、異世界に連れて来た者だろ。何で俺を連れて来たんだ?」
俊弥がそう言うと、少女は何のことかときょとんとした。
そして納得したかのようにポンと、手を叩く。
「……あーそういう事か。ごめん、それ私じゃないよ」
「へ……?」
それは一体どういう事なんだ。
どうやら少女の話によると、俊弥を異世界に連れて来た者は少女ではなく、少女の“双子の”兄で、少女はこの異世界の話と必要な物を渡しに来ただけだと言う。
だがもしこの少女ではなく、兄の方が俊弥の目の前にいれば……
きっとこの世界に連れてきた事を、分かる事が出来たのだろうか?
……いや、今はそんなことを考えている余裕なんてない。
「まあそんなことより、本題に入ろうか。
まずこの世界はティーアと言う世界で、種族は天族、魔族、龍族、獣族、亜人族、そして人族。君はもちろん人族だよ」
「この姿で人間ではなかったら、それはそれで怖いが……」
もし見た目は人間でも、この世界に来たせいで中身は魔物とかになっていたら、それこそ不安になる。
しかし、それはそれである意味かっこいいのではないのだろうか。
最強無敵な魔人とは、ゲームの中ではかっこいいイメージがある。
最初は世界中の人達に蔑まれ独りだったが、突然自分のことを肯定してくれる人が現れ、世界を変えていくとかそういう物語もあったような気がする。
そして、若しかしたらドラゴンの様に火を噴くことが出来るのかもしれない。
いや、このイメージは魔人ではなく、龍人だな。
俊弥がそう思ってるという事を知らず、少女は次の話に入る。
「まあそうだね。この世界では幾つかの大きな大陸があるの。
人族が住んでいる大陸ヴェネティア。
魔族が住んでいる大陸ディスヴァル。
龍族が住んでいる大陸ソディルム。
獣族が住んでいる大陸アスラフィム。
亜人族が住んでいる大陸ルーリアフォレス。そして天族が住んでいる大陸ユスティーナ。
でも大陸と言うか、世界と考えた方がいいかな」
「世界?」
「そうティーアの中での小さな世界って感じかな……」
「はぁ……」
大きな一つの世界に、小さな世界が転々とあちらこちらに存在している感じなのか。
一種の箱庭ゲームの様なイメージにも取れそうだ。
それなら一体、他の世界とはどんな風に繋がってるのだろう。
「んー別に、世界の事はこれでもういいかな。分からない事があったら、この世界の誰かに聞いてよ」
思考回路が一時停止した。
「え……誰かって誰だよ!俺この世界に知り合いなんていないよ!」
そうこの世界に来たばかりで、しかもほぼ一方的に話を聞かされたというのに、少女以外の人に聞けと言われても他にあてがないのだ。
「さあ、仲良くなった人とか? 」
少女は無責任であった。
それに、俊弥を連れてきた少女の兄の方も無責任だ。
何で連れてきたのか、理由くらい教えて欲しいものだ。
「だが、少し聞いてもいいか?」
「ん? いいけど」
「何で俺にこの世界のことを、あれこれ教えたんだ? 普通は教えないものだと思うが」
そう、漫画だとかアニメとかでも、こういうトリップとかは世界の事をあれこれ教えるというのは無いはず。
少しずつこの世界を知っていくのが普通だ。
この少女のように、つらつらと饒舌に話すことなんて無いに等しい。
勇者として召喚されたとかなら未だしも、俊弥自身は勇者だとかに選ばれる様な交通事件だとか、殺人事件とかには遭ってはいない。
なら……何で。
一方の少女は目を細め、俊弥に顔を向けた。
「……だって、この世界の住人じゃないってバレたら大変だよ?」
突然眼光炯々(けいけい)とした少女。
恫喝された理由でもないというのに、思わず俊弥はビクッと体を強ばらせた。
「……大変、って……」
ゴクッと息を呑む。
「むふふーー、さあ何だろうねぇ〜。
そんなことより外に出ようか。私が前を歩くからついて来てね。
はぐれたら探すのは私なんだから」
先程とは一転した様子に、俊弥は驚きつつも少女を追うように歩き出す。
少女は何やらどうでもいい小言を言っているが、そんな事より俊弥は先程の言葉の意味が理解出来ずにいた。
何か問題でもあるのだろうか。
考えに耽ていると、光が見えてきた。
ふわっと心地よい風が俊弥の横を通り抜ける。
俊弥の目の前に広がった光景は、果てしなく青い空に、ひたすら広がっている森の風景。
心が洗われる……そんな気持ちになる。
先程の考えていたことは、頭の中から吹き飛んでいた。
「外に出れたから話を進めようか。
そうそう、そこの階段をおりると森の奥に続く道に出るよ」
少女が指差した方向には、かなり長い階段が存在していた。
何メートルなんだろうか、もしかしたら十メートルはとうに超えてるのかも知れない。
現在、俊弥がいる場所は遺跡の外だ。
だが、その場所は高く、此処から降りる為には先程少女が言っていた階段を降りるしかない。
「じゃあ必要な物と、後……君の能力について話すね」
俊弥は少女の言葉に、首を傾げた。
「能力? この世界では皆、超能力とか持っているのか?」
もしそうであったら皆スプーン曲げ放題だな……。
俊弥の脳内には、マジシャンがスプーン曲げをしているシーンが思い浮かんでいた。
テレビでよく見ていたが、学校では力任せにスプーンを折り曲げている人が何人かいたなぁ……。
「……今どうでもいい事思っていなかった?」
「いや、別に……」
図星をつかれ、体をビクリを震わした俊弥。
まさか少女は心を読める能力があるのかと思いながら、やんわりと次の話へと進める様に言った。
「じゃあまず君の魔属性は炎
と風だよ。
基本的にはこの二つしか上手く使えないけど、鍛錬すれば他の属性も使える様になるかもね。
まあ魔属性は皆持っているものだけど、光はもう属性は存在しないって聞いたけど」
「光か……」
大抵この手の話は、たった一人失われた力を使えるというパターンが多い。
だが、魔属性を聞いたところそれは無さそうだ。
「後、君だけしか使えない能力があるんだよ」
「俺しか使えない、能力……?」
自分にしか使えない能力があるという事に、目をぱちくりさせた。
「聞きたい? 聞きたい?」
「へ?」
すると少女は目をキラキラさせ体を横に振りながら、俊弥の顔をジッとみてる。
その視線にうろたえながらも、口を開く。
「え……と」
「ん? なになに?」
少女の顔を見た時、確信した。
どうやら聞きたいですと言わないと教えてはくれないらしい。
俊弥は仕方なく聞きたいですと言うと、少女は嬉しそうに
「仕方ないな、そこまで言うなら教えてあげる」
と、満面の笑みで話し始めた。
「まずね、スキルと言う能力があるんだよ」
「スキル? ゲームとかにある設定か……」
俊弥がそう言うと、少女はそうそうと言い話を続ける。
「君が今持っているのは、鑑定と風の剣かな。君が強くなるとスキルが増えていくけど、ただ強くなるだけじゃだめだよ。後は特定の条件しか発動しない、スキル等があるよ」
ゲームのシステムと大して変わらないなと思いつつ、話を聞いている俊弥。
しかしただ強くなるだけじゃだめとは……どういう意味なのか。
「でね君はチートな能力を持ってるんだよ。その名はチートだけどチートではない能力“シェル”」
「……はい!?」
……ん? 今の言葉は聞き間違えだろうか。
シェルとは、貝殻という意味だった様な気が……。
俊弥は自分が聞き間違えかと思い、少女にもう一度言ってくれるように頼む。
少女は仕方ないなと言いながら、また先程のチートな能力について話し始めた。
……やはり聞き間違えではないようだ。
「なんだよ、その能力は!」
まさかの貝殻という意味の能力だとは。
「うーん、私もどんなものか分からないな…。あっこれ君にとって必要な物ね」
少女が渡してきた物は……
「剣と……袋のこれはお金か?」
「そう、剣は魔物とかと戦う時に。お金は物や食料、宿に泊まったりするときにね。
ちなみに銀貨、黒金、金が入っている筈だよ。お金の色と位は赤銅が1ティルで黒銅が5ティル、銅が10ティル、黒銀が100ティル、銀貨が1000ティル、黒金10000ティル、金は100000ティル、白金は1000000ティルね。
後ねそのお金が入っている袋には、ちょっとした物が入るよ。例えば武器とかさ、俗に言う魔法袋かな?」
俊弥は、まじまじと袋を見る。
小さめな袋にそんなに物が入るのかと思ったが、もしかしたら四次元ポケットの様な物だろうかと一人納得した。
「えーと。ありがとう、色々と教えてくれて」
俊弥はお礼を言う。
なんだかんだで、この少女は自分に色々と教えてもらったんだ。
俊弥が笑みを浮かべると、同じように少女は笑みを浮かべ
「いいよお礼なんて」
とそう言ってきた。
「じゃあ……」
「ん?」
「私もう帰るね。また会う時まで、萩原俊弥君」
突然の事に絶句した。
そして暖かい光に包まれ始めた少女。
「は、ちょっと待ってーー」
すぐ少女に手を伸ばすが間に合わず、少女は跡形なく消えてしまった。
「なんだよ、いきなり帰るって……。
……てか、俺はこれからどうしたらいいんだよっ」
俊弥はただ、その場に立ちすくむしかなかった。